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【第4章】 三日月峠の戦い
85 決して揺るがなかった正義③
しおりを挟む「井の中の蛙、大海を知らず。とても有名なことわざだが…このことわざには先があるのをお前は知っているか? 【井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る。】 お前は知っているのか?いや、知ろうとしたのかな?自分の今いる空が本当は何色なのか」
そう尋ねると元副官はまばたきすら忘れて硬直する
一瞬だが生気が戻り驚いているようにも見えたが、すぐにまた力を失ってしまった
当初は感じていた強い視線も既に感じない
マリアンヌはそれを見下ろして悟った
これはそろそろ命の灯火が消えるな、と
「あ~あ、もう終わりだな。 それではお前もそろそろ三途の川が見えてきた頃であろうからメインディッシュといこうか。 ムンガル、お前がこいつの息の根を止めろ」
「恐れながらマリアンヌ皇女殿下、進言させてください」
1人の兵士がマリアンヌとムンガルの間に割り込んできた
それは爵位を持つ内の1人、シグレだった。
脱いだ兜から後ろで1つに縛った黒い髪が肩に触れる。
彼は血だらけで倒れている元上官を侮蔑の込められた切れ長の目で一瞥すると、副官を背にしてマリアンヌの前で膝を付いた。
マリアンヌはその一瞬だけ見せた瞳の色を見ていた。
だから発言を許した
「許す、申してみよ」
「今、この者をムンガル将軍が殺害しますとそれは虐殺と捉えられる可能性がございます」
「それに何の問題がある?」
声のトーンをマリアンヌとその近くだけに聞こえるほど落とすシグレ
「誇りの高さにおいてプルート軍の中でも一目置かれるムンガル隊が”虐殺”となると、今後マリアンヌ様の栄光にも傷が付く恐れがあります。最後の1撃を我らが手で行えないのは誠に無念ではありますが、こいつが死にさえすれば裏切りの露呈はありえません、ですのでこのまま死ぬのを待つのも一興かと」
裏切りの露呈…
その言葉を解釈するに、やはりこいつも我にバレないように独自でこの元副官の命を狙っていたわけか
まったく、そろいも揃って…お前らときたら面白いやつらだよ。とマリアンヌは愉しげに微笑む
「シグレ、君に聞こう”誰が”それを報告するのだ?」
「誰って、、、それはもちろんマリアンヌ様専属の両大臣が選び抜いた護衛隊の皆様が―」
「もうプルートに帰した」
「えっ!?」
声のトーンを戻して立ち上がり周りを確認する
「いな…い?」
「監視役兼護衛役である大臣の部下は既に帰している。現在ここにいるのは卑劣な手段で自分の部下を裏切った元副官とそいつに裏切られた部下、同僚、ムンガル、そして憎きアトラス兵のみ。 どうだシグレ、まだ心配事はあるかね?」
「いえ…私の勘違いでした、お話の腰を折ってしまい申し訳ありません」
「うん♪ 素直でよろしい」
手を「よし!」と叩くと、もう一度ムンガルを見る
そして感情を消したように言った
「ムンガル、まずお前からやってもらおうか。 この副官の顔、頭、身体、全ての原型を残さぬよう剣で突き刺し、殴打し、砕きされ。一片たりともこの世に残すな」
マリアンヌは兵士にわざわざここまで持ってこさせた、ムンガル専用の大きな盾から無理やり剣を引っこ抜く
そしてこれまた無理やりムンガルのゴツイ手に握らせた
「……」
「何を躊躇っている? お前のような身分からすればこれらはモグラと大差ないだろ?農作物を荒らす害虫だ、地中から顔を出したモグラの頭を潰すのに何を躊躇いがあるというか」
それでも一向に動こうとしないムンガル
マリアンヌは視線を鋭くする
「おい、ムンガル早くしろ」
高圧的な物言いにムンガルは一瞬たじろいたが、すぐに歯を食いしばってマリアンヌに対して凛と主張する。
「出来ません」
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