遠い空のデネブ

雪鳴月彦

文字の大きさ
上 下
59 / 76
第五章:未来への兆し

未来への兆し 10

しおりを挟む
「あはは。そうだね、その辺りのことも、これから少しずつ調べて勉強してみるよ。おれだって、ただ夢を語ってるだけじゃ前には進めないし」

 根拠もなく告げたアドバイスの責任から逃れようと、ふざけて目線を逸らす俺を笑いながら守草は言った。

「真理だな。でも、守草が頑張って夢叶えちまったら、こっちとしては更にプレッシャーになるんだよなぁ」

「え? どうして?」

「そこまで周りが結果だして、もし俺だけがいつまでもくすぶり続けてたら、滅茶苦茶情けねぇじゃんか。いずれ三十歳とか四十歳になって、九条先輩も妃夏も守草も、小説家や編集者になっててさ、泉も詩集を出して結婚して子供育ててお母さんやってさ、そんで俺だけまだ小説家の夢追いかけてます! ……って、想像すると胸苦しくなるぞ?」

「うーん……」

 苦笑いを浮かべて告げた、俺の将来へ抱く一抹の不安に、守草は口を僅かに尖らせるようにしながら何事かを思案する表情をみせる。

「それは、気にしすぎじゃない? と言うか、おれならそんなこと気にしないよ。仮におれたちが四十歳になったとして、まだ才樹が夢を叶えずに追ってる最中だって知ったら、おれは何だか嬉しくなるかな」

「どういうことだよ、それ」

 いい年をしたおっさんが、夢追い虫になっている姿は嬉しいものなのか。

 むしろ情けなく映りはしないだろうかと思う俺に、守草は当然でしょと言いたげに肩を竦め、更に話を続けてきた。

「だって、夢を追いかけてきた仲間が挫折した人生を送ってる姿を見せられるより、今もまだ諦めてないぞって姿を見せられた方が、今のこの瞬間の続きをちゃんと生きてくれてる感じがして安心するみたいな、何かうまく表現できないけど、そんな気分になるかな。まぁ、少なくとも情けないとか可哀想とか、そういうマイナスなイメージなんて持たないよ。創作に興味がなかったりおれたちのことを知らない赤の他人なら、好き勝手に白い目で見てくるのかもしれないけど、星咲さんたちだっておれと同じ意見だと思うよ」

「……そうか? そういうもんなのかな」

 いまいち釈然としない気分のまま、俺は一応納得することにして引き下がる態度を示す。

「うん、そういうもの。逆に考えてさ、もしおれや星咲さんがいくつになっても夢を追いかけてたら、才樹は馬鹿にしたりする? 応援したいって気持ちにならない?」

「いや、それは普通に応援するさ」

「でしょ? おれたちだって、それと同じってこと」

「ああ……なるほど。それ、一番わかりやすいな。しっくりきたわ」

 例えどんなに時間をかけてでも、自分のやりたいことに人生を賭けている仲間を無下にする奴はそういない。

 それは俺に限らず、みんなが共通して持つ当たり前の意識なのだと、それを改めて教えられた。

「そんな風に思ってくれる仲間が担当編集についてくれるなら、安心して書き続けられそうだな」

「でしょ? おれが先に夢を叶えちゃったら、そのときは何年でも気長に待ってるから」

「ああ。なるべく待たせないように頑張るわ――って、俺が遅れる前提みたいな話になっちまったな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...