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第二章:宿直の先生
宿直の先生 15
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真っ暗になった室内で、マロンちゃんのはしゃぐ声だけが響き、内心で結構恐いシチュエーションかもと独り言を漏らす。
暗い中にいても薄っすらと輪郭が視えるマロンちゃんとよーみが、音も立てることなく動き回る光景を暫し眺め、暗闇に目が慣れてきた頃合いになってから、あたしは椅子に座っていた流空へ声をかけた。
「ねぇ、流空。あたし今さ、フッと思い浮かんだんだけど……」
「何かしら?」
特に身動きすることもせず、ジッと中空を凝視していた流空の首が、こちらを向いたのがわかった。
「自由創作部の活動。マロンちゃんやよーみにも協力してもらえたら、みたいな話したでしょ?」
「ええ」
「それで思ったんだけど、心霊グッズみたいな物をたくさん創れたら面白くないかな? まぁ、別にグッズになる必要はないんだけど、そんなイメージのやつ。雑貨屋とかにありそうなさ」
たった今、遊び回るマロンちゃんたちを見ていて閃いたアイディア。
よーみやマロンちゃんに物へ触れる能力があるのなら、〈幽霊の手形〉なんて創るのは簡単だろうし、その気になれば心霊動画なんかも作成できる。
あくまでそれっぽく創ったフィクションだと説明すれば、見た人は普通に信用するだろうし、うまくいけば文化祭などで発表することもできるかもしれない。
よーみの肉球手形なんて、色んなカラーを用意すれば結構可愛く仕上げることも可能だろう。
「なるほど……悪くないわね。へたに奇をてらおうとするより、シンプルな方がやりやすいでしょうし、その方向で考えてみるのはありだと思うわ」
あたしの提案を吟味するように顎へ手をやりながら、流空が大きく頷いた。
「謎の先生を探りにきたのに、思わぬ進展に恵まれたわね」
「ん……。いつまでもまごついてるだけじゃ、頑張って部を立ち上げた意味もないしね。良かったぁ、アイディアが全然浮かばなかったから、あたし内心では焦ってたんだよ」
ただ毎日椅子に座って、他愛のない会話をしながら時間を無駄にしていたここ数日。
気楽と受け止めれば悪くない感じもするが、せっかく流空と二人で立ち上げた部なのだから、もっと面白いものにしたいという気持ちがずっとあった。
そんな中で、お互いに幽霊が視えるという特別な共通点を持っていて、あまつさえ幽霊と仲良くまでなれるというミラクルな条件が整ったのだ。
それならば、世間では恐いモノとイメージが定着している本物の幽霊たちと協力し合い、可愛らしい作品やユニークな作品を創りだせたらきっと面白いだろう。
「そんなに真面目にならなくても、別に構わないのに。でも、ありがとう。鈴がそこまで私のために頑張ろうとしてくれていたのは嬉しいわ」
「あ……うん。友達なんだし、そんなのは当然のこ――っ!?」
感謝され、こそばゆい気分になりながら頷いたあたしは、突然背後に現れた異様な気配を察知し、緩めていた表情をビクリと引きつらせた。
穏やかだった部室内の空気が、一瞬にして一変した。
この感覚を、あたしは本能で理解している。
数える程度の経験でしかないが、過去にも遭遇している感覚。
交通事故の現場や墓地を通るときに、稀に襲いかかるこの気配は、敵意を向けてくる霊の気配と同一のものだ。
その気配があるのは、あたしの背後。廊下のある方向からだ。
つい数秒前まではしゃぎ回っていたマロンちゃんとよーみが動きを止め、あたしの方を見ている。
流空もまた、同じように顔を上げてこちらを向いているが、それらの視線があたしではなく、その後ろにいるであろう何かへ注がれていることは、考えるまでもなく理解できた。
どうしたら良いだろうと、脳内に汗が滲むような嫌な感覚が全身を這う。
振り向けば、間違いなく何かがそこにいる。だけど、振り向くのは恐い。
現時点の立ち位置で、一番現れた気配と近い位置にいるのはあたしであり、その事実もまた心の中から冷静さをガリガリと削り落とそうとしてきている。
