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第一章:幸福の記憶
幸福の記憶 1
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何がどうしてこんなことになったのか。
教室に持ち込まれていた机や椅子を全て一度廊下へ出し、はたきで壁に張り付いた蜘蛛の巣や綿埃をパタパタしながら、あたしは現状について考えていた。
掃除をすることを条件に貸し出されることになったこの部室。
いざ掃除を始めようとした矢先に、あたしたちから隠れるようにして身を潜めていた小さな女の子。
学校の生徒でない人物、それもまだ小学校にも入学していない年齢の女の子が旧校舎へ入り込んでいたのだ。
普通であれば、すぐ先生に報告し早急に対処してもらわねばならない事案なのだろうが、いかんせん状況が特殊すぎた。
鍵が掛けられ、埃が堆積するほどの長い時間放置されていた旧校舎の教室。
そこに隠れていた女の子は、既に肉体を失った存在――幽霊だった。
もっとも、流空が存在に気づいた時点でそうであるという確信はあったし、あたしも過去に何度も幽霊は視ているので最低限の耐性はあると自負している。
故に、あたしも流空も女の子を見た瞬間に驚きはなかった。
見た目は特に変わった箇所もないし、普通の人には見えないということを除けば、生きてる人間と遜色がない。
自殺した人の幽霊のように覇気を失っているわけでもなく、女の子は左右に結わえた髪をぴょんぴょん揺らしながら、今も元気いっぱいに教室の中を駆け回っている。
服装だって、汚れや痛みがあるわけでもなく、可愛い猫の顔がプリントされた服に、赤いスカート。
本当に、その辺の道路をお母さんと手を繋いで歩いていても違和感がないくらい、生きてるみたいに活発な幽霊だなと、そんな感想をあたしは抱いた。
「ついさっきまでは泣いてたのに……」
あたしたちに見つかり、突然泣き出したのを見たときはどうしたものかと思ったが、流空が優しくあやしながら事情を訊けば、どうやらここで遊んでいたことがばれて叱られると思い込み、恐くて泣いちゃったと唇を震わせながら答えてくれた。
それを聞いた流空は宥めるようにして女の子を落ち着かせ、「好きに遊んでいて良いからね」とあっさりとこの現状を受け入れてしまった。
その結果、こうして必死に掃除をするあたしたちの周りを、元気余りまくりな幽霊が駆け回っている状況ができあがったわけで。
普通の人には無音でも、あたしの耳にはキャッキャキャッキャとはしゃぐ――どうやら幽霊が視えて恐がらないあたしたちが来たことが嬉しいらしい――女の子の笑い声が絶え間なく聞こえているし、いくら可愛らしいとは言え、幼女が空中を駆けたり壁から顔だけ出したりされると少し恐い。
「ふぅ……どうにかなるかなって思ったりしたけれど、結構時間がかかりそうね。何とか今日中に床と窓だけは終わらせないと」
手際よく窓を拭いていた流空が、大きく息をつきながら手を止めてあたしを振り返った。
まだ掃除を開始して一時間程度だが、流空の方はもう半分くらいまで窓拭きを終えている。
「机とか出すのに、時間使っちゃったもんね。あの机と椅子も綺麗にしなきゃ駄目なのかな?」
何がどうしてこんなことになったのか。
教室に持ち込まれていた机や椅子を全て一度廊下へ出し、はたきで壁に張り付いた蜘蛛の巣や綿埃をパタパタしながら、あたしは現状について考えていた。
掃除をすることを条件に貸し出されることになったこの部室。
いざ掃除を始めようとした矢先に、あたしたちから隠れるようにして身を潜めていた小さな女の子。
学校の生徒でない人物、それもまだ小学校にも入学していない年齢の女の子が旧校舎へ入り込んでいたのだ。
普通であれば、すぐ先生に報告し早急に対処してもらわねばならない事案なのだろうが、いかんせん状況が特殊すぎた。
鍵が掛けられ、埃が堆積するほどの長い時間放置されていた旧校舎の教室。
そこに隠れていた女の子は、既に肉体を失った存在――幽霊だった。
もっとも、流空が存在に気づいた時点でそうであるという確信はあったし、あたしも過去に何度も幽霊は視ているので最低限の耐性はあると自負している。
故に、あたしも流空も女の子を見た瞬間に驚きはなかった。
見た目は特に変わった箇所もないし、普通の人には見えないということを除けば、生きてる人間と遜色がない。
自殺した人の幽霊のように覇気を失っているわけでもなく、女の子は左右に結わえた髪をぴょんぴょん揺らしながら、今も元気いっぱいに教室の中を駆け回っている。
服装だって、汚れや痛みがあるわけでもなく、可愛い猫の顔がプリントされた服に、赤いスカート。
本当に、その辺の道路をお母さんと手を繋いで歩いていても違和感がないくらい、生きてるみたいに活発な幽霊だなと、そんな感想をあたしは抱いた。
「ついさっきまでは泣いてたのに……」
あたしたちに見つかり、突然泣き出したのを見たときはどうしたものかと思ったが、流空が優しくあやしながら事情を訊けば、どうやらここで遊んでいたことがばれて叱られると思い込み、恐くて泣いちゃったと唇を震わせながら答えてくれた。
それを聞いた流空は宥めるようにして女の子を落ち着かせ、「好きに遊んでいて良いからね」とあっさりとこの現状を受け入れてしまった。
その結果、こうして必死に掃除をするあたしたちの周りを、元気余りまくりな幽霊が駆け回っている状況ができあがったわけで。
普通の人には無音でも、あたしの耳にはキャッキャキャッキャとはしゃぐ――どうやら幽霊が視えて恐がらないあたしたちが来たことが嬉しいらしい――女の子の笑い声が絶え間なく聞こえているし、いくら可愛らしいとは言え、幼女が空中を駆けたり壁から顔だけ出したりされると少し恐い。
「ふぅ……どうにかなるかなって思ったりしたけれど、結構時間がかかりそうね。何とか今日中に床と窓だけは終わらせないと」
手際よく窓を拭いていた流空が、大きく息をつきながら手を止めてあたしを振り返った。
まだ掃除を開始して一時間程度だが、流空の方はもう半分くらいまで窓拭きを終えている。
「机とか出すのに、時間使っちゃったもんね。あの机と椅子も綺麗にしなきゃ駄目なのかな?」
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