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第五章:未来への兆し
未来への兆し 10
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「あはは。そうだね、その辺りのことも、これから少しずつ調べて勉強してみるよ。おれだって、ただ夢を語ってるだけじゃ前には進めないし」
根拠もなく告げたアドバイスの責任から逃れようと、ふざけて目線を逸らす俺を笑いながら守草は言った。
「真理だな。でも、守草が頑張って夢叶えちまったら、こっちとしては更にプレッシャーになるんだよなぁ」
「え? どうして?」
「そこまで周りが結果だして、もし俺だけがいつまでも燻ぶり続けてたら、滅茶苦茶情けねぇじゃんか。いずれ三十歳とか四十歳になって、九条先輩も妃夏も守草も、小説家や編集者になっててさ、泉も詩集を出して結婚して子供育ててお母さんやってさ、そんで俺だけまだ小説家の夢追いかけてます! ……って、想像すると胸苦しくなるぞ?」
「うーん……」
苦笑いを浮かべて告げた、俺の将来へ抱く一抹の不安に、守草は口を僅かに尖らせるようにしながら何事かを思案する表情をみせる。
「それは、気にしすぎじゃない? と言うか、おれならそんなこと気にしないよ。仮におれたちが四十歳になったとして、まだ才樹が夢を叶えずに追ってる最中だって知ったら、おれは何だか嬉しくなるかな」
「どういうことだよ、それ」
いい年をしたおっさんが、夢追い虫になっている姿は嬉しいものなのか。
むしろ情けなく映りはしないだろうかと思う俺に、守草は当然でしょと言いたげに肩を竦め、更に話を続けてきた。
「だって、夢を追いかけてきた仲間が挫折した人生を送ってる姿を見せられるより、今もまだ諦めてないぞって姿を見せられた方が、今のこの瞬間の続きをちゃんと生きてくれてる感じがして安心するみたいな、何かうまく表現できないけど、そんな気分になるかな。まぁ、少なくとも情けないとか可哀想とか、そういうマイナスなイメージなんて持たないよ。創作に興味がなかったりおれたちのことを知らない赤の他人なら、好き勝手に白い目で見てくるのかもしれないけど、星咲さんたちだっておれと同じ意見だと思うよ」
「……そうか? そういうもんなのかな」
いまいち釈然としない気分のまま、俺は一応納得することにして引き下がる態度を示す。
「うん、そういうもの。逆に考えてさ、もしおれや星咲さんがいくつになっても夢を追いかけてたら、才樹は馬鹿にしたりする? 応援したいって気持ちにならない?」
「いや、それは普通に応援するさ」
「でしょ? おれたちだって、それと同じってこと」
「ああ……なるほど。それ、一番わかりやすいな。しっくりきたわ」
例えどんなに時間をかけてでも、自分のやりたいことに人生を賭けている仲間を無下にする奴はそういない。
それは俺に限らず、みんなが共通して持つ当たり前の意識なのだと、それを改めて教えられた。
「そんな風に思ってくれる仲間が担当編集についてくれるなら、安心して書き続けられそうだな」
「でしょ? おれが先に夢を叶えちゃったら、そのときは何年でも気長に待ってるから」
「ああ。なるべく待たせないように頑張るわ――って、俺が遅れる前提みたいな話になっちまったな」
根拠もなく告げたアドバイスの責任から逃れようと、ふざけて目線を逸らす俺を笑いながら守草は言った。
「真理だな。でも、守草が頑張って夢叶えちまったら、こっちとしては更にプレッシャーになるんだよなぁ」
「え? どうして?」
「そこまで周りが結果だして、もし俺だけがいつまでも燻ぶり続けてたら、滅茶苦茶情けねぇじゃんか。いずれ三十歳とか四十歳になって、九条先輩も妃夏も守草も、小説家や編集者になっててさ、泉も詩集を出して結婚して子供育ててお母さんやってさ、そんで俺だけまだ小説家の夢追いかけてます! ……って、想像すると胸苦しくなるぞ?」
「うーん……」
苦笑いを浮かべて告げた、俺の将来へ抱く一抹の不安に、守草は口を僅かに尖らせるようにしながら何事かを思案する表情をみせる。
「それは、気にしすぎじゃない? と言うか、おれならそんなこと気にしないよ。仮におれたちが四十歳になったとして、まだ才樹が夢を叶えずに追ってる最中だって知ったら、おれは何だか嬉しくなるかな」
「どういうことだよ、それ」
いい年をしたおっさんが、夢追い虫になっている姿は嬉しいものなのか。
むしろ情けなく映りはしないだろうかと思う俺に、守草は当然でしょと言いたげに肩を竦め、更に話を続けてきた。
「だって、夢を追いかけてきた仲間が挫折した人生を送ってる姿を見せられるより、今もまだ諦めてないぞって姿を見せられた方が、今のこの瞬間の続きをちゃんと生きてくれてる感じがして安心するみたいな、何かうまく表現できないけど、そんな気分になるかな。まぁ、少なくとも情けないとか可哀想とか、そういうマイナスなイメージなんて持たないよ。創作に興味がなかったりおれたちのことを知らない赤の他人なら、好き勝手に白い目で見てくるのかもしれないけど、星咲さんたちだっておれと同じ意見だと思うよ」
「……そうか? そういうもんなのかな」
いまいち釈然としない気分のまま、俺は一応納得することにして引き下がる態度を示す。
「うん、そういうもの。逆に考えてさ、もしおれや星咲さんがいくつになっても夢を追いかけてたら、才樹は馬鹿にしたりする? 応援したいって気持ちにならない?」
「いや、それは普通に応援するさ」
「でしょ? おれたちだって、それと同じってこと」
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