ひとまず、金縛りにはなっていない。
動こうと思えば、いつでも身体は動く。
暗い中にいても薄っすらと輪郭が視えるマロンちゃんとよーみが、音も立てることなく動き回る光景を暫し眺め、暗闇に目が慣れてきた頃合いになってから、あたしは椅子に座っていた流空へ声をかけた。
「ねぇ、流空。あたし今さ、フッと思い浮かんだんだけど……」
「何かしら?」
特に身動きすることもせず、ジッと中空を凝視していた流空の首が、こちらを向いたのがわかった。
「自由創作部の活動。マロンちゃんやよーみにも協力してもらえたら、みたいな話したでしょ?」
「ええ」
「それで思ったんだけど、心霊グッズみたいな物をたくさん創れたら面白くないかな? まぁ、別にグッズになる必要はないんだけど、そんなイメージのやつ。雑貨屋とかにありそうなさ」
たった今、遊び回るマロンちゃんたちを見ていて閃いたアイディア。
よーみやマロンちゃんに物へ触れる能力があるのなら、〈幽霊の手形〉なんて創るのは簡単だろうし、その気になれば心霊動画なんかも作成できる。
あくまでそれっぽく創ったフィクションだと説明すれば、見た人は普通に信用するだろうし、うまくいけば文化祭などで発表することもできるかもしれない。
よーみの肉球手形なんて、色んなカラーを用意すれば結構可愛く仕上げることも可能だろう。
「なるほど……悪くないわね。へたに奇をてらおうとするより、シンプルな方がやりやすいでしょうし、その方向で考えてみるのはありだと思うわ」
あたしの提案を吟味するように顎へ手をやりながら、流空が大きく頷いた。
「謎の先生を探りにきたのに、思わぬ進展に恵まれたわね」
「ん……。いつまでもまごついてるだけじゃ、頑張って部を立ち上げた意味もないしね。良かったぁ、アイディアが全然浮かばなかったから、あたし内心では焦ってたんだよ」
ただ毎日椅子に座って、他愛のない会話をしながら時間を無駄にしていたここ数日。
気楽と受け止めれば悪くない感じもするが、せっかく流空と二人で立ち上げた部なのだから、もっと面白いものにしたいという気持ちがずっとあった。
そんな中で、お互いに幽霊が視えるという特別な共通点を持っていて、あまつさえ幽霊と仲良くまでなれるというミラクルな条件が整ったのだ。
それならば、世間では恐いモノとイメージが定着している本物の幽霊たちと協力し合い、可愛らしい作品やユニークな作品を創りだせたらきっと面白いだろう。
「そんなに真面目にならなくても、別に構わないのに。でも、ありがとう。鈴がそこまで私のために頑張ろうとしてくれていたのは嬉しいわ」
「あ……うん。友達なんだし、そんなのは当然のこ――っ!?」
感謝され、こそばゆい気分になりながら頷いたあたしは、突然背後に現れた異様な気配を察知し、緩めていた表情をビクリと引きつらせた。
穏やかだった部室内の空気が、一瞬にして一変した。
この感覚を、あたしは本能で理解している。
数える程度の経験でしかないが、過去にも遭遇している感覚。
交通事故の現場や墓地を通るときに、稀に襲いかかるこの気配は、敵意を向けてくる霊の気配と同一のものだ。
その気配があるのは、あたしの背後。廊下のある方向からだ。
つい数秒前まではしゃぎ回っていたマロンちゃんとよーみが動きを止め、あたしの方を見ている。
流空もまた、同じように顔を上げてこちらを向いているが、それらの視線があたしではなく、その後ろにいるであろう何かへ注がれていることは、考えるまでもなく理解できた。
どうしたら良いだろうと、脳内に汗が滲むような嫌な感覚が全身を這う。
振り向けば、間違いなく何かがそこにいる。だけど、振り向くのは恐い。
現時点の立ち位置で、一番現れた気配と近い位置にいるのはあたしであり、その事実もまた心の中から冷静さをガリガリと削り落とそうとしてきている。
ひとまず、金縛りにはなっていない。
動こうと思えば、いつでも身体は動く。
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