病み憑き

雪鳴月彦

文字の大きさ
上 下
175 / 341
第三章:風岡夏純――①

風岡夏純――①

しおりを挟む
 人型をしたそれは、上から水をかけられ流れ落ちる泡のような滑らかさでズルリと動くと、そのまま窓枠の外へと消えていなくなった。

 静謐が満たす空間に、物音はない。

(何だったの今の……?)

 真っ黒い人間が窓に張りついていた。

 事実だけをシンプルにまとめれば、それだけの話。

 だけど、実際に目の当たりにしてしまった場合のその異常性は尋常ではない。

 人の形にくり抜いた黒い画用紙でも窓に貼りつけて誰かが悪戯をしてきたのであればそういうことかと思えるけれど、他人の敷地でそんなことをする人などいるものか。

「…………」

 怖い気持ちと、状況をはっきりさせたい気持ちを混ぜ合わせながら、茜はそっと窓へ近づき鍵を外すと恐る恐る外の様子を確かめた。

(……誰もいない)

 影が滑り落ちた窓の真下も、見慣れた家の敷地内にも、人はおろか猫一匹見当たらず。

 物音も気配も感じない周囲に暫く気を張っていた茜だったが、不意に頬を撫でた生温い風で我に返ると、慌てたように窓を閉め早足で脱衣所を後にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

妊娠条令

あらら
ホラー
少子高齢化社会の中で政治家達は妊娠条令執行を強行する。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

処理中です...