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第三章:夢霞む恋文
夢霞む恋文 12
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便箋は二枚。それに一通り目を走らせてから、流空はそっとあたしへ差し出してくる。
若干の緊張で恐る恐る受け取り、書かれている文面を読めば、女の子らしい丸文字で確かに特定の男子へ向けた思いの丈が綴られていた。
相手の名前は、谷川豊。
書かれている内容から推測するに、この幽霊と同じ学年だったのだろう。
そして二人は高校三年生。
卒業を間近に控えたタイミングで書かれたことも、読めばすぐに検討をつけることができた。
流空が言った通りで、つまりこれは、卒業を間近に控えた女子高生が、ずっと片思いをしていた男子へ伝えたかった自分の気持ちを書き綴った、愛を伝えるメッセージ。
それが何故本の間に挟まれていたのかは少し違和感を覚えるけれど、どうやらこの二人は当時、同じ図書委員をしていたというのも手紙には書かれていたので、その辺りのことが何かしら関係しているのかもしれない。
「片想いだったのね。それでこの手紙を書いたは良いものの、どういった経緯があったのか、渡すことができずにこんな場所に残されていた」
遠い過去、今自分たちがいる正にこの場所で、仄かな片想いをする女子生徒が意中の男子と肩を並べていた時間があったのか。
少しセンチメンタルな気分を味わいながら、カウンターの辺りを見回すあたしをよそに、流空は独り言のように推測を口にする。
「一番気になる問題は、何故こんな場所に手紙が残っていたのか。渡すつもりでいたのなら、隠す必要はないでしょうし……誰か、恋敵みたいな人がいて、嫌がらせをされた?」
「あー、漫画とかだといるよね。そういうタイプの嫌われ役。でも、どうなのかな。本気で他人の恋を邪魔したいなら、持ち帰って捨てるとか、ビリビリに破ったりするとかしそうじゃない? それなのに、わざわざこの人が図書委員やってるの知ってて図書室に隠すかな?」
嫌がらせとしては、どこか中途半端な気もするけれど。
今一つピンと来ないなと思い、特に何も考えはなしに呟いたあたしの言葉を聞いて、流空が少しだけ意外そうな顔をみせた。
「鈴……そういう嫌がらせをするタイプなの?」
「は? ……い、いやいや! 例えばの話だよ! あたしはそんな陰湿なことやらないよ!」
一瞬何を言われたのか理解できずにポカンとなってから、あたしは即座に首を横に振って否定を示した。
「そう? なら安心だけど……でも、鈴が言ったとおり、確かに誰かが隠したとしたなら中途半端なイメージもあるわね。あくまでも軽い悪戯のつもりだった、という可能性もあるのでしょうけど」
流空はあたしに向けた視線を手紙に移動させ、それからずっと困った表情のまま手紙を見ている幽霊へと逸らした。
悪戯をされたのか、それとも別に何かしら理由があったのか。
もう、三十年近く前に過ぎ去ったミステリーが、今目の前にある。
当時の先生は誰も在籍していないだろうし――高宮先生なら或いは何か知ることもあるだろうか?――、この手紙に残された未練を解消、解明する手段を探し出すのは絶望的な気しかしないが。
これはちょっと、どうにかするのは難しいんじゃないかな――そうあたしの脳が結論を出しかけるのに待ったを告げるようなタイミングで、
「――もう一度、湯々織先生に相談をする必要があるわね」
流空が何かを閃いたように、ボソッと言葉を漏らした。
「え? 何?」
「誰か先生にお願いすれば、卒業者名簿くらいは見せてもらえるはずよ。そこから、この手紙に書かれている男の人を特定できれば、何かしら進展させることができるかもしれないわ」
「あ……なるほど」
若干の緊張で恐る恐る受け取り、書かれている文面を読めば、女の子らしい丸文字で確かに特定の男子へ向けた思いの丈が綴られていた。
相手の名前は、谷川豊。
書かれている内容から推測するに、この幽霊と同じ学年だったのだろう。
そして二人は高校三年生。
卒業を間近に控えたタイミングで書かれたことも、読めばすぐに検討をつけることができた。
流空が言った通りで、つまりこれは、卒業を間近に控えた女子高生が、ずっと片思いをしていた男子へ伝えたかった自分の気持ちを書き綴った、愛を伝えるメッセージ。
それが何故本の間に挟まれていたのかは少し違和感を覚えるけれど、どうやらこの二人は当時、同じ図書委員をしていたというのも手紙には書かれていたので、その辺りのことが何かしら関係しているのかもしれない。
「片想いだったのね。それでこの手紙を書いたは良いものの、どういった経緯があったのか、渡すことができずにこんな場所に残されていた」
遠い過去、今自分たちがいる正にこの場所で、仄かな片想いをする女子生徒が意中の男子と肩を並べていた時間があったのか。
少しセンチメンタルな気分を味わいながら、カウンターの辺りを見回すあたしをよそに、流空は独り言のように推測を口にする。
「一番気になる問題は、何故こんな場所に手紙が残っていたのか。渡すつもりでいたのなら、隠す必要はないでしょうし……誰か、恋敵みたいな人がいて、嫌がらせをされた?」
「あー、漫画とかだといるよね。そういうタイプの嫌われ役。でも、どうなのかな。本気で他人の恋を邪魔したいなら、持ち帰って捨てるとか、ビリビリに破ったりするとかしそうじゃない? それなのに、わざわざこの人が図書委員やってるの知ってて図書室に隠すかな?」
嫌がらせとしては、どこか中途半端な気もするけれど。
今一つピンと来ないなと思い、特に何も考えはなしに呟いたあたしの言葉を聞いて、流空が少しだけ意外そうな顔をみせた。
「鈴……そういう嫌がらせをするタイプなの?」
「は? ……い、いやいや! 例えばの話だよ! あたしはそんな陰湿なことやらないよ!」
一瞬何を言われたのか理解できずにポカンとなってから、あたしは即座に首を横に振って否定を示した。
「そう? なら安心だけど……でも、鈴が言ったとおり、確かに誰かが隠したとしたなら中途半端なイメージもあるわね。あくまでも軽い悪戯のつもりだった、という可能性もあるのでしょうけど」
流空はあたしに向けた視線を手紙に移動させ、それからずっと困った表情のまま手紙を見ている幽霊へと逸らした。
悪戯をされたのか、それとも別に何かしら理由があったのか。
もう、三十年近く前に過ぎ去ったミステリーが、今目の前にある。
当時の先生は誰も在籍していないだろうし――高宮先生なら或いは何か知ることもあるだろうか?――、この手紙に残された未練を解消、解明する手段を探し出すのは絶望的な気しかしないが。
これはちょっと、どうにかするのは難しいんじゃないかな――そうあたしの脳が結論を出しかけるのに待ったを告げるようなタイミングで、
「――もう一度、湯々織先生に相談をする必要があるわね」
流空が何かを閃いたように、ボソッと言葉を漏らした。
「え? 何?」
「誰か先生にお願いすれば、卒業者名簿くらいは見せてもらえるはずよ。そこから、この手紙に書かれている男の人を特定できれば、何かしら進展させることができるかもしれないわ」
「あ……なるほど」
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