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【第4章】 三日月峠の戦い
52 月夜の夜に・ムンガル編⑤
しおりを挟む「敵将!!このムンガルが討ち取ったり!!!!」
「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」」
率いているムンガルの部隊の士気が上がる
それを察知するや否や爵位を持つ1人が声を荒げる
「敵将はムンガル将軍が討ち取った! 残りは烏合の集、今から我が隊は一本の鋭き槍だ!一点集中にてダイアル城塞に攻撃をかける!ゆくぞぉぉ!!!」
「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!!!」」」
動揺で慌てふためくアトラスの兵を跳ね除けるように峠の下に落としながら真っ直ぐに正門を目指す。
これは行けるのでは?
城塞攻略に真実味が帯びてきたとムンガルだけではなく、部隊の全員が思った。
そして難なく第六の門を通過すると予想外の出来事が起こった。
「ムンガル将軍!前方、ダイアル城塞の門が閉まっていきます!!」
「なんだと!!まだこちら側に数百のアトラスの兵がいるのに!?」
前方の門が無慈悲にゆっくりと閉まっていく。
ここからだとどれだけスピードを上げたとしても通過は不可能だ
そう判断したとたん上空から矢の雨が大量に降ってきた。
「前衛!大盾部隊、配置につけ!!」
城塞の所々に空いてある四角形の穴
腕一本が入る程度のその穴からは無数の矢が、坂を上ろうとするプルート軍に襲い掛かってくる。
急な砦からの攻撃であったがムンガルたちに焦りの色は無かった。
もちろんダイアル城塞のことを熟知しているムンガル将軍と部下達
矢が飛んでくるおおよその方向を予想することはそう難しい話ではない
しかし、そこは敵も同じ
アトラス軍は矢の先端に猛毒を塗って放つ
そしてプルート軍が毒が塗られていることを気付いて歩みを遅くしたとたん、坂の上から樽いっぱいに入った油を下にぶちまけた。
「油?」
嫌な予感がした。
そして満を持して放たれる火矢
もちろんプルート軍にだけ標的を絞るなんて事は不可能
つまり結果は…
両軍入り乱れるまるで地獄のような風景
「まさか味方まだいるのに火まで放つとは!?いったい何を考えている!?」
しかしプルートの軍勢の士気を下げるには十分であった。
先ほどまでとはうって変わって一気に下がるプルート軍の士気
「ムンガル将軍!ここは一度、5の門まで前線を下げましょう!」
ムンガルは苦々しそうに剣をしまう
「仕方あるまい」
この狡猾な策
まず相手の士気を削ぐことを第一と考えている策
「間違いない」
ムンガルは確信する
そして下っていく馬から少し振り返る
フルフェイスのヘルムの隙間から見えるのはダイアル城塞
「お前なのか…」
共に駆けた戦場の数は、ここにいる誰よりも多い
本当に信頼して背中を預けることが出来ると思っていた
未だに裏切った理由が分からない
「…っ!?」
退却していくムンガルたち
しかしこの策を立てた人間はそんな自由を許さなかった。
高く聳え立つ塀の上から滑らすようにして落とされる巨大な岩石
「ムンガル将軍、逃げてください!」
そう声を荒げた兵士は次の瞬間、ムンガルの視線の先で巨大な大岩に押しつぶされてしまった。
「まさか、まだアトラスの兵も多く峠に残っているのに!」
敵も味方も関係無しに飲み込んでいく大岩
このタイミングで落としてくるとは!?
どうするべきか!?
いや、答えなど最初から決まっている!
ムンガルは迷うこと無く反転すると馬から飛び降りて巨大な盾を構えた
「私が時間を稼ぐ、お前たちは第五の門まで下がれ!!」
このムンガルであればこの程度の大岩跳ね返して見せよう!
そう覚悟を決めて盾を強く握った時だった。
暗闇の中、一瞬、白い光に照らされたように明るくなった。
それは全員の目を眩ませるほどの光り
そして次の瞬間、勢いよく転がってくる大岩を一閃の閃光が打ち抜いていた
「っ!?」
内部破裂するように木っ端微塵にはじけ飛ぶ大岩だった物体
そして弾け飛んだ大岩から衝撃として暴風のような風が周囲にまき散る
足で踏ん張らないと身体が持っていかれそうだ
「これは…」
この閃光には記憶がある
以前ここから敗走する戦いで使われた魔道具
部隊の全員が振り返ると、暗闇と同化した下り坂のさらに下
松明に彩られた場所の更に奥から、持ち前の澄み切った声が戦場となっている中腹部に声が届いた。
「そのまま攻め続けろ、ムンガル!」
「マリアンヌ皇女殿下」
これがマリアンヌ皇女殿下の策か?
こちらに魔道具があるからこんなにも無謀な策に出たのか?
確かにあの強力な魔道具ならば城塞の外壁に穴ぐらい開けれるかもしれないが、しかしそれだけでは城塞攻略は難しい。
そもそも誰が魔道具を使っている?
魔道具の適合者をこの短時間でどうやって見つけられたのか?
さまざまな疑問が数珠繋ぎのように湧いてくる。
だが今は
「しかし、今は考える時ではない!」
ムンガルは自問自答を強制的に終わらせるために頷くと、自分自身を信じ込ませるように腕を振り上げて自軍を鼓舞する。
「こちらには魔道具がついている!全員、進軍せよ!!」
乱れ撃ちのように下から放たれる援護射撃
その中、ムンガルとその部隊はひたすら城塞攻略を目指すのであった。
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