59 / 91
第三章:夢霞む恋文
夢霞む恋文 15
しおりを挟む
「それじゃあ、今からこの住所まで行ってみましょう。名前の人へ手紙を見せて、それで何かしら伝わればこの人も納得するかもしれないわ」
「あ、やっぱりすぐですか……」
さすがに学んだので覚悟はしていたが、やはりこういう慣れていないことをいざやろうとなると、怖じ気づきそうになる。
「時間をおいたら、気持ちがだれてしまうかもしれないでしょう? 幸い、学校の制服を着ていればこちらの素性はすぐ理解してもらえるはずだから、そういった意味でも都合が良いわ」
開いていた名簿を閉じて立ち上がると、流空は迷いなく部室から出ていこうと歩きだす。
「言うことはわかるよ。わかるけどさ……その妥協を感じさせない行動力には脅威を感じるわ」
ぼやくように、流空の背中へ声をぶつけて。
未だに未練そうにあたしを見上げるマロンちゃんへ、「行ってくるね。お利口にお留守番しててね」と笑って告げ、あたしもため息を飲み込みながら部室を出ると、流空の横へ並び歩きだした。
◆◇◆◇◆◇◆
校舎を抜け出し、だらだらと話をしながら歩くこと約二十分。
「……普通にあったね、家」
「ええ。表札の名前も、手紙に書かれていたものと一致しているから、どうやら良い方向に事が動いてくれたみたいね」
流空の言葉につられるように、あたしも目の前に建つ家の玄関に取り付けられた表札を確かめる。
黒い文字で谷川と書かれているのを視認して、そして家の外観と周囲の様子から空き家でないことも見定め、あたしは二階建てである谷川家の屋根を見上げながら呟いた。
「……ホントに声かけるの? 大丈夫かな? 変な悪戯とかだって勘違いされて、学校と親に連絡されたらどうしよう」
土壇場にきて不安が頭に積もりだすのは、人間なら当たり前。
今は流空のポケットにある封筒についてきた幽霊を一度横目で視てから、あたしは中途半端な緊張のせいでコクッと小さく喉を鳴らしてしまう。
さすがに警察を呼ばれたりはしないだろうけど、怒られるくらいは普通にありそうだし。
「ここまで来て悩んでいても、今更よ。別に取って食われるわけでもないんだし、礼儀さえわきまえていれば問題なんてないわ」
「あ……」
まごつくあたしの見ている前で、流空は腕を伸ばしてあっさりとインターホンを鳴らしてしまった。
もう逃げられない。留守であってくれたら楽になるのに。
そんな一縷の望みを抱きながら玄関の扉を見つめていると、それほどの間も空けることなくインターホンを通じて中から返事が聞こえてきた。
「はい、どちら様でしょうか?」
中年と思われる、女性の声だった。
「突然お伺いしてしまい申し訳ありません。私、柿根沢高校に通う生徒なのですが、こちらは谷川豊さんのご自宅で間違いありませんでしょうか?」
返された流空の声が予想外だったのか、インターホンの奥で戸惑うような空気が生まれたのが気配で伝わってきた。
「ええ、豊は確かにうちの者ですけど……どういったご用件でしょう?」
無理もないだろう。
旧校舎が使われなくなって、既に二十六年。
当時卒業した生徒は、若くてももう四十才を超えた年齢だ。
そんな年代の人の元へ、女子高生が訪ねてきたとなっては、大抵少しくらいは不審に感じるのは当然だろう。
「私、足達流空と申します。私は今、部活のために旧校舎を利用しているのですが、その旧校舎にある図書室で豊さんが学校へ通っていた頃の物だと思われる忘れ物を見つけまして」
こちらを若干警戒している風でもある相手の声音に一切怯むこともなく、流空はぽんぽんと言葉を連ねていく。
「見たところ、大切な思い出の品かと判断しましたもので、誠に勝手ながら名簿の方で住所を調べさせていただいて、お届けに伺わせていただきました」
「あ、やっぱりすぐですか……」
さすがに学んだので覚悟はしていたが、やはりこういう慣れていないことをいざやろうとなると、怖じ気づきそうになる。
「時間をおいたら、気持ちがだれてしまうかもしれないでしょう? 幸い、学校の制服を着ていればこちらの素性はすぐ理解してもらえるはずだから、そういった意味でも都合が良いわ」
開いていた名簿を閉じて立ち上がると、流空は迷いなく部室から出ていこうと歩きだす。
「言うことはわかるよ。わかるけどさ……その妥協を感じさせない行動力には脅威を感じるわ」
ぼやくように、流空の背中へ声をぶつけて。
未だに未練そうにあたしを見上げるマロンちゃんへ、「行ってくるね。お利口にお留守番しててね」と笑って告げ、あたしもため息を飲み込みながら部室を出ると、流空の横へ並び歩きだした。
