旧校舎のマロンちゃん

雪鳴月彦

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第四章:孤独な鏡

孤独な鏡 3

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 どこからどういった基準で人間の言葉を理解し増やしているのか、いまいちよーみの思考がわからず、とぼけた様子でこちらを見ている水色の瞳をわざと呆れたように見返しておいた。

「まぁ、何だろう。猫ってさ、人間の持ってきた玩具で遊んだりってするでしょ? 紐の先にネズミの人形がくっついてたりするようなやつ。ああいうたぐいのを作りたいんだよ」

「……ああ、そう言ってもらえば理解できるわ。昔、わたしのご主人がたまらない草や柔らかくて小さなボールを使って、野良猫と遊んでいたのを覚えてる」

「たまらない草?」

 何だそれはと疑問が浮かび、すぐに猫じゃらしのことかと答えが浮かぶ。

 そうか、猫的にあの草はたまらないのか。

 そんなことに妙に納得しながら、あたしは

「そんな感じなんだけど、協力してくれる?」

 と、よーみを見つめたまま確認の問いを放った。

「そうね。あなたたちには恩もあるし、それくらいはしてあげても良いわ」

 深く吟味するような素振りもなく、よーみはあっさりと小さな頭を縦に揺らしてみせてきた。

「本当に? ありがとう! 絶対に面倒だから嫌だとか言われて断られると思ってたから、相談するの躊躇ってたんだよ。こんなあっさりオーケーしてくれるなら、もっと早く言っとけば良かった」

 思ったよりもトントン拍子に話が進み、あたしは気持ちが浮き足立つのを自覚する。

 これなら、ようやく部活動らしいことを始められるかもしれない。

 もちろん、作るものが決まればそのために必要な材料も考えて集めなくてはいけないけれど、何をすれば良いのかがわかっているだけで難易度は一気にイージーまで下がったようなものだ。

「良かったわね、鈴。二人の協力も得られることが正式に決まったし、いよいよ自由創作倶楽部も楽しくなってくるんじゃないかしら」

 あたしの胸中を見透かしたように流空は微笑み、意味がわかっているのかいないのか、マロンちゃんも

「いっぱいがんばる!!」

 と小さな両腕を目一杯に上げてはしゃぎ回る。

 流空の言うとおり、長々と時間はかけてしまったけど、これでどうにか動きだすことができると肩が軽くなった思いであたしは安堵した。



 ……まるでこの油断したタイミングを狙ったかのように、旧校舎に潜む新たな怪異がまた一つ目覚めようとしていることにも気づけずに。
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