遠い空のデネブ

雪鳴月彦

文字の大きさ
上 下
63 / 76
第五章:未来への兆し

未来への兆し 14

しおりを挟む
          5

「結局、俺らは蚊帳の外のまま終わっちまってたな」

「そうですねぇ。星咲先輩の勇気と行動力のおかげですよね」

 九条先輩が加わっての部活が終わり帰り支度を始めた頃、俺は既に帰宅していた九条先輩――もう暫くは忙しいためゆっくり部活には出られないと言われた――の席を見つめながら、改めて妃夏の功績を称える言葉を口にした。

「もしうちで部長を決めるとしたなら、星咲さん一択じゃない? 頼りになるし、最終選考に残るくらい実力も兼ね備えてるしさ」

「え? やだよ、部長とか。あたしは人をまとめたりするの苦手だし、まとめるよりもみんな一人一人がやりたいことを自由にやってほしいって考えだから」

 泉と守草にもリスペクトの言葉を貰い、勘弁してよと言いたげな困った顔で妃夏は右手をヒラヒラと横へ振って見せてくる。

「でも、いざってときの問題解決能力は頼りになりますよ。チート級です」

「えぇ……チートって、特殊能力じゃないんだから」

「いえいえ、九条先輩が抱えていたあんな深刻な問題を、あっさり解決しちゃうんですからチートです。わたしだったら、未だに様子見でオロオロしていただけでしょうし、そのまま卒業式まで何もできずに終わってたはずです」

「そ、そうかなぁ。あたしはただ、自分が思ったことをそのまま伝えただけなんだけどな」

 特別なことなんて何もしてないと首を傾げる妃夏の仕草に笑いつつ、俺は

「それができるってのが、すごいんだよ」

 と泉の発言を補強するように言葉を放った。

「一般的に、そんな風に言える人は少ないし。大抵は気を遣って何も言えなかったり、いざ声をかけようと思っても委縮して先延ばしになってなぁなぁになるもんだし。そういう部分に抵抗もなく、行動起こせる妃夏は俺でも凄いと思うぜ。普通に才能だよ、その性格は」

「マジかぁ。うーん……」

 これでもまだピンとこないままでいる妃夏を、微笑ましいものを見るように三人で眺めていると、部室の入口が開き有野先生が顔を覗かせた。

「みんなまだ残ってるの? そろそろ帰らないと駄目よ」

「あ、先生! 朗報です! 今日からまた九条先輩が部活に復帰しました!」

 先生を振り返ると、テストで百点を取った小学生並みのテンションで報告をする妃夏へ、有野先生は意味深な笑みを浮かべてコクリと首を縦に揺らした。

「ええ、知っているわ。さっき、九条さんが私の所に寄ってくれて、色々と事情を聞かせてもらったの。星咲さんには本当に感謝してるって、九条さん言ってたわ。お手柄だったわね。ありがとう、助けになってくれて」

「いえいえ、そんなあたしお礼言われるようなことはほんとに何もしてませんから。ちょっとさ、今日のみんなはあたしのことを買い被り過ぎてないかな?」

 有野先生にまでリスペクトをされ、いよいよをもって本格的に戸惑い始めた妃夏を全員で笑い、俺たちは帰り支度を済ませると一斉に部室を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...