天国への階段

高嗣水清太

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それでも構わないと思うのは

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『わかった。では、こうしよう。お前の命が尽きるとき、私はまたお前の前に現れる。その時までに私のものになると誓え。そうしたら、私はお前の願いを聞き入れよう』

『それまでに答えが決まらなかったときは、お前の身体をもらい受ける。永遠に、私のものにする。それが、私の最後の賭けだ。それならばいいだろう?』

 オリヴィエはつい先日去ると決めた街で、慣れ親しんだ病床のベッドの中、ルスタヴェリから提案されたことを思い出していた。

 ルスタヴェリは、自分にとって何なのか。自分は、ルスタヴェリにとって何なのか。それを、今更ながら考えてしまう。
(私にとっては――)
 きっと、好敵手。それが正しい関係の筈だ。たとえ、ルスタヴェリから好敵手以上の感情を抱かれていようとも。

 どうすればいいのか、何が正しいのか。そんなことは分からない。けれど、一つだけははっきり言える。
 ルスタヴェリは己のものになれば、こちらの願いを叶えると言った。
(私の望みはルスタヴェリの封印だと、知っている筈なのに)

 オリヴィエをヴァンパイアにして、己のものとする。それがルスタヴェリの望みだとして、それを叶える為に己が封印されるのは本末転倒ではないのか――。

 ここまでルスタヴェリの考えていることがわからないのは初めてだった。
(いや、私は……ルスタヴェリを理解するのを拒んでいるだけかもしれない)

 ルスタヴェリは好敵手だ。それ以上でもそれ以下でもなかった。……その、筈だったのに……。
(ルスタヴェリに報いても、いいのかもしれないと思い始めている)

 確かに自分自身がヴァンパイアになってしまっては、ハンターとして意味が無い。だが、ルスタヴェリという一番の脅威は封印できる。ヴァンパイアハンターとしての意義が生まれる。
(……まて。ハンターとしての……意義?)

 オリヴィエは苦笑した。これではルスタヴェリをハンターに惚れたバカなヴァンパイアだと笑えない。
(今までハンターとしての意義などと、考えたことはなかったのに……)

 どっちにしろ、ルスタヴェリを最後まで拒み死んだとして、身体を彼に捧げるのは論外だ。死した後、永遠にルスタヴェリのものになるのはいいとして、彼がそのあと人間という人間を、世界を滅ぼそうとするのは想像にかたくない。

 ルスタヴェリが今、世界を滅ぼさず留まっているのはオリヴィエが人間だからだ。人間として生きるオリヴィエがいるから、オリヴィエが人間を守ろうとしているから滅ぼすことを留まっている。
 もし、オリヴィエが死んだら、ルスタヴェリはもう人間などに、世界にすらも興味は無いはずだ。
(それは……嫌だ)

 オリヴィエは自分の種族を、今まで生きてきた人間としての人生を、仲間である人間を守りたかった。
(……ルスタヴェリと共存することは可能だろうか?)

 オリヴィエがヴァンパイアになったとして。ルスタヴェリを封印することに成功したとしても、他のヴァンパイアが消えるわけではない。
 いや、むしろルスタヴェリという親がいなくなった時点で、他のヴァンパイアが暴走を始める危険性があった。
 この世全てのヴァンパイアを倒すのは不可能に近いが、少なくともヴァンパイアの王であるルスタヴェリを味方にできれば……。

 しかし、そうなれば人間との共存は無理だろう。
(私がヴァンパイアになり、ルスタヴェリと共存する道を選ぶなら……人間との共存を諦めなければならない)
 そう考えると、とても難しい選択だった。

「――……っ」

 そこまで考えて、ふと思った。
(なぜ、こんなにも迷っているのだ? 私は……)
 今まで、迷い無く答えを出していたと思っていたが、どうやら実際は違ったらしい。

(……私は、どうしたいんだ?)
 ずっと、人間の為だけに戦ってきた。その為ならば命だって惜しくないと本気で思っていた。けれど今は違う気がする。

(……ああ、なんだ)
 なんてことはない。オリヴィエは今、ただルスタヴェリと一緒にいたいと思っている。

(本当に……どうしようもないほど馬鹿だな……私も)
 自分が何をすべきなのか、ようやくわかったような気がした。

(……私に残された時間は、それほど多くないだろう)
 ヴァンパイアとなってしまえば、人間に戻ることはできない。

(それでも構わないと思うのは、やはりルスタヴェリを愛しているからか……)
 結局、自分は彼に恋をしているということなのだろう。だからこそ、彼の望みを叶えたいと思っている。
けれど、それと同じくらいに彼と生きたいと願ってしまった。

(まったく……本当にどうしようもない)
 ルスタヴェリと共に生きていきたい。それが、オリヴィエの出した結論だ。
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