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第二章:宿直の先生
宿直の先生 4
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ますます意味がわからなくなり、二人で首を傾げていると、突然よーみが床へ横になりながらポツリと言葉を放ってきた。
「名前はわからないけれど、男の人よ。老人。マロンちゃん、昨日の夜にここへ遊びに来て、その人に見つかって叱られてたの。帰りなさいって」
自分には無関係な話だけどねというような口調で言って、よーみは昼寝をするつもりなのかそのまま目を瞑る。
「夜? マロンちゃん夜に学校へ来たの?」
放課後のことかと思っていたあたしは、驚きながらマロンちゃんの方へ視線を戻し問いかける。
「うん。よーみとあそぼうとおもって、あそびにきたの」
「……ああ、なるほど」
ある意味、子供らしい理由ではある。
幽霊ならいつ外へ抜け出しても生きてる人間にはばれないし、いちいちルールも存在しない。
いくらマロンちゃんが良い子であっても、そこはやはりまだ子供。
遊びたい気持ちや好奇心が強ければ、こっそり家を抜け出してしまうことも充分に考えられることだった。
「何時くらいかは知らないけれど、夜にこの旧校舎へ入り込んで、知らない先生に怒られたってことね。それじゃあ、その先生は誰なのかしら。どうにも話が繋がりきらないわね」
「宿直の先生……なのかな? 後で湯々織に訊いてみようか?」
「そうね」
夜の旧校舎でマロンちゃんを見かけ、咄嗟に叱責してしまった宿直の先生。
しかし次の瞬間、マロンちゃんは驚いて壁――または窓――をすり抜け消え去ってしまう。
そんな光景を目の当たりにしたら、その先生は果たしてどんなことを考えるだろうか。
今日になって、昨夜自分は女の子の幽霊を目撃しました、などと他の教職員へ打ち明けるかとなると、その人によるとしか言えなくなる。
即座に話を広める人もいれば、どうせ信じてもらえないと世間体を気にして己の胸にしまいこむ人だって当たり前にいるわけだし。
今回マロンちゃんが遭遇した先生が後者なら、学校内で噂や騒ぎが起きていなかったことにも納得がいきそうだ。
でも、そうなればきっと、湯々織先生だって何も認識していない可能性が高いかもしれない。
「湯々織先生もさ、たぶん何も知らない可能性もあるし、いっそ宿直の先生が誰なのかも聞きだそうよ。あと、普段どこにいるのかとか」
「そうね。でも、ちょっと腑に落ちないのよ」
あたしの提案にあっさり頷いた流空は、しかしすぐにその顔を曇らせる。
「腑に落ちないって、何が?」
「部の申請を学校に出して、この教室を借りさせてもらえる話になったとき、先生たちが言っていたのを覚えてない? ここはもうずっと使っていないって。普段は全ての窓が施錠されてて、滅多なことがない限り誰も入らないとも言っていたわ。それに、思い出してみて。この旧校舎、掃除も何もされていないから、廊下にも薄っすら埃が溜まっているでしょう? 私たちが初めて訪れたとき、新しい足跡はどこにもなかったはず。毎日、または定期的に夜の見回りをしているのだとしたなら、これはちょっとおかしくないかしら?」
「あ、言われてみれば……」
もしあたしたちが来るよりも前から、夜の見回りをする先生が訪れているとするなら、その痕跡が残されていなくてはおかしい。
よーみを初めて見かけた朝、あたしたちは二階へと上がった。
そのときに歩いた廊下にはほんのりと埃が積もっていたのだが、誰の足跡も残されてはいなかった。
この旧校舎へ最初に入ったときもそうだった。一階の廊下にも、定期的に人が出入りしている痕跡は見つけられなかったように記憶している。
「名前はわからないけれど、男の人よ。老人。マロンちゃん、昨日の夜にここへ遊びに来て、その人に見つかって叱られてたの。帰りなさいって」
自分には無関係な話だけどねというような口調で言って、よーみは昼寝をするつもりなのかそのまま目を瞑る。
「夜? マロンちゃん夜に学校へ来たの?」
放課後のことかと思っていたあたしは、驚きながらマロンちゃんの方へ視線を戻し問いかける。
「うん。よーみとあそぼうとおもって、あそびにきたの」
「……ああ、なるほど」
ある意味、子供らしい理由ではある。
幽霊ならいつ外へ抜け出しても生きてる人間にはばれないし、いちいちルールも存在しない。
いくらマロンちゃんが良い子であっても、そこはやはりまだ子供。
遊びたい気持ちや好奇心が強ければ、こっそり家を抜け出してしまうことも充分に考えられることだった。
「何時くらいかは知らないけれど、夜にこの旧校舎へ入り込んで、知らない先生に怒られたってことね。それじゃあ、その先生は誰なのかしら。どうにも話が繋がりきらないわね」
「宿直の先生……なのかな? 後で湯々織に訊いてみようか?」
「そうね」
夜の旧校舎でマロンちゃんを見かけ、咄嗟に叱責してしまった宿直の先生。
しかし次の瞬間、マロンちゃんは驚いて壁――または窓――をすり抜け消え去ってしまう。
そんな光景を目の当たりにしたら、その先生は果たしてどんなことを考えるだろうか。
今日になって、昨夜自分は女の子の幽霊を目撃しました、などと他の教職員へ打ち明けるかとなると、その人によるとしか言えなくなる。
即座に話を広める人もいれば、どうせ信じてもらえないと世間体を気にして己の胸にしまいこむ人だって当たり前にいるわけだし。
今回マロンちゃんが遭遇した先生が後者なら、学校内で噂や騒ぎが起きていなかったことにも納得がいきそうだ。
でも、そうなればきっと、湯々織先生だって何も認識していない可能性が高いかもしれない。
「湯々織先生もさ、たぶん何も知らない可能性もあるし、いっそ宿直の先生が誰なのかも聞きだそうよ。あと、普段どこにいるのかとか」
「そうね。でも、ちょっと腑に落ちないのよ」
あたしの提案にあっさり頷いた流空は、しかしすぐにその顔を曇らせる。
「腑に落ちないって、何が?」
「部の申請を学校に出して、この教室を借りさせてもらえる話になったとき、先生たちが言っていたのを覚えてない? ここはもうずっと使っていないって。普段は全ての窓が施錠されてて、滅多なことがない限り誰も入らないとも言っていたわ。それに、思い出してみて。この旧校舎、掃除も何もされていないから、廊下にも薄っすら埃が溜まっているでしょう? 私たちが初めて訪れたとき、新しい足跡はどこにもなかったはず。毎日、または定期的に夜の見回りをしているのだとしたなら、これはちょっとおかしくないかしら?」
「あ、言われてみれば……」
もしあたしたちが来るよりも前から、夜の見回りをする先生が訪れているとするなら、その痕跡が残されていなくてはおかしい。
よーみを初めて見かけた朝、あたしたちは二階へと上がった。
そのときに歩いた廊下にはほんのりと埃が積もっていたのだが、誰の足跡も残されてはいなかった。
この旧校舎へ最初に入ったときもそうだった。一階の廊下にも、定期的に人が出入りしている痕跡は見つけられなかったように記憶している。
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