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プロローグ
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“どうせ、夢なんて叶うわけねーよ”
ある日の昼休み。クラスメイトの誰かが言ったこの一言に、俺はそりゃそうだよなと心の中で同意した。
将来の目標。将来の夢。
もちろん、それらを掲げて見事に達成する人間がこの世にいることはわかってる。
だけど、そんなのはごく一部の、それこそ何かが人並外れた才能とか、あるいは強運とか、生まれつき環境や人脈に恵まれていたりする、そんな人間だけが享受できる特別なものでしかない、凡人には正に夢の話だ。
机の上に左腕で頬杖をつきながら文庫本を読んでいた俺は、そんなことを考えながらさり気なく教室内を一瞥する。
今ここにいるクラスメイトの何人が、夢や目標を叶える人生を手にするのか。
無難に就職できればそれで良い、卒業したらずっと行きたかった有名なテーマパークへ遊びに行きたいみたいな、無難で比較的イージーな目標くらいなら、誰でも達成はできるだろう。
だけど、到達が困難なゴールを設定すれば当然、難易度は爆上がりになる。
オリンピックに出たい。超優秀なプログラマーになりたい。大企業の経営者になりたい。
そんな大きな夢を実現できる人間なんて、この世にいるのは何パーセントくらいなのか。
追うだけ無駄。やるだけ無駄。
世の中の大半が、そう思い割り切ってしまうのはある意味で必然であり、仕方のないことなのかもしれない。
だけど――。
――確かに叶わないのかもしれないけど、それでも挑戦するのはワクワクするんだよな。
俺にも一応夢はある。だけど、何もしないまま諦めるなんて考えはない。
例え十中八九、いや、それ以上の確率で無理だとしても、可能性がゼロじゃないなら自分の夢に挑戦したい。
夢なんてどうせ叶わない。その気持ちは、滅茶苦茶共感できる。
でも、その到底不可能な未来をもし、自分のこのちっぽけな手で実現できたら。
そう考えると、ジッとなんてしていられない。
それが俺の性格だし、そして。
「おはよう、才樹」
「ああ、おはよう」
名前を呼ぶ声に、俺は文庫本へ落としていた視線を上へ向ける。
そこにいたのは、小さい頃から一緒に育ってきた幼馴染の姿があった。
「今日は何読んでるの?」
俺と同じく小説が好きで、物心ついたときには共に小説家を目指す仲間となっていた気心の知れたライバル。
彼女――星咲妃夏もまた、俺と同様……いや、それ以上に夢を追うことに夢中で生きる眩しい存在で、読むことも書くことも、未来への情熱も全て、今の俺じゃ敵わない存在だった。
「村川重樹の新刊。昨日学校の帰りに買ったんだ」
「え!? うそ、もう買ったの? うわ、あたしまだ買えてない。他の本買い過ぎて、財布の中身がもう底を……」
「そうか。悲惨だな」
「その軽い言い方……他人事だと思って」
「今日中に読み終わっちゃうと思うけど、明日にでも貸そうか?」
「ううん、遠慮する。ちゃんと自分で買いたい」
俺の親切心を、丁重に断りにんまりと妃夏は笑う。
「そっか。じゃあ、それまでにいっぱいネタバレしてやるからな。楽しみにしとけよ?」
「はぁ? しても良いけど、それやったら才樹の原稿データ、全部削除するからね? 楽しみにしてて?」
「それはお前、えげつないにも程が……」
「お互い様でしょ」
毎日のように飽きることなく繰り返される他愛のない会話に、俺と妃夏は笑い合う。
自分たちの好きなことについて気兼ねなく話せる仲間たちとの、何気ないけど恵まれた日常。
そんな当たり前のように過ぎていく時間の中で、俺たちはこれからそれぞれの未来を揺らがせる細やかで深刻な、夢を持ってしまったが故にぶつかる葛藤を間近で見ることに、このときはまだ気づくことなんてできなかった。
