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第一章:俺たちの日常
俺たちの日常 4
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それから一年。自分の中では進歩したつもりでいたけれど、結果は同じ。
平静を装ってはいても、気落ちしないかと問われればしないわけがない。
それでも、せっかく幼馴染が生き残れたのだ。
ここでふて腐れた態度なんて、見せられるわけがない。
「ひとまず、おめでとう妃夏。ここからは俺の分も頑張ってくれよ」
ここは素直に、作家を目指す仲間の躍進を称えなくては。
「うん。てか、頑張るも何も、あたしにできること何にもないけどね。最後の結果待つだけだし」
「祈っておけば良いさ。大賞の枠に、自分の名前が刻まれますようにって」
「まぁ、現実になったら良いけどねぇ。でもそれ、想像するだけで緊張してくるよ」
「わかるけどさ。でも、目指してる場所はそこだろ」
「うん」
力強く頷き、妃夏はにんまりと笑みを浮かべる。
「……いや、何かオレには専門外な世界だけど、すげぇな二人とも。かっけぇよ」
「は?」
俺と妃夏の会話を目の前で聞いていた響平は、まるで有名人にでも遭遇したかのようなワクワク顔で俺たちを見比べ、聞いたこっちが恥ずかしくなるようなことを告げてくる。
「すげぇって、俺は惨めに選考落ちしてるんだが?」
「それでもだよ。自分のやりたいことに挑戦する奴同士の会話って感じでさ、聞いてるとこう、何て言うんだろうな……近くにいるのに、自分なんかよりよっぽど先に進んでる存在に思えるっていうか……うまく言えねーけどさ、やりたいこと見つけて頑張る奴って輝いてんなって、二人を見てて今思った」
「やめてくれ、恥ずかしい。そんな立派なもんじゃねーし、小説の世界だけでも俺らなんかより凄い人はゴロゴロいるよ。芥川賞とか直木賞取ってる人たちなんて、雲の上どころか宇宙の民だよ。手なんて届かないし見上げても姿すら見えないくらいのな」
正直、無謀すぎてそこまで目指そうとは思っていないけど。
「それでも、オレから見れば充分凄いって。自信持てよ、才樹」
「言われなくても、自信をなくしたりまではしてないよ。この程度で諦めるつもりもないしな」
響平のちょっとずれた励ましに答えて、俺はもう一度スマホへと視線を落とす。
“伊紀菜兎巳”
――本当に、残ってるんだよな。
そこに刻まれた幼馴染のペンネームは、見飽きるくらいこれまでに何度も見てきたはずなのに、何故か妙に新鮮で特別なものを見せられているような、そんな気分にさせられた。
平静を装ってはいても、気落ちしないかと問われればしないわけがない。
それでも、せっかく幼馴染が生き残れたのだ。
ここでふて腐れた態度なんて、見せられるわけがない。
「ひとまず、おめでとう妃夏。ここからは俺の分も頑張ってくれよ」
ここは素直に、作家を目指す仲間の躍進を称えなくては。
「うん。てか、頑張るも何も、あたしにできること何にもないけどね。最後の結果待つだけだし」
「祈っておけば良いさ。大賞の枠に、自分の名前が刻まれますようにって」
「まぁ、現実になったら良いけどねぇ。でもそれ、想像するだけで緊張してくるよ」
「わかるけどさ。でも、目指してる場所はそこだろ」
「うん」
力強く頷き、妃夏はにんまりと笑みを浮かべる。
「……いや、何かオレには専門外な世界だけど、すげぇな二人とも。かっけぇよ」
「は?」
俺と妃夏の会話を目の前で聞いていた響平は、まるで有名人にでも遭遇したかのようなワクワク顔で俺たちを見比べ、聞いたこっちが恥ずかしくなるようなことを告げてくる。
「すげぇって、俺は惨めに選考落ちしてるんだが?」
「それでもだよ。自分のやりたいことに挑戦する奴同士の会話って感じでさ、聞いてるとこう、何て言うんだろうな……近くにいるのに、自分なんかよりよっぽど先に進んでる存在に思えるっていうか……うまく言えねーけどさ、やりたいこと見つけて頑張る奴って輝いてんなって、二人を見てて今思った」
「やめてくれ、恥ずかしい。そんな立派なもんじゃねーし、小説の世界だけでも俺らなんかより凄い人はゴロゴロいるよ。芥川賞とか直木賞取ってる人たちなんて、雲の上どころか宇宙の民だよ。手なんて届かないし見上げても姿すら見えないくらいのな」
正直、無謀すぎてそこまで目指そうとは思っていないけど。
「それでも、オレから見れば充分凄いって。自信持てよ、才樹」
「言われなくても、自信をなくしたりまではしてないよ。この程度で諦めるつもりもないしな」
響平のちょっとずれた励ましに答えて、俺はもう一度スマホへと視線を落とす。
“伊紀菜兎巳”
――本当に、残ってるんだよな。
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