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第一章:幸福の記憶
幸福の記憶 9
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「ちょっとまえ。おそとであそんでたら、みつけたの。マロンちゃんのひみつのばしょにしようって」
「なるほど。秘密基地みたいな感じだったんだね。ごめんね、あたしたちが来たせいで秘密じゃなくなっちゃったね」
「おねぇちゃんたちはいいよ!」
小さい子どもにとっては、確かに人の寄り付かない旧校舎は魅力的な秘密の空間に見えたりもするかもしれない。
思い返してみれば、あたしも近所にある神社の裏とか、普段は誰も来ない場所を見つけると、自分だけの特別な空間を発見したように思えてワクワクしていた時期があった。
「それじゃあ、マロンちゃんのお墓は? どこにあるのかわかるのかしら?」
あたしを見上げるマロンちゃんに、流空が別の問いかけを口にした。
「えっと……あっち。でも、たのしくないからいかないの」
お墓が見えるわけがないのは承知で、マロンちゃんが指差した方角へ目をやりながら、あたしは自分が暮らす町の地図を脳内に広げる。
マロンちゃんが指差した方角には、三百メートル程先にお墓がある。
とすれば、十中八九そこがマロンちゃんの遺骨が眠る場所と推測することができるだろう。
「そうよね。確かに、一人ぼっちでお墓になんかいても、楽しくないものね」
「でもさ、マロンちゃんがいるなら、他のお墓にだって幽霊はいないの? お喋りとかしてくれる人はいない?」
共感を示すように頷く流空とは反対に、あたしは浮かぶ疑問を問いかけていく。
「なんかね、たまーにこえはきこえるの。でも、マロンちゃんのおはかはだれもいない。みんないえにかえっちゃってるのかなぁ?」
逆に問われるかたちで見上げられ、あたしはそうなのかもしれないねと、無難な言葉を返す。
あたしが知るお墓は、決して多くはないがポツポツと墓石の前に幽霊が佇んでいたりすることがある。
小さい頃から視ていたし、これまで一切害がなかったので、そういうものなんだと思いながら生きてきた。
はっきり視える幽霊より、ぼんやりと視える幽霊の方が多く、恐らくほとんどがずっと昔に亡くなった人たちが薄くなって視えてるのかなと、勝手な解釈もしていた。
「……他の人たちはきっと、別の場所へ行ったんでしょうね。時間が経てば、自然と行くべき所へ行けるから。それで行けない人は、心の底からやり残した何かがこっち側にあるんだと思うわ」
「流空?」
暗くなった足元へどこか憂いを帯びた眼差しを送りながら、流空は独り言を呟くように静かな声を落とした。
突然雰囲気を一変させた友人に戸惑い、様子を窺うように名前を呼んだあたしへ、流空はすぐ元の澄ました表情を浮かべると、
「何でもないわ」
と言いながら薄く笑みを浮かべて見せてきた。
「それじゃあ、お姉さんたちはお家に帰るから、マロンちゃんもあんまり遊んでないでママたちの所に戻るのよ? 誰かに見つかりそうになったら、さっきみたいに気配を消して隠れるように。じゃないと、皆がまたびっくりしちゃうから」
「なるほど。秘密基地みたいな感じだったんだね。ごめんね、あたしたちが来たせいで秘密じゃなくなっちゃったね」
「おねぇちゃんたちはいいよ!」
小さい子どもにとっては、確かに人の寄り付かない旧校舎は魅力的な秘密の空間に見えたりもするかもしれない。
思い返してみれば、あたしも近所にある神社の裏とか、普段は誰も来ない場所を見つけると、自分だけの特別な空間を発見したように思えてワクワクしていた時期があった。
「それじゃあ、マロンちゃんのお墓は? どこにあるのかわかるのかしら?」
あたしを見上げるマロンちゃんに、流空が別の問いかけを口にした。
「えっと……あっち。でも、たのしくないからいかないの」
お墓が見えるわけがないのは承知で、マロンちゃんが指差した方角へ目をやりながら、あたしは自分が暮らす町の地図を脳内に広げる。
マロンちゃんが指差した方角には、三百メートル程先にお墓がある。
とすれば、十中八九そこがマロンちゃんの遺骨が眠る場所と推測することができるだろう。
「そうよね。確かに、一人ぼっちでお墓になんかいても、楽しくないものね」
「でもさ、マロンちゃんがいるなら、他のお墓にだって幽霊はいないの? お喋りとかしてくれる人はいない?」
共感を示すように頷く流空とは反対に、あたしは浮かぶ疑問を問いかけていく。
「なんかね、たまーにこえはきこえるの。でも、マロンちゃんのおはかはだれもいない。みんないえにかえっちゃってるのかなぁ?」
逆に問われるかたちで見上げられ、あたしはそうなのかもしれないねと、無難な言葉を返す。
あたしが知るお墓は、決して多くはないがポツポツと墓石の前に幽霊が佇んでいたりすることがある。
小さい頃から視ていたし、これまで一切害がなかったので、そういうものなんだと思いながら生きてきた。
はっきり視える幽霊より、ぼんやりと視える幽霊の方が多く、恐らくほとんどがずっと昔に亡くなった人たちが薄くなって視えてるのかなと、勝手な解釈もしていた。
「……他の人たちはきっと、別の場所へ行ったんでしょうね。時間が経てば、自然と行くべき所へ行けるから。それで行けない人は、心の底からやり残した何かがこっち側にあるんだと思うわ」
「流空?」
暗くなった足元へどこか憂いを帯びた眼差しを送りながら、流空は独り言を呟くように静かな声を落とした。
突然雰囲気を一変させた友人に戸惑い、様子を窺うように名前を呼んだあたしへ、流空はすぐ元の澄ました表情を浮かべると、
「何でもないわ」
と言いながら薄く笑みを浮かべて見せてきた。
「それじゃあ、お姉さんたちはお家に帰るから、マロンちゃんもあんまり遊んでないでママたちの所に戻るのよ? 誰かに見つかりそうになったら、さっきみたいに気配を消して隠れるように。じゃないと、皆がまたびっくりしちゃうから」
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