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第四章:孤独な鏡
孤独な鏡 2
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まぁ、確かにいきなり粘土に顔ボンとか言われてもわかるわけないだろうなと思い直し、あたしは自分の考えを改めてマロンちゃんへ伝える。
すると、黙って話を聞いていたマロンちゃんの顔が徐々に輝きだし、説明が終わると同時に
「やりたい!!」
と、両腕を高く突き上げながら快諾の声を響かせてきた。
「ふぅん。面白そうじゃないかしら。やっぱり鈴は頭が良いのね」
前に座ったまま話を聞いていた流空も、柔和な表情をしながら、またこそばゆくなるようなことを言ってくる。
「いやだから、あたしはそんなんじゃないってば。もう、からかわないでよ」
耳と首の辺りが熱くなるのを自覚しながら、あたしはごまかすように視線を部室の中に彷徨わせた。
「マロンちゃん、よーみはどこ? せっかくだし、この際よーみにも前に考えた肉球のこと訊いてみようかな」
よーみの肉球でカラフルスタンプ。
何かあっさり嫌がられそうでひとまずは保留にしておいたのだけど、別に無理矢理やらせるわけではないのだし、早いうちに聞くだけ聞いてみた方が良いはず。
そんなことに今更ながら気づきあたしが問うと、
「ここだけど?」
と、よーみ本人の声がすぐ側から聞こえてきた。
声のした方向、自分の足元へと視線を落とせば、床の下から澄ました顔のよーみが頭だけをだしてあたしを見つめていた。
「……そういうのさ、やめなよ。湯々織先生が見たらまた悲鳴上げて腰抜かしちゃうから」
正直あたしだって、油断しているときにこんなことをされたら飛び上がってしまうかもしれない。
「そんなこと言われても、こっちは物をすり抜けるなんて普通のことだし。生きてる側が不便すぎるんじゃないの?」
「うぅ……まぁその辺は不便かもしれないけど。てか、今はそんなことどうでも良いや。あのさよーみ、よーみも物に触れたりできるんなら、わざと自分の足跡を残したりとかもやろうと思えばできたりする?」
あっさり言い返され、特にうまい反論も浮かばなかったため、あたしは即座に会話を本題に移行させる。
「やろうと思えばできるけど、そんなことを訊いてどうするつもり?」
こちらを怪しむように僅かだけ目を細め、よーみはスゥ……っと床から身体全体を出してくる。
「どうって、あたしたちの部活に協力してもらおうかなって。よーみとマロンちゃんの力を借りれば、普通なら作れない物も作れるようになるんだよ」
あたしたちの活動そのものには大した関心を示していないよーみには、絶対にどうでもいい内容としか聞こえていないだろうなと思いつつ、それでも伝えなくては先には進まないと割り切り言葉を返すと、意外にもよーみは肯定の返事をしてきた。
「ふぅん。あんまり面倒なことじゃないのなら、別に構わないけど。二人には恩もあるし。具体的には? わたしに何をさせたいの?」
想定外の手応えに、あたしは内心テンションを膨らませそうになりながら、今の時点での正直な考えを語って聞かせた。
「実はまだちゃんと決まってはいないんだけど、よーみの足の裏にさ、ペンキって知ってるかな? 色の付いた水みたいなのを付けてもらって、それを紙にペタペタしてもらったり、粘土で足の型を取って判子みたいな物を作れたら楽しいかなとかは思ってるの」
「……よーみを石膏やシリコンで閉じ込めて、身体そのものの型を取るのも面白いんじゃないかしら? よーみを何体も生成できるようになるわよ」
あたしのアイディアに援護射撃でもするように、流空が言葉を付け加えてくる。
「わたしを生成? どういうこと? 一部の人間がやったりしているっていう、オカルト儀式みたいなのがやりたいの?」
流空の告げたアイディアを、何か不穏なものと解釈したようで、よーみが胡散臭そうに若干頭の位置を後ろへ逸らす。
「よーみ、儀式なんて言葉理解してるんだ? でも、それとは違うよ。あたしたちがやろうとしているのは、あくまでも物作りだから。民芸品とか工芸品とか、そういう感じに近いかな」
