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第五章:未来への兆し
未来への兆し 12
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そこまで話し、九条先輩はまるで焦らすような間を空けて言葉を止めると、瞬きすらせず数秒間まっすぐに妃夏だけを見つめる。
「……九条、先輩?」
さすがの妃夏もばつが悪くなったように身じろぎして、沈黙の間を嫌がるように言葉をかけた。
「話したわ。お父さんと。星咲さんが言ってくれたように、私の人生は私に決める権利があると思ったから」
「え……?」
一昨日、二人きりで話をした内容だろう。
妃夏のリアクションで、俺は良い方向に流れが変わったことを、この瞬間はっきりと確信できた。
「相手が親であろうと、夢を見つけるきっかけになった尊敬する人だろうと、私の未来をどうこうする権利はないものね。お父さん――佐々目僧次郎はあくまでも、私のやりたいことを気づかせてくれたきっかけ。そのやりたいことをどれだけ続けるかを決めるのは、全部私の自由。そのことをストレートに伝えたら、静かな言い合いになっちゃって、朝方までずっと意見が平行線でね。結局、一昨日の夜は一睡もできなかったわ」
だから昨日は、寝不足で部室に寄る余裕もなかったのよ。重ねてごめんなさい。
そう言って笑い、九条先輩はやっと妃夏から視線を逸らし俺や泉たちにも意識を向けてくれた。
「そんなこと、全然謝る必要はないですけど……お父さんとの話は、どうなったんですか?」
部室へ来なかったことを謝る九条先輩へ首を横に振って、妃夏は話の詳細を促す。
「才能がないことを認められないのは愚かなことだ。挑戦は人生において確実に重要且つ必要なものだが、どこかで見切りをつける覚悟もまた重要、それを私はわかっていない。自分の実力を客観的に認めろ。最後は、親の言葉が聞けないか、父親として、そして一人の作家としてお前のことを思って言っているんだ。……って、本当に色んなことを言われたわ」
父親とのやり取りを思い返してか、九条先輩はうんざりした様子で息を吐きだす。
「でもね、色んなことを言われて、気づいたの。ああ、私の追いかけていた人って、こんなつまらない人だったんだって。目が覚めるって、ああいうことを言うのでしょうね。そこからはもう、緊張や親に意見する後ろめたさは一切なくなったから、何も抵抗なく言いたいことが言えるようになったわ」
「それで、また創作を続けられるようになったってことなんですよね?」
九条先輩の雰囲気からして、悪い知らせを伝えに来たというのはあり得ない。
紆余曲折あって、父親を説得できた。
そういう話であることを信じ俺が声をかけると、九条先輩は得意気に口角を上げコクリと頷きを返してきた。
「ええ。ひとまず、予定通り大学には行くというのが最低条件にはなったけれど、創作は止めなくても良いしこの先も自分が納得するまで好きに続けて構わないってことで、話がまとまったの。まぁ、個人的には小説を学べる大学を選べなかったことが後悔としてわだかまりがあるけれど、そこは妥協ということにしてあげたわ」
「当然のことですよ! 創作なんて、モラルを欠いたような余程の問題作でもない限り、個人の自由なんですから。ここまで抑圧しようとするお父さんが間違っているんです!」
「……九条、先輩?」
さすがの妃夏もばつが悪くなったように身じろぎして、沈黙の間を嫌がるように言葉をかけた。
「話したわ。お父さんと。星咲さんが言ってくれたように、私の人生は私に決める権利があると思ったから」
「え……?」
一昨日、二人きりで話をした内容だろう。
妃夏のリアクションで、俺は良い方向に流れが変わったことを、この瞬間はっきりと確信できた。
「相手が親であろうと、夢を見つけるきっかけになった尊敬する人だろうと、私の未来をどうこうする権利はないものね。お父さん――佐々目僧次郎はあくまでも、私のやりたいことを気づかせてくれたきっかけ。そのやりたいことをどれだけ続けるかを決めるのは、全部私の自由。そのことをストレートに伝えたら、静かな言い合いになっちゃって、朝方までずっと意見が平行線でね。結局、一昨日の夜は一睡もできなかったわ」
だから昨日は、寝不足で部室に寄る余裕もなかったのよ。重ねてごめんなさい。
そう言って笑い、九条先輩はやっと妃夏から視線を逸らし俺や泉たちにも意識を向けてくれた。
「そんなこと、全然謝る必要はないですけど……お父さんとの話は、どうなったんですか?」
部室へ来なかったことを謝る九条先輩へ首を横に振って、妃夏は話の詳細を促す。
「才能がないことを認められないのは愚かなことだ。挑戦は人生において確実に重要且つ必要なものだが、どこかで見切りをつける覚悟もまた重要、それを私はわかっていない。自分の実力を客観的に認めろ。最後は、親の言葉が聞けないか、父親として、そして一人の作家としてお前のことを思って言っているんだ。……って、本当に色んなことを言われたわ」
父親とのやり取りを思い返してか、九条先輩はうんざりした様子で息を吐きだす。
「でもね、色んなことを言われて、気づいたの。ああ、私の追いかけていた人って、こんなつまらない人だったんだって。目が覚めるって、ああいうことを言うのでしょうね。そこからはもう、緊張や親に意見する後ろめたさは一切なくなったから、何も抵抗なく言いたいことが言えるようになったわ」
「それで、また創作を続けられるようになったってことなんですよね?」
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「当然のことですよ! 創作なんて、モラルを欠いたような余程の問題作でもない限り、個人の自由なんですから。ここまで抑圧しようとするお父さんが間違っているんです!」
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