45 / 91
第三章:夢霞む恋文
夢霞む恋文 1
しおりを挟む
1
この旧校舎の二階には、どうやら図書室が存在していたらしい。
普段は二階まで上がることはないし、上がったところで全て鍵が掛けられていて中へは入れないため、よーみに教えられるまで全然気がつくことができなかった。
よーみ曰く、その本がたくさんある部屋に何か微弱な霊気を発する存在が潜んでいる、という。
気になって、散歩気分で図書室へ入り込んだことも何度もあるそうだが、いまいちその正体が何なのか、霊気が弱すぎてうまく把握ができない。部屋の中には間違いなくいるけれど、正確な位置もよくわからない。
と、付喪神のよーみをもってしてもいまいち掴みどころのない何かが、まだこの旧校舎にはいる。
そんな事実を告げられて、あたしと流空は怪訝そうな目をしながらお互いに見つめ合った。
その何かは図書室からは外へ出てはこないようで、それどころか図書室内ですら全く移動をする気配がないらしい。
この気配に関しては、ずっとこの旧校舎に眠り続けていた高宮先生ですら把握していなかったようで、正真正銘謎の存在としてあたしたちの意識にこびりついてきた。
「ねぇ流空、図書室の件ってやっぱり調べようとか思ってるの?」
高宮先生の件が解決して三日。
週の初めの月曜日。その放課後にこうして部室へ集まったあたしと流空は――マロンちゃんは相変わらずよーみと校舎内を駆け回っている――、顔を突き合わせるかたちでよーみから聞かされた話を思い返していた。
自分たちの活動するすぐ上に、正体不明の人ならざるモノがいる。
知らなければ平穏でいられたかもしれないが、知ってしまった以上意識せずにはいられない。
正直、土日の二日間はこのことであたしの頭の七割は埋め尽くされてしまっていたくらいだ。
「そうね。気にならないと言ったら、嘘になるわ。基本的に旧校舎の教室はこことトイレ以外は鍵が掛けられているから、後で適当な理由をつけて湯々織先生へ開けてくれるよう頼んでみましょうか」
「……やっぱそうだよね」
高宮先生の一件を思い返してみても、流空が新たに湧き出たこの案件を無視するわけがないと予想はしていた。
「よーみの話をそのまま受け止めるなら、図書室にいる何かはかなり気配が薄い、つまりは霊気の弱い存在ということになるわ。ずっとこの旧校舎に眠っていた高宮先生も認知できていなかったわけだし」
椅子に背を預けた流空が、まるでドラマに出てくる探偵みたいに白く細い指を顎へと添えた。
「つまり、それほど脅威のあるモノではないはず。正体を確かめて、図書室に留まる理由をはっきりさせられれば、私たちにも何か手助けみたいなことができるかもしれないじゃない?」
「いや、でもさぁ……特に何も助けとか求めてないかもしれないよ? 本当にただそこにいるだけの自縛霊ってこともあり得るし」
流空の告げる言葉に、あたしはすぐ待ったをかける。
かなり古い幽霊の中には、自我を無くしただ静かに佇むだけのタイプが存在する。
長い年月をかけ、自分が何故この世に留まってしまう羽目になったのか、その理由すら忘却してしまった虚しい存在。
誰かに害があるわけでもなく、かと言って益があるわけでもない。
ただ、そこにあるだけ。
そんな曖昧で悲しい存在が、日常のふとした場所に佇んでいることが稀にあるのだ。
もし図書室にいる何かがそれらと同類の存在であるならば、はっきり言って関わる必要性は皆無だ。
こちらのアクションには一切の反応を示さないし、助けてあげられる術も、あたしたちは持ち合わせていないのだから。
唯一、方法があるとすれば、それこそちゃんとした霊媒師を雇って徐霊をしてもらうくらいだろうが、生憎そんなお金はない。
「そうねぇ……もし駄目そうなら、その時は残念だけど諦めるしかないかしら。私たちで成仏させてあげられたら、一番良いのでしょうけど。なんとも歯痒いわね」
あたしの発言に、流空は少し困ったような面持ちを浮かべ苦笑した。
この旧校舎の二階には、どうやら図書室が存在していたらしい。
普段は二階まで上がることはないし、上がったところで全て鍵が掛けられていて中へは入れないため、よーみに教えられるまで全然気がつくことができなかった。
よーみ曰く、その本がたくさんある部屋に何か微弱な霊気を発する存在が潜んでいる、という。
気になって、散歩気分で図書室へ入り込んだことも何度もあるそうだが、いまいちその正体が何なのか、霊気が弱すぎてうまく把握ができない。部屋の中には間違いなくいるけれど、正確な位置もよくわからない。
と、付喪神のよーみをもってしてもいまいち掴みどころのない何かが、まだこの旧校舎にはいる。
そんな事実を告げられて、あたしと流空は怪訝そうな目をしながらお互いに見つめ合った。
その何かは図書室からは外へ出てはこないようで、それどころか図書室内ですら全く移動をする気配がないらしい。
この気配に関しては、ずっとこの旧校舎に眠り続けていた高宮先生ですら把握していなかったようで、正真正銘謎の存在としてあたしたちの意識にこびりついてきた。
「ねぇ流空、図書室の件ってやっぱり調べようとか思ってるの?」
高宮先生の件が解決して三日。
週の初めの月曜日。その放課後にこうして部室へ集まったあたしと流空は――マロンちゃんは相変わらずよーみと校舎内を駆け回っている――、顔を突き合わせるかたちでよーみから聞かされた話を思い返していた。
自分たちの活動するすぐ上に、正体不明の人ならざるモノがいる。
