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第一章:幸福の記憶
幸福の記憶 21
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「――さて、今日はもうこれくらいにしておいても良さそうね。予定よりは結構進めたんじゃないかしら?」
「うん、そうだね。結構やればできるもんだって、自分でも思ったよ」
時刻は夕方の五時五十分を過ぎた頃。
あたしと流空は、蛍光灯の明かりに照らされた自由創作部の部室を眺め回しながら、お互いに満足気な頷きを交わし合った。
よーみの人形を掘り出してから、あたしたちはすぐに部室獲得へ向けての掃除を再開した。
昼休みの残りとこの放課後をフルに使い、昨日やり残した拭き掃除をまずは一気に終わらせ、あたしが個人的に一番面倒だと感じていた机と椅子の掃除も、流空と一緒に始めてみれば思いのほか順調に進めることができた――と言うより単に流空の仕事が速くて助けられてたというのが現実だけど――のが、大きな成果だった。
「おそうじぜんぶおわったの?」
あたしたちが大掃除に汗を流している最中もひたすら周りを飛び回って遊んでいたマロンちゃんが、満面の笑顔を浮かべながら側へと飛んできた。
「んー……まだもう少し残ってるかな。廊下にある机と椅子も綺麗にして、教室に片付ければ終わり。明日には間に合いそうだね」
最後の方は流空へ向けて声をかけながら、あたしは両手を腰へ当ててグッと状態を仰け反らせるようにして身体を解す。
「そうね。ここまで終われたのなら、明日は朝の掃除はしなくても大丈夫そうだし、普通どおりの時間に登校しても良いと思うわ」
「え? やった! ゆっくり寝れる!」
思わぬ幸運についガッツポーズをしてしまうあたしの真似をして、マロンちゃんも意味もなく「やったー! やったー!」と両腕を上げながらピョンピョンと飛び跳ねる仕草をしてはしゃぎだした。
「部活動が正式に認められたら、まずは必要な物を買い集めていかなくちゃいけないわね。どんな創作をするのかを最初に決めて、それから買い物をしようと思っているけど、部費が貰えないことだけが目下の課題になりそうだわ」
無邪気に動き回るマロンちゃんを眺めながら、流空は困ったように腕を組み静かにため息を漏らした。
「あー、そっか。その問題もあったね。確かに、部活だけにお小遣い削るのはちょっと不本意だし、かと言ってバイト始めちゃったら部活ができなくなるかもしれないし。なるべくお金かけないでもできることとか、あれば良いんだけどね」
元々学校にある部活動とは違い、個人的に立ち上げた部である以上、その活動に必要な道具や資材は何も用意はしてもらえない。
生徒たちが自主的にやる活動には、余程特別な事情でもない限り学校がお金を使ってくれることはしないと、事前の説明にもあった。
「何の話をしてるの?」
流空と二人、今後の我が部の活動について話し合っていると、掃除を済ませて積み上げなおした机の上からよーみが問いを投げかけてきた。
ちょんと置かれた八割れ猫人形のすぐ横に、同じようにちょんと座った白猫の青い瞳が、あたしの方を見つめている。
「部活動……って、よーみにはわからないかな。これからほぼ毎日、放課後にこの部屋へ来て何かやらなくちゃいけないんだけど、どんなことをしようかって相談をしてるの。自由に好きなものを創ろうって方針の活動なんだけど、ちょっと漠然とし過ぎてるし」
「ふぅん。よくわからないけど、大変そうね」
部活動というものを改めて説明するのは意外と難しいなと、内心苦悩しながら告げるあたしへ、よーみは小さく首を傾げて他人事丸出しな言葉を返してくる。
タイムカプセルから掘り返されたよーみの本体は、もう地中にはいたくないというよーみ本人の強い希望により、我らが自由創作部に飾られることが――他にもあった品々と封筒はまた地中へ埋め直しておいた――決定した。
当然の流れと言うべきか、それに付随するかたちで付喪神のよーみも我が部の一員となり、こうしてマロンちゃんに続いて二体目の人外が部室へ増えたわけなのだが。
このことを湯々織先生が知ったら、果たしてどうなることか。
マロンちゃん一人であのテンパり具合だ。
下手したら泣いて顧問を辞退しようとするかもしれない。
「……お、お前たち、進捗 はどうだ?」
ガラリと遠慮がちにドアが開き、頭に浮かべていた人物が恐る恐る部室を覗き込んできた。
「あ! せんせーだ! こんにちは!」
即座に、嬉々とした表情を浮かべたマロンちゃんが湯々織先生の元へと飛んでいく。
「あああああ! 来なくてもいいから! そっちで遊んでていいから! ね、良い子だから!」
パニックになったように地団駄を踏み、開けたばかりのドアを閉めようとした湯々織先生だったが、それよりも一瞬早くマロンちゃんに足元へ絡みつかれ――透けてるけど――、半泣きのような顔で固まってしまった。
