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Ⅲ
呼べば集まるのが類友
しおりを挟む王妃リーシャンは、忸怩たる思いを噛みしめての反省会真っ最中だった。
年甲斐もなくはしゃぎ過ぎた。なんといっても、ストッパーとなるべき事情が消えてしまっていたからだ。
(……バルメルク公がお出でになったのだから、私が口説く必要もなくなったのよね……)
三ヶ月ほど前、スートライトの至宝たちを呼び寄せた隙を公爵に狙われたのには少し腹立ったが、後から詳しく調べてみれば目的が同じだったと判明した。横取りというより協力したという形の認識で心を落ち着かせたが、出し抜かれた事実は変わらない。あの老貴人は、人好きのする顔をしていてなかなか油断できない、したたかな男なのだ。
しかも、礼儀を重んじてヒルディアの「枷」であるセシルたちに筋を通したのに、そこからまさかの音信不通。慌てて手紙を出せば「ちょっと今手が離せなくて」というヒルダ直筆の返信が手元に届く始末。これぞ踏んだり蹴ったり。
焦らしに焦らされて、ようやく会えたと思ったら嬉しさが爆発して。
正直、今日の自分の振る舞いは、赤面し、のたうち回らずにはいられないほどひどかった。それでもそうしないのは、恥ずかしかったけれども後悔は全くしていなかったから。ヒルダとの時間のうち、どこにも無駄だと思うようなことはない。
楽しかった。嬉しかった。
「でも、無茶させてごめんなさいね……」
ヒルダに負ける――そう覚悟した瞬間、唐突にヒルダが視界から消え失せたのにはものすごく驚いた。
聞くからに痛い音がして、気づけばヒルダはとんでもない勢いで地面を転がっていた。いささかタイミングがずれていたものの、木剣を離して受け身を取っていたのはさすがである。リーシャンもまた、己の体の流れに無理に逆らって足を止めたため転びかけたが、木剣を突き立ててなんとか惨事を免れた。
慌てて振り返ってみると、地面に大の字になったヒルダは、はじめ、状況が読み込めていないようだった。ぱちくりと開いた瞳の、なんとあどけないもの。快晴をそっくり映すような鮮やかさは、まるで憑き物が落ちたようでもあった。
実際、ヒルダはその通りのようなことを、息も絶え絶えの中でこぼして、笑って、笑って、笑って……気絶した。
リーシャンも侍女のマリーナも、泡を食って邸内にヒルダを連れて駆け込んだものである。ちなみに、王妃とその側近でありながら、二人は人を呼んで運んでもらうという発想はずっぽり抜け落ちていた。
客間のカウチにヒルダを寝かせた後、侍医に診察を頼めば、王妃の生傷を普段から苦笑しつつ治療していた老いたるその人は、顛末を聞き、一通り診察をして、呆れたように首を振っていた。
「こんなに奇特な人は、王妃さま以外にはいないと思ってたんですがねぇ……」
「そんなことより、どうなの」
「右膝の打撲は、幸い骨折には繋がっていないようですな。後の擦り傷は王妃さまが普段使ってる薬を塗っときゃ傷痕少なく治ります。さすが城の針子の仕事だけあって丈夫な服がいい防護になったんですな。気絶は、単純に疲れて眠っただけです。このままゆっくり寝かせときなさい」
「そう……」
「次は王妃さまですよ。あんたさまもまあ新しい傷をこさえちまって……。しかも関節痛めてるでしょう。動くのも痛いんじゃないですか?」
「久しぶりの試合だったから……」
「いい歳して、年下巻き込んでおおはしゃぎするもんじゃないですよ」
「うっ……」
「関節と筋肉を痛めた分には薬があるからいいけど。ロアン夫人、按摩師を……あたしの弟子の、ココットが適任かね。医務局にいたと思います」
「リーシャンさま」
「ええ、行ってちょうだい」