ある日の昼休み。クラスメイトの誰かが言ったこの一言に、俺はそりゃそうだよなと心の中で同意した。
将来の目標。将来の夢。
もちろん、それらを掲げて見事に達成する人間がこの世にいることはわかってる。
だけど、そんなのはごく一部の、それこそ何かが人並外れた才能とか、あるいは強運とか、生まれつき環境や人脈に恵まれていたりする、そんな人間だけが享受できる特別なものでしかない、凡人には正に夢の話だ。
机の上に左腕で頬杖をつきながら文庫本を読んでいた俺は、そんなことを考えながらさり気なく教室内を一瞥する。
今ここにいるクラスメイトの何人が、夢や目標を叶える人生を手にするのか。
無難に就職できればそれで良い、卒業したらずっと行きたかった有名なテーマパークへ遊びに行きたいみたいな、無難で比較的イージーな目標くらいなら、誰でも達成はできるだろう。
だけど、到達が困難なゴールを設定すれば当然、難易度は爆上がりになる。
オリンピックに出たい。超優秀なプログラマーになりたい。大企業の経営者になりたい。
そんな大きな夢を実現できる人間なんて、この世にいるのは何パーセントくらいなのか。
追うだけ無駄。やるだけ無駄。
世の中の大半が、そう思い割り切ってしまうのはある意味で必然であり、仕方のないことなのかもしれない。
だけど――。
――確かに叶わないのかもしれないけど、それでも挑戦するのはワクワクするんだよな。
俺にも一応夢はある。だけど、何もしないまま諦めるなんて考えはない。
例え十中八九、いや、それ以上の確率で無理だとしても、可能性がゼロじゃないなら自分の夢に挑戦したい。
夢なんてどうせ叶わない。その気持ちは、滅茶苦茶共感できる。
でも、その到底不可能な未来をもし、自分のこのちっぽけな手で実現できたら。
そう考えると、ジッとなんてしていられない。
それが俺の性格だし、そして。
「おはよう、才樹」
「ああ、おはよう」
名前を呼ぶ声に、俺は文庫本へ落としていた視線を上へ向ける。
そこにいたのは、小さい頃から一緒に育ってきた幼馴染の姿があった。
「今日は何読んでるの?」
俺と同じく小説が好きで、物心ついたときには共に小説家を目指す仲間となっていた気心の知れたライバル。
彼女――星咲妃夏もまた、俺と同様……いや、それ以上に夢を追うことに夢中で生きる眩しい存在で、読むことも書くことも、未来への情熱も全て、今の俺じゃ敵わない存在だった。
「村川重樹の新刊。昨日学校の帰りに買ったんだ」
「え!? うそ、もう買ったの? うわ、あたしまだ買えてない。他の本買い過ぎて、財布の中身がもう底を……」
「そうか。悲惨だな」
「その軽い言い方……他人事だと思って」
「今日中に読み終わっちゃうと思うけど、明日にでも貸そうか?」
「ううん、遠慮する。ちゃんと自分で買いたい」
俺の親切心を、丁重に断りにんまりと妃夏は笑う。
「そっか。じゃあ、それまでにいっぱいネタバレしてやるからな。楽しみにしとけよ?」
「はぁ? しても良いけど、それやったら才樹の原稿データ、全部削除するからね? 楽しみにしてて?」
「それはお前、えげつないにも程が……」
「お互い様でしょ」
毎日のように飽きることなく繰り返される他愛のない会話に、俺と妃夏は笑い合う。
自分たちの好きなことについて気兼ねなく話せる仲間たちとの、何気ないけど恵まれた日常。
そんな当たり前のように過ぎていく時間の中で、俺たちはこれからそれぞれの未来を揺らがせる細やかで深刻な、夢を持ってしまったが故にぶつかる葛藤を間近で見ることに、このときはまだ気づくことなんてできなかった。
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