◆◇◆◇◆◇◆
校舎を抜け出し、だらだらと話をしながら歩くこと約二十分。
「……普通にあったね、家」
「ええ。表札の名前も、手紙に書かれていたものと一致しているから、どうやら良い方向に事が動いてくれたみたいね」
流空の言葉につられるように、あたしも目の前に建つ家の玄関に取り付けられた表札を確かめる。
黒い文字で谷川と書かれているのを視認して、そして家の外観と周囲の様子から空き家でないことも見定め、あたしは二階建てである谷川家の屋根を見上げながら呟いた。
「……ホントに声かけるの? 大丈夫かな? 変な悪戯とかだって勘違いされて、学校と親に連絡されたらどうしよう」
土壇場にきて不安が頭に積もりだすのは、人間なら当たり前。
今は流空のポケットにある封筒についてきた幽霊を一度横目で視てから、あたしは中途半端な緊張のせいでコクッと小さく喉を鳴らしてしまう。
さすがに警察を呼ばれたりはしないだろうけど、怒られるくらいは普通にありそうだし。
「ここまで来て悩んでいても、今更よ。別に取って食われるわけでもないんだし、礼儀さえわきまえていれば問題なんてないわ」
「あ……」
まごつくあたしの見ている前で、流空は腕を伸ばしてあっさりとインターホンを鳴らしてしまった。
もう逃げられない。留守であってくれたら楽になるのに。
そんな一縷の望みを抱きながら玄関の扉を見つめていると、それほどの間も空けることなくインターホンを通じて中から返事が聞こえてきた。
「はい、どちら様でしょうか?」
中年と思われる、女性の声だった。
「突然お伺いしてしまい申し訳ありません。私、柿根沢高校に通う生徒なのですが、こちらは谷川豊さんのご自宅で間違いありませんでしょうか?」
返された流空の声が予想外だったのか、インターホンの奥で戸惑うような空気が生まれたのが気配で伝わってきた。
「ええ、豊は確かにうちの者ですけど……どういったご用件でしょう?」
無理もないだろう。
旧校舎が使われなくなって、既に二十六年。
当時卒業した生徒は、若くてももう四十才を超えた年齢だ。
そんな年代の人の元へ、女子高生が訪ねてきたとなっては、大抵少しくらいは不審に感じるのは当然だろう。
「私、足達流空と申します。私は今、部活のために旧校舎を利用しているのですが、その旧校舎にある図書室で豊さんが学校へ通っていた頃の物だと思われる忘れ物を見つけまして」
こちらを若干警戒している風でもある相手の声音に一切怯むこともなく、流空はぽんぽんと言葉を連ねていく。
「見たところ、大切な思い出の品かと判断しましたもので、誠に勝手ながら名簿の方で住所を調べさせていただいて、お届けに伺わせていただきました」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
自殺教室
西羽咲 花月
ホラー
目が覚めると主人公たち4人は教室にいた
いつもの教室ではなく
そこは外の出ることのできない異世界だった
ここから出るための方法はただ1つ
教卓にある包丁を使って自らの命を絶つことだった!
やってはいけない危険な遊びに手を出した少年のお話
山本 淳一
ホラー
あるところに「やってはいけない危険な儀式・遊び」に興味を持った少年がいました。
彼は好奇心のままに多くの儀式や遊びを試し、何が起こるかを検証していました。
その後彼はどのような人生を送っていくのか......
初投稿の長編小説になります。
登場人物
田中浩一:主人公
田中美恵子:主人公の母
西藤昭人:浩一の高校時代の友人
長岡雄二(ながおか ゆうじ):経営学部3年、オカルト研究会の部長
秋山逢(あきやま あい):人文学部2年、オカルト研究会の副部長
佐藤影夫(さとうかげお)社会学部2年、オカルト研究会の部員
鈴木幽也(すずきゆうや):人文学部1年、オカルト研究会の部員
ネギと姉御(最弱いじめられっ子の僕⚡️最強どS女.京子のオカルト物語)
デジャヴ
ホラー
小学生の頃、過疎化した村で怪異を経験し横浜に転校した、僕はその日から腑抜けになり
イジメの対象となる。
そんな時、救世主が現れた
それが、京子さん通称、姉御だ。
姉御から僕はネギと呼ばれている。
姉御との出会いにより、怪異と向き合うようになりもとの自分に戻りつつある。
これは姉御が神殺しになるまでの物語だ。
連載中
「僕の神の手」のサイドストーリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる