旧校舎のマロンちゃん

第三章：夢霞む恋文

夢霞む恋文 ９

　早くもうんざりしてしまうあたしに、流空は優しく微笑を浮かべると

「そうでもないわよ。私も一緒に調べるし、狭い教室とは言っても、これだけの書物がある中からこの棚だけに的を絞って探し物ができるのは、かなりラッキーだと思わなくちゃ」

　そう諭すように告げてきた。

「ん……でも、何を探すのかわからないんじゃ、やっぱり厳しくない？　この幽霊が反応をしてくれないんじゃ、答え合わせのしようがないしさ」

「確かに、そこは問題ね。だけど、そこで悩むのは、ひとまず書物を全て調べ終えてからでも問題はないと思うわ。該当する本を手に取った途端、この人が何かリアクションをみせないとも限らないし」

「あー……なるほどね。それならわかりやすくて助かるけど」

　特定の本に未練を残しているのなら、この幽霊がその本にとり憑いている可能性はなきにしもあらずだ。

　本に未練というのもよくわからないけど――生前、読みきる前に亡くなってしまい続きが気になるとかだろうか――、そうであってくれたらわかりやすい。

「それじゃあ、時間も限られているし始めましょう。私は下から見ていくから、鈴は上の段からお願い。本を手にしたときのこの人の反応や何かメモ書きとか気になるものがあったら、お互いすぐに報告しましょう。あと、よーみはこの人のことを注意して見ていてくれるかしら？　何か変化があったらすぐに教えて」

　てきぱきと役割分担を決めてしまう流空に、あたしもよーみも頷きを返して了承する。

「マロンちゃんは？　マロンちゃんもおてつだいしたい！」

　本人からすればつまらなかったであろう話についてこれず、おとなしくなって立っていたマロンちゃんが、息を吹き返したように両手をあげて流空にまとわりつき始めた。

「マロンちゃんはこのお姉さんの側にいてくれないと皆が困るから、ここから離れないでいてくれると助かるわ」

「えー！　やだ！　もっとちゃんとおてつだいしたいのに！」

　正直、マロンちゃんに関して言えば、流空の言う通りここにいてくれるだけで一番役に立っているのだが、本人にその自覚は皆無らしい。

　仲間外れみたいにはされたくないと、おてつだいおてつだいとぴょんぴょんするマロンちゃんへ、流空は微笑ましいものを見るような目を向けながら、「わかったわ」と言って目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。

「それじゃあ、マロンちゃんは私と一緒に探し物をしましょうか」

「うん！　いっしょにやる！」

　元気に大きく頷いたマロンちゃんを確かめて、流空は今一度あたしを見上げる。

「ということで、鈴もお願いね」

「うん。でもせめてマスク持ってくれば良かったかもね」

「ああ、確かに。今日中に終わらなければ、次からは用意しましょう」

「だね。喉痛めそうでちょっと心配だし」

　肩を竦める仕草を返しながら、なるべく埃を吸わぬようにと呼吸を浅くして、あたしは最上段左端にある少し分厚い本へそっと人差し指を引っかけ、それを抜き取った。