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第四章:決壊する絆
決壊する絆 9
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息苦しくなるような緊張感に包まれる中で、【大賞】の文字が映し出された。
「……いよいよだぞ」
「うん。眩暈する」
「耐えろ」
気を紛らわせる目的の短いふざけたやり取りをしてから、妃夏の指が更に画面をスクロールさせた。
『青藍に染まる夜明けにきみと 著者:川上木乃香』
「…………」
大賞として発表された作品と著者の名は、妃夏とは別人のものだった。
「……あぁ、駄目かぁ」
「いや、まだだろ。優秀作と佳作が残ってる。大賞じゃなくとも、受賞でデビュー確約なんだ。こっからが勝負だ」
「ん。だね」
受賞するだけでも凄いのに、大賞が取れずに落ち込むなんておこがましい。
作家を夢見る俺たちにとっては、デビューができるのなら佳作だって最高の結果だ。
「先輩、次……行きましょう!」
泉が、大賞の後に控えているはずの優秀賞の確認を促す。
「待って、焦らせないで」
コクリと頷きつつ、また大きく息を吐いてから、妃夏は画面をスクロールさせた。
優秀作、そこから佳作が二作品。
止まることなく一気に結果を画面に表示させた妃夏の手は、受賞作品の発表を通り過ぎ、賞の概要が記載された箇所で動きを止めた。
「…………」
受賞作は、全部で四作品。
そこに、妃夏のペンネームである伊紀菜兎巳の名前を確認することはできなかった。
「……も、もう一度、ちゃんと見てみようか?」
たっぷりと十秒以上の沈黙を挟んで、気遣うような明るい声でそんな無意味な提案を口にしてきたのは、守草だった。
「念のためにさ、ひょっとしたら見逃してたってことも……」
痛々しいくらいに気休めとわかってしまう守草の声を、
「大丈夫だよ」
静かな、妃夏の声が優しく遮った。
反射的に、全員の視線が妃夏へと集約される。
「いやぁ、やっぱり駄目だったねぇ。これが現実ってことだし、気持ちを切り替えて次に進むしかないか」
「妃夏……」
仕方ないよと言いたげな困り顔で薄っすらと笑む幼馴染に、俺は咄嗟にかけるべき言葉を見つけられなかった。
夢を掴むあと一歩という所まで辿り着き、そこで伸ばした手は無慈悲にも空を切って虚しく落ちた。
そんな挫折を味わった相手に、社会人にすらなれていないような半人前が、どんな言葉をかければ勇気づけられるものなのか。
「みんな、そんな落ち込んだような顔しなくて大丈夫だよ。確かに、結果は残念だったけど、受賞を逃す可能性は始めからある程度覚悟してたし、それに自分がここまでできたってことはそれだけでも自信に繋がったから。まぁ、逃した魚は大きすぎたけど、それに見合う大きな経験は積めたってことで」
そこまで話してようやく、妃夏の表情から憂いを帯びた気配がゆっくりと消えていく。
「それに、勘違いとかしてほしくないからはっきり言うけど、あたしはこの結果にそんなショック受けてないからね? お願いだからその辺は変な同情しないでよ? こっちが申し訳ない気分になって気を遣っちゃうからさ」
「先輩……本当に、気に病んでないんですか?」
努めて明るく振る舞っているのではないかと、泉が猜疑心を含ませた問いを口に出す。
「……いよいよだぞ」
「うん。眩暈する」
「耐えろ」
気を紛らわせる目的の短いふざけたやり取りをしてから、妃夏の指が更に画面をスクロールさせた。
『青藍に染まる夜明けにきみと 著者:川上木乃香』
「…………」
大賞として発表された作品と著者の名は、妃夏とは別人のものだった。
「……あぁ、駄目かぁ」
「いや、まだだろ。優秀作と佳作が残ってる。大賞じゃなくとも、受賞でデビュー確約なんだ。こっからが勝負だ」
「ん。だね」
受賞するだけでも凄いのに、大賞が取れずに落ち込むなんておこがましい。
作家を夢見る俺たちにとっては、デビューができるのなら佳作だって最高の結果だ。
「先輩、次……行きましょう!」
泉が、大賞の後に控えているはずの優秀賞の確認を促す。
「待って、焦らせないで」
コクリと頷きつつ、また大きく息を吐いてから、妃夏は画面をスクロールさせた。
優秀作、そこから佳作が二作品。
止まることなく一気に結果を画面に表示させた妃夏の手は、受賞作品の発表を通り過ぎ、賞の概要が記載された箇所で動きを止めた。
「…………」
受賞作は、全部で四作品。
そこに、妃夏のペンネームである伊紀菜兎巳の名前を確認することはできなかった。
「……も、もう一度、ちゃんと見てみようか?」
たっぷりと十秒以上の沈黙を挟んで、気遣うような明るい声でそんな無意味な提案を口にしてきたのは、守草だった。
「念のためにさ、ひょっとしたら見逃してたってことも……」
痛々しいくらいに気休めとわかってしまう守草の声を、
「大丈夫だよ」
静かな、妃夏の声が優しく遮った。
反射的に、全員の視線が妃夏へと集約される。
「いやぁ、やっぱり駄目だったねぇ。これが現実ってことだし、気持ちを切り替えて次に進むしかないか」
「妃夏……」
仕方ないよと言いたげな困り顔で薄っすらと笑む幼馴染に、俺は咄嗟にかけるべき言葉を見つけられなかった。
夢を掴むあと一歩という所まで辿り着き、そこで伸ばした手は無慈悲にも空を切って虚しく落ちた。
そんな挫折を味わった相手に、社会人にすらなれていないような半人前が、どんな言葉をかければ勇気づけられるものなのか。
「みんな、そんな落ち込んだような顔しなくて大丈夫だよ。確かに、結果は残念だったけど、受賞を逃す可能性は始めからある程度覚悟してたし、それに自分がここまでできたってことはそれだけでも自信に繋がったから。まぁ、逃した魚は大きすぎたけど、それに見合う大きな経験は積めたってことで」
そこまで話してようやく、妃夏の表情から憂いを帯びた気配がゆっくりと消えていく。
「それに、勘違いとかしてほしくないからはっきり言うけど、あたしはこの結果にそんなショック受けてないからね? お願いだからその辺は変な同情しないでよ? こっちが申し訳ない気分になって気を遣っちゃうからさ」
「先輩……本当に、気に病んでないんですか?」
努めて明るく振る舞っているのではないかと、泉が猜疑心を含ませた問いを口に出す。
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