王妃の側近を顎で使いかけた侍医は、やっちまったと言いたげな顔で、しれっと王妃に許可を取って去っていく姿を見送っていた。医者としては優秀なのだが、身分に付随する礼儀や作法、それからちょっとした常識に疎い侍医なのである。こうして反省できているだけまだましで、若い頃は相当にブイブイ言わせていたらしい。
そうしているうちに侍女が客間に戻ってきた。そもそも用命してきただけで、こういう場合に足となって働く人材は別にいる。
「それじゃ、ひとまずあんたさまは汚れを落としてきな。この子は濡れ布巾で清めとく」
「洗髪用の桶と清拭の人手は用意できております」
「さすが夫人だ。じゃあその間、塗り薬を用意しとくかね。ああ、くれぐれも、この子の膝は無理に曲げさせたりさせないように。結構痛いよ、これは」
「心得ております」
官僚服の裾が捲られ露になっているヒルダの右膝は、白い肌が赤と青と黄色にまだらに染められ、ぷっくりと腫れ上がっていた。応急措置として水嚢を当てているが、痛々しい見た目が引き立てられるだけだ。
部屋を出たところで、マリーナは先をとぼとぼ歩く主人にそっと声をかけた。
「晩餐はいかがいたしましょう」
「……用意しておいてちょうだい。無駄になるかもしれないけど……」
「お客さまは、お怒りにはなりませんよ」
「私が勝手に落ち込んでるだけよ」
「では、なおさらでございましょう。あの方がお目覚めになったときそんなお顔でよろしいとお思いですか?あの方もいいお気持ちにはなりますまい」
「……うう……」
「リーシャンさまは、ご自分の魅力をお忘れですか?……ちなみに、陛下がこの宮にお見えになっております」
「――なんですって?」
さっきまでの消沈ぶりはどこへやら。
廊下のど真ん中で足を止めてぎらつく眼光で振り返るリーシャンは女帝のごとき存在感を発していたが、度胸充分な侍女はしれっと返答した。
「お客さまに興趣がそそられたご様子です」
「どうしてすぐに私に報せなかったの?」
「陛下は内々にお出でになられたのです。もてなしは不要とのことで、現在はお庭をご覧になっております」
「客間の窓を全部閉めて、扉には鍵をかけなさい。東と南、どちらの庭?」
マリーナは、さながら女帝が扇の代わりに振るうレイピアのように、鮮烈かつ嫣然と微笑んだ。
「ご用命は既にいたしております。お庭は南です。――どうなさいます?」
「当然、追い出すわ。今日は王妃休業、来るなと申し上げていたのに……!」
「お供いたします」
くたびれた背中がしゃんと伸び、血色がよくなり、いつもの凛々しいリーシャンに戻っていた。国王陛下を犠牲にするだけでこの人の機嫌が直るなら安いものだと、王妃に忠実なる腹心はほくそ笑み、美しい一礼をとってから主人の背後をついていった。
☆☆☆
そんなわけで、ヒルダは閉ざされたカーテンの奥、暮れなずむ空に気づくことなくぼんやりと目覚め、表情筋含めた全身の筋肉痛と膝の打撲の痛みに気絶する直前の諸々を思い出して、思う存分に悶絶した。泣き疲れて眠るならまだしも、笑い疲れるって、なに。
三十分ほどそうしても、薄暗い部屋の中も外も、何の気配も感じない。おかしいなと思いつつ起き上がり、直後にまた硬直した。衣服が、締め付けの多い官僚服ではなく、ゆったりとしたワンピースに変えられている。今さらだが、髪からいい匂いがしているし、寝台のシーツの肌触りの滑らかさは侯爵家を思い出す。今では王立学園の寮の安い手触りの方が慣れているので、懐かしさもひとしおだった。そこでサイドテーブルに無意識に手を伸ばしたのは、懐かしくとも最近身につけた習慣ゆえだった。こつり、と爪がそれに当たって、はっと振り向いた。
「……髪飾り!」
ファリーナから貰った髪留めは、しっかりそこにあった。薄暗い中でもわずかな光を捕らえ、きらりと照る。手で確認しただけだが、大きな傷はないようだった。よかったとほっとする。
