旧校舎のマロンちゃん

雪鳴月彦

文字の大きさ
上 下
28 / 91
第二章:宿直の先生

宿直の先生 3

しおりを挟む
         2

 自由創作部の記念すべき最初の活動が決まらないまま、一週間も過ぎてしまった木曜日の昼休み。

 あたしと流空の元へ、新しい謎が落ちてきた。

 お昼を食べ終えて、早く活動内容を決めねばと部室へ直行したあたしたち二人を待っていたのは、困ったようなマロンちゃんの姿だった。

 そのすぐ横には、相変わらず澄ました表情でちょこんと座るよーみもいる。今日は黒猫になっている。

「マロンちゃん、よーみ、こんにちは」

 にこやかに流空が声をかけると、マロンちゃんは何かを言いたそうな様子で顔を上げ、「こんにちは」とあからさまに元気のない声で挨拶を返してきた。

 昨日帰るときはいつもと変わらぬ元気っぷりを発揮していたはずなのに、丸一日も経たずにこの変化はなんなのだろうか。

 説明を求めようと、よーみへ視線で問いかけてみても、すっとぼけた様子で欠伸あくびをしているだけで、答えをくれるつもりはなさそうだ。

 流空もマロンちゃんの普段とは違う態度を気にしてか、思案するように横目であたしを見つめてきた。

 具合が悪い……とは違う。例えるなら、言うことを聞かなかった子が親に叱られた直後みたいな、そんなしょげ方をしているマロンちゃんのつむじ部分を数秒間二人で眺めて、結局あたしが疑問を口に出すことで事態が先へと進むこととなった。

「……マロンちゃん、何かあったの?」

 恐る恐る、俯いたままの頭へ声をかけると、マロンちゃんはその小さな頭をゆっくりと上げ、縋るようにあたしを見つめてくる。

「あのね、おこられちゃった」

「怒られた?」

 更に意味がわからなくなり、あたしはしょんぼりするマロンちゃんを見つめ返すことしかできない。

「せんせいに、あそんでちゃだめだって」

「先生? 湯々織先生、ついに吹っ切れたのかな?」

 あれほどビビりまくっていた湯々織先生が、こんな短期間で幽霊との接触を克服できるものだろうか。

 疑問をむくむくと膨らませながら流空へ意見を求めると、不思議そうに首を傾げてスッとマロンちゃんの前へしゃがみ込んだ。

「私たちが帰った後に、湯々織先生が旧校舎へ戻ってくる理由があるかしら? マロンちゃん、ひょっとしてあっちの新しい校舎へ入り込んで遊んだりしなかった?」

 責めるではなく、あくまでもただ訊いただけという柔らかいニュアンスで流空が問うと、マロンちゃんは「してない」と首を横へと振って答えてくる。

「新校舎へ行って叱られたわけではないのね……。それじゃあ、偶然旧校舎に入ってきた他の先生がいて、それで見つかって叱られた?」

 顎に手を当て、自分の発した言葉を疑うように流空はうめく。

「いや、それはおかしいよ。もしそうならさ、その先生はマロンちゃんの姿が視えていて、尚且つ生きてる子と勘違いしたってことにならない? だとすれば、今頃学校で噂になったり、先生たちが何か対策とかしてる雰囲気が漂ってたりしてそうなものだけど、今日一日何もなかったじゃん」

 夕方以降の敷地内、それも関係者ですら滅多に立ち入らない旧校舎に、幼い幼女が入り込んでいましたとなれば、百パーセント問題になるはず。

 しかし、今日ずっと校内で過ごしていても、そんなことが起きていたと騒ぎになるようなことは何一つなかった。

「なるほど。確かに鈴の言うとおりだわ。となると……マロンちゃんは誰に叱られた? やっぱり、湯々織先生なのかしら?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

蛍地獄奇譚

玉楼二千佳
ライト文芸
地獄の門番が何者かに襲われ、妖怪達が人間界に解き放たれた。閻魔大王は、我が次男蛍を人間界に下界させ、蛍は三吉をお供に調査を開始する。蛍は絢詩野学園の生徒として、潜伏する。そこで、人間の少女なずなと出逢う。 蛍となずな。決して出逢うことのなかった二人が出逢った時、運命の歯車は動き始める…。 *表紙のイラストは鯛飯好様から頂きました。 著作権は鯛飯好様にあります。無断転載厳禁

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

パーフェクトアンドロイド

ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。 だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。 俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。 レアリティ学園の新入生は100名。 そのうちアンドロイドは99名。 つまり俺は、生身の人間だ。 ▶︎credit 表紙イラスト おーい

片翅の火蝶 ▽半端者と蔑まれていた蝶が、蝋燭頭の旦那様に溺愛されるようです▽

偽月
キャラ文芸
  「――きっと、姉様の代わりにお役目を果たします」  大火々本帝国《だいかがほんていこく》。通称、火ノ本。  八千年の歴史を誇る、この国では火山を神として崇め、火を祀っている。国に伝わる火の神の伝承では、神の怒り……噴火を鎮めるため一人の女が火口に身を投じたと言う。  人々は蝶の痣を背負った一族の女を【火蝶《かちょう》】と呼び、火の神の巫女になった女の功績を讃え、祀る事にした。再び火山が噴火する日に備えて。  火縄八重《ひなわ やえ》は片翅分の痣しか持たない半端者。日々、お蚕様の世話に心血を注ぎ、絹糸を紡いできた十八歳の生娘。全ては自身に向けられる差別的な視線に耐える為に。  八重は火蝶の本家である火焚家の長男・火焚太蝋《ほたき たろう》に嫁ぐ日を迎えた。  火蝶の巫女となった姉・千重の代わりに。  蝶の翅の痣を背負う女と蝋燭頭の軍人が織りなす大正ロマンスファンタジー。

処理中です...