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領主の娘
しおりを挟む獣約聖書……それは獣人王について書かれた書物で、王になる者がどういう人かが記載されている。
1……最初に猫獣人、次に狼獣人(銀狼獣人)、3番目に鳥獣人を従えた者。
2……従えし獣人達に褒美(美味しいお魚)を与えし者。
3……側近である3人の獣人を覚醒へと導きし者。
4……誇り高き獣人の頭を撫でし者。
この4つの定義を成したもの獣人王とならん!!!
レリムの説明によると、こんな感じらしい。
これが本当なら次仲間になるのは鳥獣人ということになるな……めっちゃ会いたい!……飛んでるところを見てみたい。
褒美で美味しい魚を与えし者は、誰でもできると思うが……通販で美味しい魚を取り寄せできるのは俺だけか!
覚醒は何の事か分からん。
どうやって人間の俺が、獣人を覚醒まで導けばいいんだよ!
最後の頭撫でし者は、いらんだらう。
獣人の頭撫でることに何の意味があるんだ?
獣人でなければ王に成れないとは書かれていないようで、人間でも大丈夫というのは、レリムの推測らしい。
幼い子供が言うことだから、本当かどうか怪しい……ジロっ
「なんで疑いの目で見てるニャ……ホントのことだから、ジュースちょうだいニャ!」
ジュースが欲しいがために、ついた嘘か……それなら可愛いらしい嘘だし騙されてやってもいいかな。
だが、マタタビジュースは駄目だ、町に着いたらお菓子と他のジュースを出すと約束して、その場をやり過ごした。
先程回収したオーガの1体が鉄の金棒を持っていた、そろそろレリムに武器を買ってやりたいと思っていたが、いいタイミングで手に入った。
彼女には素手に補正の係る【格闘】スキル以外にも【金槌】を保有している。
【金槌】のスキルの効果は……パワーが上がり、ハンマー等の打撃系武器を持つと威力が上がる。
だから、金棒のような打撃武器とは相性がいい。
「いい武器ニャ! こういうイガイガしたのが欲しかったニャ!」
まともな武器を手に入れたことで喜んでいる。
この世界で普通に買うと結構なお値段で、安い剣でも5万エントする。
大きめのハンマーだと安くて50万エントだ。
素手でも強いレリムが武器を持てば最強だ!
ドラゴンでも何でもかかってこいや!!!
俺達が進み方角を睨むレリムは、耳はぴょこんぴょこんっと反応させる。
【聴覚強化】で微かな音を拾い、何かを察知したみたいだ。
「ニャっ! あっちの方で人が襲われてるニャ! 行くニャ!」
え!? 襲われてる……ドラゴンにじゃないよな……違うよね、俺行きたくないんだけど!
ちょっ……待って、レリム! こら、引っ張るな!
「はやく行くニャ!」
くそ! 行くのか、行かなきゃ駄目なのか!
引きずられ無理やり連れていかれた……
◆◆◆
今とても後悔している。
それもそのはず、俺の目の前には…………
「ギャォォォオオオ!!!!!」
ドラゴンがいるのだから!
圧巻のその姿、ひと目で分かってしまった、絶対に敵わない存在なんだと。
毒々しい緑色の体表、普通のドラゴンを見た事ないが、異常だと理解できてしまう。
「皆の者! エミル様を守るのだ!!!」
はい、よくある異世界のテンプレです。
ドラゴンと交戦していたのは兵士達で、守っているのは、どうやら貴族様ぽいっ人みたいだ。
俺がドラゴンでも何でもかかってこい、と言ったばかりに、こんな目に合ってしまった。
後悔しても遅い、こうなったら、やるしかない!
「ニャォォォオオオ! 久しぶりに燃えるニャ!!!」
「お兄様は私が守りますォン!」
頼むぞ2人とも!
