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第四章:決壊する絆
決壊する絆 13
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――落ちたんだ。星咲さんも。
受賞作品の中に、彼女の名前は存在しなかった。
星咲さんが落選してもしなくても、私の人生には微塵も関係のないことのはずなのに、私は自分が愉悦を感じていることを自覚した。
自分だけじゃなく、彼女も落ちた。
その事実に、沈みきっていた心がほんの少し救われたような心地になる。
自分が落ちていく沼底へ、彼女も共に道連れにでもできたような、そんな感覚だった。
きっと、星咲さんも私と同じ……いや、最終選考で落ちたことを考慮すれば私以上に落ち込んでいるはず。
その姿と心境を想像し、口元が緩みそうになると同時に立ち上がる程度の気力は湧いてきた。
自分が不幸になる側で、一人だけ幸せを掴むのは許せない。ましてや、年長者である私を差し置いて。
言葉にすれば、そんな焦りと劣等感が私の性格を歪ませていたのだと今更ながらに自覚したが、自責の念を感じるほどの嫌悪感は生まれることもなく、作家の夢を置き去りにして生きていくことになる人生に細やかな慰めを得た気分になりながら、私はふらりとした足取りで部屋をでると夕食を食べるためリビングへと下りていった。
受賞作品の中に、彼女の名前は存在しなかった。
星咲さんが落選してもしなくても、私の人生には微塵も関係のないことのはずなのに、私は自分が愉悦を感じていることを自覚した。
自分だけじゃなく、彼女も落ちた。
その事実に、沈みきっていた心がほんの少し救われたような心地になる。
自分が落ちていく沼底へ、彼女も共に道連れにでもできたような、そんな感覚だった。
きっと、星咲さんも私と同じ……いや、最終選考で落ちたことを考慮すれば私以上に落ち込んでいるはず。
その姿と心境を想像し、口元が緩みそうになると同時に立ち上がる程度の気力は湧いてきた。
自分が不幸になる側で、一人だけ幸せを掴むのは許せない。ましてや、年長者である私を差し置いて。
言葉にすれば、そんな焦りと劣等感が私の性格を歪ませていたのだと今更ながらに自覚したが、自責の念を感じるほどの嫌悪感は生まれることもなく、作家の夢を置き去りにして生きていくことになる人生に細やかな慰めを得た気分になりながら、私はふらりとした足取りで部屋をでると夕食を食べるためリビングへと下りていった。
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