そろそろ、起きて状況を把握しなければ。寝台から下りようとしたら、右膝が固定されているので動きがぎこちなくなり、筋肉がびしびしと悲鳴を上げた。
(……はしゃぎすぎたわ……)
向こう見ずに大暴れした代償は、ずいぶんと高くついたようだ。これは数日尾を引く。自業自得だとわかっているものの、げんなりとため息をついたのは仕方ないと思う。でも、それくらいの成果は得られた。何年ぶりかというくらいにはしゃいで、暴れて、スッキリしたし楽しかった。今の自分は幸せなんだなと、実感もできた。
相手に踏み込んでもらわなくてはヒルダは心を開けない。そういう習い性なのは自覚している。リーシャンに第一歩から抱きつかれてなければ、愚かにも最後までどこかしらの疑念を持って接していただろう。結局そんなことにはならなかったし、尊敬する女性と好き放題にお喋りし通し、剣だって打ち合わせた。そこまで思い出したところで羞恥心がまた蘇ってきてごろごろした。素敵な一日でした、とまとめられない自分の情けなさに死にそう。
ちょうどその時、部屋の外で人の足音が鳴った。
「お嬢さま、お目覚めでしょうか」
「……あ、はい」
リーシャン王妃の侍女の声だった。お嬢さま、という呼び名に戸惑う自分がなんとなくおかしくて、でも悪い気はしなかった。普通ならここで扉が開くのを待つところだが、ヒルダは自ら開けに行った。深呼吸して顔の火照りを冷まし、痛みを無視して、右足を引きずりつつも急いで歩き、ドアノブを捻ってゆっくりと引く。その向こうに、侍女の驚いた顔があった。
「お嬢さま、ご無理なさらずに、お待ちになっていただけたらよろしかったのに。お体の具合はよろしいのですか?」
「こうして動けるほどには、大丈夫です。それより、あたしが倒れたあとに色々とご迷惑をおかけしたようで……申し訳ありません。治療や清拭までありがとうございます」
「いえ、お客さまにご負担を強いてしまった私たちの落ち度です。主に代わって謝罪申し上げます。同時に、感謝を。お嬢さまと剣を打ち合わせるあの方は、近年まれなほどに生き生きとしていらっしゃいました」
そろそろ我慢の限界で、ぐらりと体勢を崩したヒルダを、侍女は力強く受け止めた。ソファに誘導しつつ付け足す。
「私の記憶の限りでは、王太子殿下に剣のご指導をなさった時が最後です。たったの一度でしたが、加減ができず骨にひびを入れておしまいになりました」
「……ご、御愁傷様です」
「過ぎたことですので」
侍女はにっこりと微笑んだ。規格外の王妃の側近はやはり一筋縄ではいかない人物のようだと、それだけでわかった。類は友を呼んだのか、はたまた偶然か……いや、朱に交わればなんとやらの方か。
「あの、思い出すのが遅れてしまいました。以前、ルーアン公爵家のお茶会にいらっしゃいましたよね?」
「……まあ、よくお気づきになりましたね。十年以上も前のことですのに」
「お名前までは存じ上げませんが、とても印象に残っていたのです。リサ姉さま……いえ、リーシャン妃殿下と同じくらい輝いていた方だったから」
「どうぞ姉さまとお呼びになって下さい」
抜け目なく言葉を訂正したあと、侍女は姿勢を糺した。
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません、ヒルディアさま。マリーナ・ロアンと申します。夫に先立たれ、今は未亡人ゆえに長く主にお仕えすることを許されております」
「ロアン……」
「デカリア公国の中位貴族家ですが、出戻りです。どうぞ私のことはマリーナと」
「そ、そんな訳には」
「少し事情がありまして、家名こそ名乗ることは許されておりますが、あまり一般的なことではないのです。知人にはいまだに夫人と呼ぶ者もいますが、その方も余人の前ではなんとか取り繕っております。……まあ、単純に私の名前を呼ばないだけなのですが」