「民芸品? それは何?」
「儀式知っててそっちは知らんのかい」
すると、黙って話を聞いていたマロンちゃんの顔が徐々に輝きだし、説明が終わると同時に
「やりたい!!」
と、両腕を高く突き上げながら快諾の声を響かせてきた。
「ふぅん。面白そうじゃないかしら。やっぱり鈴は頭が良いのね」
前に座ったまま話を聞いていた流空も、柔和な表情をしながら、またこそばゆくなるようなことを言ってくる。
「いやだから、あたしはそんなんじゃないってば。もう、からかわないでよ」
耳と首の辺りが熱くなるのを自覚しながら、あたしはごまかすように視線を部室の中に彷徨わせた。
「マロンちゃん、よーみはどこ? せっかくだし、この際よーみにも前に考えた肉球のこと訊いてみようかな」
よーみの肉球でカラフルスタンプ。
何かあっさり嫌がられそうでひとまずは保留にしておいたのだけど、別に無理矢理やらせるわけではないのだし、早いうちに聞くだけ聞いてみた方が良いはず。
そんなことに今更ながら気づきあたしが問うと、
「ここだけど?」
と、よーみ本人の声がすぐ側から聞こえてきた。
声のした方向、自分の足元へと視線を落とせば、床の下から澄ました顔のよーみが頭だけをだしてあたしを見つめていた。
「……そういうのさ、やめなよ。湯々織先生が見たらまた悲鳴上げて腰抜かしちゃうから」
正直あたしだって、油断しているときにこんなことをされたら飛び上がってしまうかもしれない。
「そんなこと言われても、こっちは物をすり抜けるなんて普通のことだし。生きてる側が不便すぎるんじゃないの?」
「うぅ……まぁその辺は不便かもしれないけど。てか、今はそんなことどうでも良いや。あのさよーみ、よーみも物に触れたりできるんなら、わざと自分の足跡を残したりとかもやろうと思えばできたりする?」
あっさり言い返され、特にうまい反論も浮かばなかったため、あたしは即座に会話を本題に移行させる。
「やろうと思えばできるけど、そんなことを訊いてどうするつもり?」
こちらを怪しむように僅かだけ目を細め、よーみはスゥ……っと床から身体全体を出してくる。
「どうって、あたしたちの部活に協力してもらおうかなって。よーみとマロンちゃんの力を借りれば、普通なら作れない物も作れるようになるんだよ」
あたしたちの活動そのものには大した関心を示していないよーみには、絶対にどうでもいい内容としか聞こえていないだろうなと思いつつ、それでも伝えなくては先には進まないと割り切り言葉を返すと、意外にもよーみは肯定の返事をしてきた。
「ふぅん。あんまり面倒なことじゃないのなら、別に構わないけど。二人には恩もあるし。具体的には? わたしに何をさせたいの?」
想定外の手応えに、あたしは内心テンションを膨らませそうになりながら、今の時点での正直な考えを語って聞かせた。
「実はまだちゃんと決まってはいないんだけど、よーみの足の裏にさ、ペンキって知ってるかな? 色の付いた水みたいなのを付けてもらって、それを紙にペタペタしてもらったり、粘土で足の型を取って判子みたいな物を作れたら楽しいかなとかは思ってるの」
「……よーみを石膏やシリコンで閉じ込めて、身体そのものの型を取るのも面白いんじゃないかしら? よーみを何体も生成できるようになるわよ」
あたしのアイディアに援護射撃でもするように、流空が言葉を付け加えてくる。
「わたしを生成? どういうこと? 一部の人間がやったりしているっていう、オカルト儀式みたいなのがやりたいの?」
流空の告げたアイディアを、何か不穏なものと解釈したようで、よーみが胡散臭そうに若干頭の位置を後ろへ逸らす。
「よーみ、儀式なんて言葉理解してるんだ? でも、それとは違うよ。あたしたちがやろうとしているのは、あくまでも物作りだから。民芸品とか工芸品とか、そういう感じに近いかな」
「民芸品? それは何?」
「儀式知っててそっちは知らんのかい」
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