「――さて、今日はもうこれくらいにしておいても良さそうね。予定よりは結構進めたんじゃないかしら?」
「うん、そうだね。結構やればできるもんだって、自分でも思ったよ」
時刻は夕方の五時五十分を過ぎた頃。
あたしと流空は、蛍光灯の明かりに照らされた自由創作部の部室を眺め回しながら、お互いに満足気な頷きを交わし合った。
よーみの人形を掘り出してから、あたしたちはすぐに部室獲得へ向けての掃除を再開した。
昼休みの残りとこの放課後をフルに使い、昨日やり残した拭き掃除をまずは一気に終わらせ、あたしが個人的に一番面倒だと感じていた机と椅子の掃除も、流空と一緒に始めてみれば思いのほか順調に進めることができた――と言うより単に流空の仕事が速くて助けられてたというのが現実だけど――のが、大きな成果だった。
「おそうじぜんぶおわったの?」
あたしたちが大掃除に汗を流している最中もひたすら周りを飛び回って遊んでいたマロンちゃんが、満面の笑顔を浮かべながら側へと飛んできた。
「んー……まだもう少し残ってるかな。廊下にある机と椅子も綺麗にして、教室に片付ければ終わり。明日には間に合いそうだね」
最後の方は流空へ向けて声をかけながら、あたしは両手を腰へ当ててグッと状態を仰け反らせるようにして身体を解す。
「そうね。ここまで終われたのなら、明日は朝の掃除はしなくても大丈夫そうだし、普通どおりの時間に登校しても良いと思うわ」
「え? やった! ゆっくり寝れる!」
思わぬ幸運についガッツポーズをしてしまうあたしの真似をして、マロンちゃんも意味もなく「やったー! やったー!」と両腕を上げながらピョンピョンと飛び跳ねる仕草をしてはしゃぎだした。
「部活動が正式に認められたら、まずは必要な物を買い集めていかなくちゃいけないわね。どんな創作をするのかを最初に決めて、それから買い物をしようと思っているけど、部費が貰えないことだけが目下の課題になりそうだわ」
無邪気に動き回るマロンちゃんを眺めながら、流空は困ったように腕を組み静かにため息を漏らした。
「あー、そっか。その問題もあったね。確かに、部活だけにお小遣い削るのはちょっと不本意だし、かと言ってバイト始めちゃったら部活ができなくなるかもしれないし。なるべくお金かけないでもできることとか、あれば良いんだけどね」
元々学校にある部活動とは違い、個人的に立ち上げた部である以上、その活動に必要な道具や資材は何も用意はしてもらえない。
生徒たちが自主的にやる活動には、余程特別な事情でもない限り学校がお金を使ってくれることはしないと、事前の説明にもあった。
「何の話をしてるの?」
流空と二人、今後の我が部の活動について話し合っていると、掃除を済ませて積み上げなおした机の上からよーみが問いを投げかけてきた。
ちょんと置かれた八割れ猫人形のすぐ横に、同じようにちょんと座った白猫の青い瞳が、あたしの方を見つめている。
「部活動……って、よーみにはわからないかな。これからほぼ毎日、放課後にこの部屋へ来て何かやらなくちゃいけないんだけど、どんなことをしようかって相談をしてるの。自由に好きなものを創ろうって方針の活動なんだけど、ちょっと漠然とし過ぎてるし」
「ふぅん。よくわからないけど、大変そうね」
部活動というものを改めて説明するのは意外と難しいなと、内心苦悩しながら告げるあたしへ、よーみは小さく首を傾げて他人事丸出しな言葉を返してくる。
タイムカプセルから掘り返されたよーみの本体は、もう地中にはいたくないというよーみ本人の強い希望により、我らが自由創作部に飾られることが――他にもあった品々と封筒はまた地中へ埋め直しておいた――決定した。
当然の流れと言うべきか、それに付随するかたちで付喪神のよーみも我が部の一員となり、こうしてマロンちゃんに続いて二体目の人外が部室へ増えたわけなのだが。
このことを湯々織先生が知ったら、果たしてどうなることか。
マロンちゃん一人であのテンパり具合だ。
下手したら泣いて顧問を辞退しようとするかもしれない。
「……お、お前たち、進捗 はどうだ?」
ガラリと遠慮がちにドアが開き、頭に浮かべていた人物が恐る恐る部室を覗き込んできた。
「あ! せんせーだ! こんにちは!」
即座に、嬉々とした表情を浮かべたマロンちゃんが湯々織先生の元へと飛んでいく。
「あああああ! 来なくてもいいから! そっちで遊んでていいから! ね、良い子だから!」
パニックになったように地団駄を踏み、開けたばかりのドアを閉めようとした湯々織先生だったが、それよりも一瞬早くマロンちゃんに足元へ絡みつかれ――透けてるけど――、半泣きのような顔で固まってしまった。
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