病み憑き

第三章:風岡夏純――①

風岡夏純――①

「先生、ちょっと訊きたいことがあるんですけど」

「何？」

　体育教師特有の、気の強そうな視線が間近でわたしを見つめてくる。

　その瞳を覗き込むようにして窺いながら、わたしは二日前のことについて訊ねてみた。

「先生、一昨日の昼休みなんですけど、貴秀と何の話をしてたんですか？」

　今、水面下で起こり始めているかもしれない危険な問題。そのスイッチとなっている可能性がある大事な部分。

「一昨日の昼休み？ 何のこと？」

「何って、先生、貴秀のこと職員室に呼び出しましたよね？」

　安達の返答に、漠然と焦りに似た感覚が込み上げる。

「私が？」

　心当たりのない記憶を無理矢理探るように、誰もいない廊下を睨む安達。

　その姿を観察するに、とぼけている気配は感じない。

「それ、他の先生と間違えてない？　ここ数日、私が生徒を職員室へ呼んだことは一度もないけど」

「本当ですか、それ」