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第四章:決壊する絆
決壊する絆 14
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思いがけない展開というのは、いつだって突然やってくる。
妃夏の落選結果をみんなで確認した翌日、九条先輩が部室へとやってきた。
数ヵ月ぶりの部活参加ということもあり、集まっていたメンバー全員が驚いた顔を隠そうともせず、暗い影を落としたような顔でいつも使っていた席へと座る九条先輩を目で追いかけ、何と声をかければ良いのかと絶妙な空気感が室内に膨張した。
「みんな、久しぶりね。元気にしてた?」
そんな俺たちを懐かしそうに眺め回して、九条先輩は彼女らしい涼やかな声をかけてきた。
「先輩、もう部活に出て大丈夫なんですか?」
ここへ来たということは、勉強や執筆関係は一段落ついたということなのか。
そう思いながら俺が訊ねると、九条先輩は感情の読めない微笑を口元に浮かべて、ゆっくりと首を縦に揺らしてみせてきた。
「ええ。勉強の方はまだ予断を許さない時期だけれど、対策は順調と言えば順調かしら。ここ最近はずっと家に帰って勉強漬けになっていたし。執筆も全て終わったから、そっちに関しては気を揉むようなことはもう何もないわね。まぁ、今は普通の受験生って感じかしらね」
話をする九条先輩の目元が、皮肉気に細まる。
「全て終わったって……あ、そう言えば去年書いてたっていう応募作の方は? 結果はまだですか?」
どこの賞に応募したのかは聞いていなかったが、有野先生の話だと長編三作を仕上げるとかなり詰め込んだスケジュールになっていたはずだ。
九条先輩の速筆スキルなら、締め切りに間に合わなかったというのは恐らくはないだろうけど、かなりの努力をしていたのは確かなのだし、報われてほしい。
「ちょうど昨日、妃夏の最終結果が出たんですよ。な?」
意味深な苦笑いを浮かべ、俺はチラリと妃夏の方へ視線を送り話を振る。
「うん。結果は――」
「わかってるわ。落ちたんでしょう?」
俺と同じような苦笑いを浮かべ、結果を報告しようとした妃夏の声を遮るようにして、九条先輩がその先の言葉を口にした。
「え? あ、はい。ひょっとして、先輩も結果見てくれてたんですか?」
一瞬、虚を衝かれたみたいな顔を作ってから、妃夏はすぐに笑みを戻しそう訊ねる。
「もちろんよ。私だって、一緒に創作を続けてきた仲間が夢を掴めたかどうかは、ずっと気になっていたから。残念だったわね」
涼やかな表情を維持したまま、労いの言葉をかける九条先輩だったが、俺はその声音に妙な違和感を感じたような気がして、先輩の顔を注視する。
部の仲間が惜しいところで結果を逃した。先輩としてそれを慰めているはずの言葉であるはずなのに、どういうわけか、俺の目には九条先輩はどこか嬉しさを滲ませているように見えてしまった。
「あのぉ、先輩はどうです? まだ中間発表はされてないんですか?」
そんな九条先輩の違和感には気づいていない様子で、俺の質問を引き継ぐように声をかけたのは泉だった。
「いいえ。奇遇にも、私の方も昨日発表だったの」
「え? じゃあ、中間発表はもう出てるんですね? どうでした?」
驚いたように目を丸くし、期待の声を泉は漏らす。
思いがけない展開というのは、いつだって突然やってくる。
妃夏の落選結果をみんなで確認した翌日、九条先輩が部室へとやってきた。
数ヵ月ぶりの部活参加ということもあり、集まっていたメンバー全員が驚いた顔を隠そうともせず、暗い影を落としたような顔でいつも使っていた席へと座る九条先輩を目で追いかけ、何と声をかければ良いのかと絶妙な空気感が室内に膨張した。
「みんな、久しぶりね。元気にしてた?」
そんな俺たちを懐かしそうに眺め回して、九条先輩は彼女らしい涼やかな声をかけてきた。
「先輩、もう部活に出て大丈夫なんですか?」
ここへ来たということは、勉強や執筆関係は一段落ついたということなのか。
そう思いながら俺が訊ねると、九条先輩は感情の読めない微笑を口元に浮かべて、ゆっくりと首を縦に揺らしてみせてきた。
「ええ。勉強の方はまだ予断を許さない時期だけれど、対策は順調と言えば順調かしら。ここ最近はずっと家に帰って勉強漬けになっていたし。執筆も全て終わったから、そっちに関しては気を揉むようなことはもう何もないわね。まぁ、今は普通の受験生って感じかしらね」
話をする九条先輩の目元が、皮肉気に細まる。
「全て終わったって……あ、そう言えば去年書いてたっていう応募作の方は? 結果はまだですか?」
どこの賞に応募したのかは聞いていなかったが、有野先生の話だと長編三作を仕上げるとかなり詰め込んだスケジュールになっていたはずだ。
九条先輩の速筆スキルなら、締め切りに間に合わなかったというのは恐らくはないだろうけど、かなりの努力をしていたのは確かなのだし、報われてほしい。
「ちょうど昨日、妃夏の最終結果が出たんですよ。な?」
意味深な苦笑いを浮かべ、俺はチラリと妃夏の方へ視線を送り話を振る。
「うん。結果は――」
「わかってるわ。落ちたんでしょう?」
俺と同じような苦笑いを浮かべ、結果を報告しようとした妃夏の声を遮るようにして、九条先輩がその先の言葉を口にした。
「え? あ、はい。ひょっとして、先輩も結果見てくれてたんですか?」
一瞬、虚を衝かれたみたいな顔を作ってから、妃夏はすぐに笑みを戻しそう訊ねる。
「もちろんよ。私だって、一緒に創作を続けてきた仲間が夢を掴めたかどうかは、ずっと気になっていたから。残念だったわね」
涼やかな表情を維持したまま、労いの言葉をかける九条先輩だったが、俺はその声音に妙な違和感を感じたような気がして、先輩の顔を注視する。
部の仲間が惜しいところで結果を逃した。先輩としてそれを慰めているはずの言葉であるはずなのに、どういうわけか、俺の目には九条先輩はどこか嬉しさを滲ませているように見えてしまった。
「あのぉ、先輩はどうです? まだ中間発表はされてないんですか?」
そんな九条先輩の違和感には気づいていない様子で、俺の質問を引き継ぐように声をかけたのは泉だった。
「いいえ。奇遇にも、私の方も昨日発表だったの」
「え? じゃあ、中間発表はもう出てるんですね? どうでした?」
驚いたように目を丸くし、期待の声を泉は漏らす。
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