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第二章:懊悩の足枷
懊悩の足枷 2
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「竹林先輩は、もう次の応募作書き始めたりはしてるんですか?」
小説賞の中間発表がされてから約二週間が経過し、浮ついた気持ちも落ち着き始めた十月の上旬、部室で窓際に立ち中庭を見下ろしていた俺は、泉に声をかけられ緩慢な動作で振り返った。
窓から差し込む夕暮れの日差しを浴びながら、泉がこちらを見て微笑を浮かべている。
「いや、まだ何も。こんな感じの話を書こうかなって漠然とした構想はあるけど、プロットを含めて書き始めるのはもう少し考えがまとまってからにしようかなって考えてるよ」
「あ、もう書く話は浮かんでいるんですね。すごい」
「別に、すごくはないだろ。まだ一文字も書いてるわけじゃないんだし」
「そんなコンスタントに物語を考えられてるのがすごいんですよ。他の先輩たちを見てても思うんですけど、どうやってアイディアを作ってるんです?」
問われて、俺は苦笑気味に口元を緩める。
「アイディアを作るかぁ……。うーん、その辺はあんまり深く考えたことないなぁ」
「え? じゃあ、どんな風に小説のストーリーを考えているんです?」
俺の答えが以外にでも感じたのか、泉は少し虚を衝かれたような面持ちになりつつ、質問を重ねてくる。
「パッと、頭にシーンが浮かぶ感じ。そこから前後に話が広がっていくと言うか……物語に肉付けがされていくようなイメージ、かな。まぁ、物語の作り方は十人十色だから、俺のやり方が正しいとかはないんだけどさ。でも、最初の頭にシーンが浮かぶって部分は本当にポンって出てくるから、そこは説明が難しい」
「へぇ……」
俺の言うことがうまくイメージできていないのだろう泉は、曖昧な様子でひとまず相槌を打つように首を縦に揺らした。
書きたいシーンだけが一番に思いつくからそれを軸にして物語を考える、とでも言った方が伝わりやすいのかもしれない。
「次は、書いたことのないホラーにでもチャレンジしようか悩んではいるんだけどさ。うまく書ききる自信がないんだよなぁ」
「竹林先輩が、ホラーですか? 珍しいですね。でも、どんな話ができあがるのか、興味はあるかも」
「前々から考えてた話が一つだけあるんだよ。書いたことのないジャンルに挑むのも経験になるし、どこまで通用するか腕試しはしてみたいけど、無難に得意なジャンルで勝負を続けた方が良い気もしてるし……難しいな。九条先輩くらい速筆なら、二作同時進行で書いたりできるのかもしれないけど」
「それは……かなり大変そうな気がしますけど。でも、同時に別々の作品を書くのだって、良いトレーニングや経験になるんじゃありませんか? って、言うだけなら簡単ですよね」
「まぁ、一理はあるな。でも、俺はそこまで器用じゃないよ。できた方が良いんだろうけど、無理かな。ちゃんと一つの話を完成させるのに集中したい」
たまに、三か月連続刊行! みたいなえげつない仕事を成し遂げているプロの作家がいるけど、あれはいったいどんなスケジュールと生活をしていたら実現できるんだろうか。
作家のほとんどは兼業で仕事をしていると言われているみたいだし、睡眠時間を削るなりして頑張っているのかと想像し、自分にもできるのかと不安になったことが何度もある。
「竹林先輩は、もう次の応募作書き始めたりはしてるんですか?」
小説賞の中間発表がされてから約二週間が経過し、浮ついた気持ちも落ち着き始めた十月の上旬、部室で窓際に立ち中庭を見下ろしていた俺は、泉に声をかけられ緩慢な動作で振り返った。
窓から差し込む夕暮れの日差しを浴びながら、泉がこちらを見て微笑を浮かべている。
「いや、まだ何も。こんな感じの話を書こうかなって漠然とした構想はあるけど、プロットを含めて書き始めるのはもう少し考えがまとまってからにしようかなって考えてるよ」
「あ、もう書く話は浮かんでいるんですね。すごい」
「別に、すごくはないだろ。まだ一文字も書いてるわけじゃないんだし」
「そんなコンスタントに物語を考えられてるのがすごいんですよ。他の先輩たちを見てても思うんですけど、どうやってアイディアを作ってるんです?」
問われて、俺は苦笑気味に口元を緩める。
「アイディアを作るかぁ……。うーん、その辺はあんまり深く考えたことないなぁ」
「え? じゃあ、どんな風に小説のストーリーを考えているんです?」
俺の答えが以外にでも感じたのか、泉は少し虚を衝かれたような面持ちになりつつ、質問を重ねてくる。
「パッと、頭にシーンが浮かぶ感じ。そこから前後に話が広がっていくと言うか……物語に肉付けがされていくようなイメージ、かな。まぁ、物語の作り方は十人十色だから、俺のやり方が正しいとかはないんだけどさ。でも、最初の頭にシーンが浮かぶって部分は本当にポンって出てくるから、そこは説明が難しい」
「へぇ……」
俺の言うことがうまくイメージできていないのだろう泉は、曖昧な様子でひとまず相槌を打つように首を縦に揺らした。
書きたいシーンだけが一番に思いつくからそれを軸にして物語を考える、とでも言った方が伝わりやすいのかもしれない。
「次は、書いたことのないホラーにでもチャレンジしようか悩んではいるんだけどさ。うまく書ききる自信がないんだよなぁ」
「竹林先輩が、ホラーですか? 珍しいですね。でも、どんな話ができあがるのか、興味はあるかも」
「前々から考えてた話が一つだけあるんだよ。書いたことのないジャンルに挑むのも経験になるし、どこまで通用するか腕試しはしてみたいけど、無難に得意なジャンルで勝負を続けた方が良い気もしてるし……難しいな。九条先輩くらい速筆なら、二作同時進行で書いたりできるのかもしれないけど」
「それは……かなり大変そうな気がしますけど。でも、同時に別々の作品を書くのだって、良いトレーニングや経験になるんじゃありませんか? って、言うだけなら簡単ですよね」
「まぁ、一理はあるな。でも、俺はそこまで器用じゃないよ。できた方が良いんだろうけど、無理かな。ちゃんと一つの話を完成させるのに集中したい」
たまに、三か月連続刊行! みたいなえげつない仕事を成し遂げているプロの作家がいるけど、あれはいったいどんなスケジュールと生活をしていたら実現できるんだろうか。
作家のほとんどは兼業で仕事をしていると言われているみたいだし、睡眠時間を削るなりして頑張っているのかと想像し、自分にもできるのかと不安になったことが何度もある。
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