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【第4章】 三日月峠の戦い
23 マリアンヌの能力②
しおりを挟む「えっ!このメイド1人に行かせるのですか?」
驚きの声と共に上がる疑問。
マリアンヌはごく自然に首を立てに振る
「ああ」
「森には少なからず敵がいる可能性があります」
だから行かすのだが?
「戦闘になる可能性もあります」
あ~そういうことね。
女1人で何が出来るのか?そう言いたいわけか。
「お前はこのカーナのことを知らんのか?」
「なんとなくの…うわさは聞いておりますが、、、、その」
言いよどむムンガルの表情を見てフッと笑いがこぼれた。
いい噂ではないのであろうな。
「その感じだと戦闘能力に関してはそんなには知らんようだな。この女は結構強いぞ」
「恐れながら申し上げます! もし本当にマリアンヌ様の言う通り魔道具使いがいたのならば、単純な戦闘能力だけで戦いは決まりません。そもそも魔道具を持つ人間は戦闘に慣れた人物が多い、元々の戦闘能力プラス魔道具の戦闘能力も足されます、ちょっと腕が立つ程度では簡単には倒せません」
ちょっと腕が立つ程度…か。
たしかにカーナが実際に戦っている所を見た人間はそうは多くないからな。
その考えも頷けるといえば頷けるな
「しかしお前は勝てるのだろう?」
「私は…それは、まぁ、、多くの経験もありますので」
「最初は誰でも経験など無いだろう」
「いや、そういう問題ではなく」
「ムンガル将軍。あなたは私の戦闘能力に疑問を持っておられるようですが、もしそうなら証明してみせましょうか?この場で」
露骨にムッとするカーナにマリアンヌは言う。
「やめろ、カーナ。誰がそんな事をしろと命じた?」
「も、申し訳ありません。でも今のはムンガル将軍がっ!」
叱責混じりの言葉にカーナは少し早口で弁明したが、マリアンヌは呆れたように首を横に振った。
「もうよいからさっさと行け、時間が惜しい。お前の無駄口のせいで作戦が無に帰す可能性すらあるのだぞ」
その言葉に黙ったまま頭を下げるカーナ
そして怒りのこもった目でムンガルを睨むと、そのまま本陣のテントを後にした。
それを確認すると空気を入れ替えるようにマリアンヌは手を「パンッ!」と合わせる。
「さて!それではムンガル卿、カーナが帰ってきた後、森の中にいる別働隊を駆逐する部隊編成をどうしようか? 君の意見を聞こうじゃないか」
「いえ、その前に説明をお願いしたい」
このままうやむやにしたかったマリアンヌだったが、やはりというか、ムンガルが許さなかった。
問い詰めるように机に手を置いて身を乗り出す。
「敵の別働隊がいる可能性は理解できます。しかし!なぜ魔道具までもがそこにあると断言できるのですか!?」
「いる可能性は高いだろ?今の我らと同じように陣をひいているかも」
「お言葉ですが、私なら魔道具使いは城塞の中で防衛に徹しさせます。しかも我らに一度勝利している時点で臨時の本陣など捨てるはすです」
臨時なら、な。
だが数年間を要して徐々に準備した本陣ならどうだろうか?
はたしてアトラス軍は捨てれるかな?
そもそもいくら副官を裏切らせることに成功したとしても、ムンガル要する5千の兵と戦うのに準備しすぎてしすぎということは無い。
副官を裏切らせてプルートの兵を森へとおびき出し、数年を要して完成した本陣から大量の兵で取り囲んであの大穴に叩き落すほうが安全で効率的だ。
「ではムンガル将軍、もしも君を裏切った副官が今回の我らの進行を想定していたとしたらどうだね?」
「そ、それは…たしかに。しかし!セオリーを考えればすぐにダイアル城塞の奪還があるとは誰も考えません。今回の奪還作戦は皇帝陛下のお心を知らない限りは予想などつきようもありません!」
「プルートの兵ならば現皇帝の性格ぐらい熟知しているのでは?そして攻め込んでくることも容易に想像できると思うがね。少なくともお前の話を聞く限り、お前の元副官はそれぐらい考え付きそうな感じだが」
そう、もしも我がその副官ならプルート皇帝の性格を考慮してそのまま森の中の本陣に魔道具使いと戦力を残しつつ、のこのことやって来たプルートの軍勢を背後の森から挟撃して、大穴に気を取られている間に火でも放つね、そして残りのプルート軍をダイアル城塞からの逆落としにて叩く。
そう考えるとあの死体の山がそのままだった理由は頷けるしな
「ダイアル城塞には魔道具は1つも無い」
「なぜ分かるのですか?」
「なぜと言われてもなぁ…分かるのだよ、我には。としか言えないんだよ」
「ですから、なぜですか?」
マリアンヌは居心地悪そうに眉を顰める。
「このことを言っても信じた人間がいないので言うだけ無駄だと思うがな」
「言って頂かないと、このムンガルには分かりません」
「どうしても?」
しょっぱそうな顔をしながらため息をつき、頬に手を当てるマリアンヌ
仏頂面のムンガルは頑なに詰め寄った。
「はい!」
巨体のせいか圧迫感もハンパない
仕方ない、と諦めついでにため息を漏らす
そして観念する様に手に持っていた木製の差し棒を机に置くと、こう口にした。
「昔から、我には聞こえるのだよ」
「…何がですか?」
その困惑した問いにマリアンヌはすっと目を細めて、いつもより低い声で言った。
「魔道具の声が」
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