ドラゴンの長い尻尾が、盾を持った兵士達をおそい吹っ飛ばす。
いとも簡単に陣形を崩され、なす術なく倒れていく。
「クソが! どうすればいいのだ……こんな化け物」
悪態を吐く兵士の男、たぶんこの人が兵士達の中で1番偉い隊長か何かだろう。
ドラゴンは翼を広げ、馬車に向かって飛行を始めた。
「くっ、しまった……皆の者、エミル様のいる馬車を守れ!」
兵士達が急いで馬車に向かうが間に合わない。
このままだとドラゴンに貴族様がやられてしまう。
その時だった……
ゴゥゥウウンンン
突然、お寺で聞くような鐘の鈍い音が鳴り響く。
「ニャニャ! ハンマーはこうやって使うニャ!」
すげぇ~! レリムが金棒を投擲して、見事に命中させ撃ち落とした。
「おぉぉおおお! ドラゴンが落ちたぞ! やったか?」
おいバカ隊長! そのセリフだけは言っちゃいけない!
よろよろと立ち上がるドラゴン、怒ったのか咆哮をあげている、だから言っちゃ駄目だったのに。
完全に起き上がり、口から緑色の息が漏れだしている、いったい何を……
「まずい……毒ブレスが来るぞ!!!」
隊長が叫び、敵の口から吐き出された緑色のブレスが、広範囲を襲う……ぅぅ息が苦しいぃぃ。
「わぉん……苦しいォン」
毒ブレスということは毒状態になったのか、素早くアイテムボックスからエナジー解毒ポーションを取り出して俺とアイリスは飲む。
「楽になりましたォン!」
あとはレリムに飲ませるだけ……あれ? 肝心のレリムがいない?
「お兄様! あそこにいます!」
あ、ホントだ! ドラゴンの頭の上にいる。
いつの間にあんな所に……
「もっと楽しみたかったけど、仲間に手を出されるのは嫌ニャ!
終わりにするニャ!」
「猫斗獣王拳!!! 奥義……《百連ガチ殴り》にゃ~!!!」
「おら! おら! おらニャ!」
ドラゴンの頭を連続で殴り、消し飛ばしてしまう。
首から下だけが残り、ゆっくりと倒れた。
それ本当に猫斗の技なのか!
色んなアニメの技名をパクってるだけの気がするが……いや、そんなことより今は人を助ける方が優先。
「大丈夫ですか?」
他の兵士達は倒れて動けないようだ、苦しそうに息をしているが比較的に無事な隊長に話しかける……
「ううっ……お、俺の事はいいから……エミル様のいる馬車に行っていくれっ……」
「分かりました。 解読ポーションはいっぱいあるので置いていきます! アイリス、他の騎士達にポーションを飲ませてくれ!」
「はい! お兄様!」
かなり大量に作っておいて功を奏した。
エナジー解読ポーションと、エナジーポーションの2種類を50本づつ置いていく……これだけあれば他の騎士も足りるだろう。
エミル様のいる馬車の扉を開けると……毒ブレスが中にも入ってきたのか、辛そうに呼吸している2人の女性が倒れていた。
1人はメイド服を着ているのでお付きの人だろう。
もう1人は高貴な身なりをした、金髪ロングヘアーのお嬢様……たぶんエミル様と呼ばれている人だろう。
順番に解読ポーションを飲ませていく……
「うぅぅ……ごくっごくっ……。」
すぐに2人の表情は和らいでいき、普通の状態へと戻る。
メイドさんの方はドラゴンが怖かったのか怯えているが、エミル様は堂々としていて、俺に挨拶してくる。
「助けてくれて、ありがとう! 僕はスーシーロの領主の娘、ヘンドリック・エミル。 エミルと気軽に呼んでね」
「エミルですね! 俺はヒラメキといいます。」
助けたからか、とても好意的だ。
それに彼女は美人だから見惚れてしまう。
「うんんん! いい感じのところ悪いが、少し話を聞かせてもらってもいいか?」
毒から開放された隊長が馬車の外から睨んでいる。
俺が見惚れていたのが悪かったのだろうか……お嬢様との楽しい会話を終わらせて、彼と話しをするために外に出た。
「邪魔してすまないな! 先程は助かった。 大事なエミルお嬢様を守れた事に礼を言う。 俺はこの白鯨兵団をまとめる隊長のドベルクだ。 ドラゴンを倒した者達に話を聴かなければならん」
事情聴取だった……身分証明書である冒険者のカードを見せたり、主にレリムの話を聴かれた。
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