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第二章:懊悩の足枷
懊悩の足枷 4
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「うん、何だろうな……大人しいハムスターみたいな」
童顔で目がぱっちりしているため、初対面のときからそんなイメージがあったのは事実で、ほぼ毎日顔を合わせている今はより強固にそのイメージが定着してしまっている。
「ハムスターに似てるなんて、十六年生きてきて言われたことありませんけどねぇ」
釈然としない声音で呻く泉は、その細い指を顎へ当てて思案するように目を細める。
そんな姿も小動物みたいだななどと考えながら眺めていると、部室のドアが開き妃夏が顔を覗かせてきた。
「はい、こんばんはー」
「まだ夜じゃねぇだろ」
開口一番にくだらないボケを放りながら中へ入ってきた妃夏へ突っ込みを入れ、俺は普段自分が使っている席へと移動し腰を下ろす。
「まだって、どうせもう少し経てばすぐに夜でしょ。一日なんてあっという間なんだし」
倣うようにして隣の席へ座った妃夏は、手にしていたお茶のペットボトルを開封し口をつける。
「執筆もしないで、結衣ちゃんと何を話してたの? 恋愛相談?」
「してねぇよ。恋愛なんて、袖振り合う程度の縁もないわ」
「若いのに。袖振り合うも多生の縁……あ、これさ、袖擦り合うも他生の縁って表現する人もいるよね。どっちも通用するのかもだけど、正確にはどっちが正しいのかな」
「調べろよ。顔出した途端に難しい話を振るな、頭疲れるから。執筆しろ」
「構想を練ってる最中です」
そこは同じか、と俺は内心で呟く。
最終選考に残れたからといって、妃夏は慢心しているわけではない。
選考の結果がどうなるにせよ、既にもう次に取り掛かる物語を頭の中で構築し始めている。
――さすがだな。
声には出さずリスペクトしながら、俺も止まってはいられないと改めて気持ちを引き締めた。
「先輩たち、やっぱり幼馴染っていうだけあって、仲が良いですよね。何て言いますか、もう長年連れ添ってる夫婦みたいな、そんな空気感をたまに感じますよ」
俺の後へ続くように移動してきていた泉が、微笑ましそうに笑い俺たちをからかってくる。
「マジかよ。どうする妃夏、俺ら夫婦だってよ」
ぶっちゃけ、これまでにも似たようなことを色々な場所で言われてきた経験があるため、窘めるのも面倒だと思い、俺は泉のからかいに便乗し妃夏へ話を振る。
「あー、婚姻届け出してもう何年になるんだっけ?」
遠い目をしながら天井を見つめ、妃夏も乗ってくる。
「三十年くらいか」
「前世婚でもしたんですか……」
クスリと笑いジョークに便乗する泉へ俺たちも笑い返し、活字愛好倶楽部らしい普段通りの和やかな雰囲気が形成される。
創作の邪魔はせず、息抜きやアイディアを出し合うときには互いに遠慮し合うことなく語り合う。
当然、最低限は先輩後輩の関係を保つことはするし、年上年下など無関係に個人を尊重する配慮が欠けるような言動もしない。
部員全員がそれを理解しているから、毎日が和気あいあいと過ごせ喧嘩なんて一度だって起きたことがない。
それぞれが自由であり、リスペクトし合っているからこその居心地の良さがあるというのが、この活字愛好倶楽部における最大の魅力と言えるだろう。
童顔で目がぱっちりしているため、初対面のときからそんなイメージがあったのは事実で、ほぼ毎日顔を合わせている今はより強固にそのイメージが定着してしまっている。
「ハムスターに似てるなんて、十六年生きてきて言われたことありませんけどねぇ」
釈然としない声音で呻く泉は、その細い指を顎へ当てて思案するように目を細める。
そんな姿も小動物みたいだななどと考えながら眺めていると、部室のドアが開き妃夏が顔を覗かせてきた。
「はい、こんばんはー」
「まだ夜じゃねぇだろ」
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倣うようにして隣の席へ座った妃夏は、手にしていたお茶のペットボトルを開封し口をつける。
「執筆もしないで、結衣ちゃんと何を話してたの? 恋愛相談?」
「してねぇよ。恋愛なんて、袖振り合う程度の縁もないわ」
「若いのに。袖振り合うも多生の縁……あ、これさ、袖擦り合うも他生の縁って表現する人もいるよね。どっちも通用するのかもだけど、正確にはどっちが正しいのかな」
「調べろよ。顔出した途端に難しい話を振るな、頭疲れるから。執筆しろ」
「構想を練ってる最中です」
そこは同じか、と俺は内心で呟く。
最終選考に残れたからといって、妃夏は慢心しているわけではない。
選考の結果がどうなるにせよ、既にもう次に取り掛かる物語を頭の中で構築し始めている。
――さすがだな。
声には出さずリスペクトしながら、俺も止まってはいられないと改めて気持ちを引き締めた。
「先輩たち、やっぱり幼馴染っていうだけあって、仲が良いですよね。何て言いますか、もう長年連れ添ってる夫婦みたいな、そんな空気感をたまに感じますよ」
俺の後へ続くように移動してきていた泉が、微笑ましそうに笑い俺たちをからかってくる。
「マジかよ。どうする妃夏、俺ら夫婦だってよ」
ぶっちゃけ、これまでにも似たようなことを色々な場所で言われてきた経験があるため、窘めるのも面倒だと思い、俺は泉のからかいに便乗し妃夏へ話を振る。
「あー、婚姻届け出してもう何年になるんだっけ?」
遠い目をしながら天井を見つめ、妃夏も乗ってくる。
「三十年くらいか」
「前世婚でもしたんですか……」
クスリと笑いジョークに便乗する泉へ俺たちも笑い返し、活字愛好倶楽部らしい普段通りの和やかな雰囲気が形成される。
創作の邪魔はせず、息抜きやアイディアを出し合うときには互いに遠慮し合うことなく語り合う。
当然、最低限は先輩後輩の関係を保つことはするし、年上年下など無関係に個人を尊重する配慮が欠けるような言動もしない。
部員全員がそれを理解しているから、毎日が和気あいあいと過ごせ喧嘩なんて一度だって起きたことがない。
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