知らなければ平穏でいられたかもしれないが、知ってしまった以上意識せずにはいられない。
正直、土日の二日間はこのことであたしの頭の七割は埋め尽くされてしまっていたくらいだ。
「そうね。気にならないと言ったら、嘘になるわ。基本的に旧校舎の教室はこことトイレ以外は鍵が掛けられているから、後で適当な理由をつけて湯々織先生へ開けてくれるよう頼んでみましょうか」
「……やっぱそうだよね」
高宮先生の一件を思い返してみても、流空が新たに湧き出たこの案件を無視するわけがないと予想はしていた。
「よーみの話をそのまま受け止めるなら、図書室にいる何かはかなり気配が薄い、つまりは霊気の弱い存在ということになるわ。ずっとこの旧校舎に眠っていた高宮先生も認知できていなかったわけだし」
椅子に背を預けた流空が、まるでドラマに出てくる探偵みたいに白く細い指を顎へと添えた。
「つまり、それほど脅威のあるモノではないはず。正体を確かめて、図書室に留まる理由をはっきりさせられれば、私たちにも何か手助けみたいなことができるかもしれないじゃない?」
「いや、でもさぁ……特に何も助けとか求めてないかもしれないよ? 本当にただそこにいるだけの自縛霊ってこともあり得るし」
流空の告げる言葉に、あたしはすぐ待ったをかける。
かなり古い幽霊の中には、自我を無くしただ静かに佇むだけのタイプが存在する。
長い年月をかけ、自分が何故この世に留まってしまう羽目になったのか、その理由すら忘却してしまった虚しい存在。
誰かに害があるわけでもなく、かと言って益があるわけでもない。
ただ、そこにあるだけ。
そんな曖昧で悲しい存在が、日常のふとした場所に佇んでいることが稀にあるのだ。
もし図書室にいる何かがそれらと同類の存在であるならば、はっきり言って関わる必要性は皆無だ。
こちらのアクションには一切の反応を示さないし、助けてあげられる術も、あたしたちは持ち合わせていないのだから。
唯一、方法があるとすれば、それこそちゃんとした霊媒師を雇って徐霊をしてもらうくらいだろうが、生憎そんなお金はない。
「そうねぇ……もし駄目そうなら、その時は残念だけど諦めるしかないかしら。私たちで成仏させてあげられたら、一番良いのでしょうけど。なんとも歯痒いわね」
あたしの発言に、流空は少し困ったような面持ちを浮かべ苦笑した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
はじまりはいつもラブオール
フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。
高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。
ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。
主人公たちの高校部活動青春ものです。
日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、
卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。
pixivにも投稿しています。
蛍地獄奇譚
玉楼二千佳
ライト文芸
地獄の門番が何者かに襲われ、妖怪達が人間界に解き放たれた。閻魔大王は、我が次男蛍を人間界に下界させ、蛍は三吉をお供に調査を開始する。蛍は絢詩野学園の生徒として、潜伏する。そこで、人間の少女なずなと出逢う。
蛍となずな。決して出逢うことのなかった二人が出逢った時、運命の歯車は動き始める…。
*表紙のイラストは鯛飯好様から頂きました。
著作権は鯛飯好様にあります。無断転載厳禁
良いものは全部ヒトのもの
猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。
ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。
翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。
一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。
『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』
憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。
自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
パーフェクトアンドロイド
ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。
だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。
俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。
レアリティ学園の新入生は100名。
そのうちアンドロイドは99名。
つまり俺は、生身の人間だ。
▶︎credit
表紙イラスト おーい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる