上 下
77 / 148
【第4章】 三日月峠の戦い

23 マリアンヌの能力②

しおりを挟む


「えっ!このメイド1人に行かせるのですか?」

 驚きの声と共に上がる疑問。
 マリアンヌはごく自然に首を立てに振る

「ああ」
「森には少なからず敵がいる可能性があります」

 だから行かすのだが?

「戦闘になる可能性もあります」

 あ~そういうことね。
 女1人で何が出来るのか?そう言いたいわけか。

「お前はこのカーナのことを知らんのか?」
「なんとなくの…うわさは聞いておりますが、、、、その」

 言いよどむムンガルの表情を見てフッと笑いがこぼれた。

 いい噂ではないのであろうな。

「その感じだと戦闘能力に関してはそんなには知らんようだな。この女は結構強いぞ」
「恐れながら申し上げます! もし本当にマリアンヌ様の言う通り魔道具使いがいたのならば、単純な戦闘能力だけで戦いは決まりません。そもそも魔道具を持つ人間は戦闘に慣れた人物が多い、元々の戦闘能力プラス魔道具の戦闘能力も足されます、ちょっと腕が立つ程度では簡単には倒せません」

 ちょっと腕が立つ程度…か。
 たしかにカーナが実際に戦っている所を見た人間はそうは多くないからな。
 その考えも頷けるといえば頷けるな

「しかしお前は勝てるのだろう?」
「私は…それは、まぁ、、多くの経験もありますので」
「最初は誰でも経験など無いだろう」
「いや、そういう問題ではなく」
「ムンガル将軍。あなたは私の戦闘能力に疑問を持っておられるようですが、もしそうなら証明してみせましょうか?この場で」

 露骨にムッとするカーナにマリアンヌは言う。

「やめろ、カーナ。誰がそんな事をしろと命じた?」
「も、申し訳ありません。でも今のはムンガル将軍がっ!」

 叱責混じりの言葉にカーナは少し早口で弁明したが、マリアンヌは呆れたように首を横に振った。

「もうよいからさっさと行け、時間が惜しい。お前の無駄口のせいで作戦が無に帰す可能性すらあるのだぞ」

 その言葉に黙ったまま頭を下げるカーナ
 そして怒りのこもった目でムンガルを睨むと、そのまま本陣のテントを後にした。

 それを確認すると空気を入れ替えるようにマリアンヌは手を「パンッ!」と合わせる。

「さて!それではムンガル卿、カーナが帰ってきた後、森の中にいる別働隊を駆逐する部隊編成をどうしようか? 君の意見を聞こうじゃないか」
「いえ、その前に説明をお願いしたい」

 このままうやむやにしたかったマリアンヌだったが、やはりというか、ムンガルが許さなかった。
 問い詰めるように机に手を置いて身を乗り出す。

「敵の別働隊がいる可能性は理解できます。しかし!なぜ魔道具までもがそこにあると断言できるのですか!?」
「いる可能性は高いだろ?今の我らと同じように陣をひいているかも」
「お言葉ですが、私なら魔道具使いは城塞の中で防衛に徹しさせます。しかも我らに一度勝利している時点で臨時の本陣など捨てるはすです」

 臨時なら、な。

 だが数年間を要して徐々に準備した本陣ならどうだろうか?
 はたしてアトラス軍は捨てれるかな?

 そもそもいくら副官を裏切らせることに成功したとしても、ムンガル要する5千の兵と戦うのに準備しすぎてしすぎということは無い。
 副官を裏切らせてプルートの兵を森へとおびき出し、数年を要して完成した本陣から大量の兵で取り囲んであの大穴に叩き落すほうが安全で効率的だ。

「ではムンガル将軍、もしも君を裏切った副官が今回の我らの進行を想定していたとしたらどうだね?」
「そ、それは…たしかに。しかし!セオリーを考えればすぐにダイアル城塞の奪還があるとは誰も考えません。今回の奪還作戦は皇帝陛下のお心を知らない限りは予想などつきようもありません!」
「プルートの兵ならば現皇帝の性格ぐらい熟知しているのでは?そして攻め込んでくることも容易に想像できると思うがね。少なくともお前の話を聞く限り、お前の元副官はそれぐらい考え付きそうな感じだが」

 そう、もしも我がその副官ならプルート皇帝の性格を考慮してそのまま森の中の本陣に魔道具使いと戦力を残しつつ、のこのことやって来たプルートの軍勢を背後の森から挟撃きょうげきして、大穴に気を取られている間に火でも放つね、そして残りのプルート軍をダイアル城塞からの逆落としにて叩く。
 そう考えるとあの死体の山がそのままだった理由は頷けるしな

「ダイアル城塞には魔道具は1つも無い」
「なぜ分かるのですか?」
「なぜと言われてもなぁ…分かるのだよ、我には。としか言えないんだよ」
「ですから、なぜですか?」

 マリアンヌは居心地悪そうに眉を顰める。

「このことを言っても信じた人間がいないので言うだけ無駄だと思うがな」
「言って頂かないと、このムンガルには分かりません」
「どうしても?」

 しょっぱそうな顔をしながらため息をつき、頬に手を当てるマリアンヌ
 仏頂面のムンガルは頑なに詰め寄った。

「はい!」

 巨体のせいか圧迫感もハンパない
 仕方ない、と諦めついでにため息を漏らす
 そして観念する様に手に持っていた木製の差し棒を机に置くと、こう口にした。

「昔から、我には聞こえるのだよ」
「…何がですか?」

 その困惑した問いにマリアンヌはすっと目を細めて、いつもより低い声で言った。

「魔道具の声が」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

秋津皇国興亡記

三笠 陣
ファンタジー
 東洋の端に浮かぶ島国「秋津皇国」。  戦国時代の末期から海洋進出を進めてきたこの国はその後の約二〇〇年間で、北は大陸の凍土から、南は泰平洋の島々を植民地とする広大な領土を持つに至っていた。  だが、国内では産業革命が進み近代化を成し遂げる一方、その支配体制は六大将家「六家」を中心とする諸侯が領国を支配する封建体制が敷かれ続けているという歪な形のままであった。  一方、国外では西洋列強による東洋進出が進み、皇国を取り巻く国際環境は徐々に緊張感を孕むものとなっていく。  六家の一つ、結城家の十七歳となる嫡男・景紀は、父である当主・景忠が病に倒れたため、国論が攘夷と経済振興に割れる中、結城家の政務全般を引き継ぐこととなった。  そして、彼に付き従うシキガミの少女・冬花と彼へと嫁いだ少女・宵姫。  やがて彼らは激動の時代へと呑み込まれていくこととなる。 ※表紙画像・キャラクターデザインはイラストレーターのSioN先生にお願いいたしました。 イラストの著作権はSioN先生に、独占的ライセンス権は筆者にありますので無断での転載・利用はご遠慮下さい。 (本作は、「小説家になろう」様にて連載中の作品を転載したものです。)

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...