旧校舎のマロンちゃん

雪鳴月彦

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第四章:孤独な鏡

孤独な鏡 11

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 ここから発生する最悪の事態とはどんなものかと、高宮先生の考えが気になり反芻するように訊ねてみれば、高宮先生は事もなげに言葉を返してきた。

「相手がこちらの考えているより狂暴だった場合、だな。得たいが知れない以上、警戒はおこたれない。本当に最悪のケースとしては、私もマロンちゃんの二の舞になることだってあり得るからね」

「え?」

 ここで高宮先生に消えられてしまうのは、さすがに困る。

 現状を理解して協力してくれる中でも、一番頼りになる存在だ。

 こんなことを湯々織先生に訴えても恐がって何もできないだろうし、他の先生たちだって、ふざけているとしか受けとってはくれないだろう。

「いやなに、あまり心配をする必要はない。私だって馬鹿ではないからな。危険だと判断すれば、その場は身を引くくらいのことはする。ただ、常に予測できるリスクはできる限り検討しておくべきだという話だよ。だからもし、私がこの旧校舎からいなくなったりした場合、きみたちはここの使用を控えるようにしなさい」

 あたしの表情を読み取って、高宮先生は補足するように言葉を継ぎ足すと、安心させようとするかのようにゆっくりと頷いてみせてきた。

「高宮先生の助けを得られるのは頼もしいけれど、それでもやっぱりマロンちゃんが危険な目に遭っているのをわかっていて、悠長に部活をするというのも難しいわね」

 ひとまず事件解決へ向けて一歩前進した感はなきにしもあらずだけれど、言い換えればまだそれだけ。

「だね。どうするの? 今日はこのまま帰る?」

 マロンちゃんを放っておくようで気が引けるが、だからと言って今すぐに何かができるかと言われたら妙案も浮かんではこない。

 よーみと高宮先生の協力を得られ、高宮先生は原因を調べると前向きな姿勢を示してくれている以上、まずは下手に動き過ぎず邪魔をせぬよう成り行きを見守るのも一つの手段。

 そうして、あわよくば今夜中にでも先生一人で全部片をつけてくれたなら、一番無難で有難い展開だ。

 そんな思いを抱きながら流空の指示を仰ぐと、数秒だけ考え込むように口元へ手を当て

「……そうね」

 と、小さく呟くような返答を口に出してきた。

「もどかしいけれど、確かに今日はこれ以上私たちにできることは何もなさそうだし、部活は一時中止して、帰宅することにしましょう。私も、少し家で対応策を考えてみるわ」

「ん……自信ないけど、あたしも頑張って考えてみるよ」

 ネットでお札とか取り寄せてみようかなんて思ったりもしたけれど、通販で簡単に入手できるお札にどれほどの信憑性が期待できるかはわからないなと、浮かべた案をすぐに却下する。

 それでも、できる限りの知恵は絞らなくては。

「先生、申し訳ないですが、今日はもう帰ることにします。もし何かありましたら、マロンちゃんのこと、どうかよろしくお願いします」

「ああ、その方が良い。こちらのことは、任せておきなさい」

 力強く頷く高宮先生へ二人で頭を下げ、あたしたちは部室を後にして施錠をした。

 せっかくこれから部活も軌道に乗るなと喜びかけた矢先に、とんでもない事態が襲いかかってきてしまった。

「……高宮先生、犯人やっつけてくれると良いね」

 古い木の臭いが充満する廊下を並んで歩きながら、あたしはどうにかそれだけを口にだす。

「やっつけられる相手なら、そうかもしれないけどね。何にせよ、マロンちゃんの元気な姿をまた見られることを私も期待しているわ」

 肩を竦めるようにしながら答える流空に続いて靴を履き替え、外に出る。

 そのまま旧校舎を振り仰いでみたが、悪しきモノが潜む不穏さは微塵も漂うこともなく、古びた木造の建物はただいつも通りに年季を感じさせながら、静かに鎮座しているだけだった。
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