大国の王妃に仕える侍女ともあろう者が、まるで若い娘のようにぷくりと頬を膨らませている姿が、今日強引に「リサ姉さま」と呼ばせた王妃をとても彷彿とさせられた。こんな隙を、ヒルダにわざわざ見せていいと思ってくれたことは素直に嬉しかった。
「ああ、いっそ『マリ姉さま』でも」
「マリーナさまでお願いします!」
「主人を差し置いて私のみ他人行儀になられては示しがつきませんからね」
「え……さま付けも駄目……!?」
「とはいえ、お客さまとあまり親しくさせていただいているところを主人に見られては嫉妬のあまり解雇されかねません。出戻りですから実家とは疎遠ですし、困ったものです」
「マ、マリーナさんはどうでしょうか!?」
侍女の周辺だけ時が止まった。
ヒルダはごくりと唾を飲み込んだ。この沈黙は妥協案を吟味しているためだと思いたい。呼び捨ては怖すぎて嫌だ。というかなんであたしが脅されてたんだろうこれ。
「……」
「……」
しかし、今度はあまりにも沈黙が長すぎて、ヒルダの背中を流れる冷や汗が増えた。
「マ、マリさんは、いかがでしょうか……?」
譲歩と妥協の合わせ技は、侍女の喜色満面な笑みをもたらした。
「私どものわがままにお付き合いいただき、心より感謝申し上げます」
「……ヒルダちゃん、さすがに落ち込むわよ、私。マリーナを姉さま呼びしたって解雇なんてしません。真に受けて遊ばれちゃって……」
「リサ姉さま!」
「嫉妬はなさるということでしょうか?」
「少しはね」
リーシャンは心なしかよろよろと部屋に入ってきた。按摩師に全身揉みほぐされたものの、疲労回復にはまだ時間がかかるようだった。見るからに筋肉痛で動作がぎこちないヒルダの若さが羨ましい。
「目覚めてよかったわ。無茶をさせて、本当にごめんなさいね」
「いえ、謝られるようなことじゃありません。あたしこそ色々とご迷惑を……」
「お詫びの代わりになるかわからないけれど、よかったら、これから一緒に食事をとってくれないかしら。まだまだ話したりなかったし、ね?」
「姉さまがよろしければ、ぜひ」
実はそろそろ空腹感が押し寄せてきていたヒルダは、そっと腹部を押さえてごまかすように微笑んだ。昼を抜いてお菓子で済ませたツケもあったようだ。腹の虫が鳴く失態をおかすよりは甘えてしまえ。ある意味潔いヒルダの返答に、リーシャンはこっそり安堵した。
今このとき、夫であり主君である国王よりも、ヒルダの機嫌の方がリーシャンにとっては一大事なのだった。
すっかり暗くなってしまった頃、王妃宮にヒルダを迎えに来たのはケリーとドルフだった。今回、ヒルダは王太子の教育係ケリーの使いという形で王妃宮を訪れ、帰りはバルメルク家遠縁の行儀見習いという形で去る設定だ。こんなにややこしいことになったのは、ヒルダとリーシャンがはしゃぎすぎたせいに他ならない。ずたぼろの官僚服は、ドルフの従者としてくっついてきたルフマンの荷物になった。ついでにヒルダの右足の動作のぎこちなさも見てとって「お二人ともはしゃぎすぎでしょ」と、ドルフとケリーに咎められても、腹を抱えてけらけらと笑った。
その笑いを止めたは、マリーナによる耳打ちだった。ひそひそと何かしら囁いたあと、寄せていた顔を離すとほぼ同時にルフマンの顔からざっと血の気が引いていったので、この少年に手を焼かされていたヒルダは、どんな魔法を使ったのかと手放しで称賛した。とっさに「マリさん」と口を滑らせたら、今まさにヒルダに泣きつこうとしていたルフマンは硬直し、次の瞬間には脱兎のごとく逃げようとして、ドルフに首根っこを掴まれた。
「バルメルク公、従者を甘やかしすぎてはいませんか?」
「いやはや、お手数をお掛けしましたな。人前では一人前にこなすものの、まだ甘えたい年頃のようで」
「それを甘やかしていると言うのではないですかな?」
「ケリー殿も同じことでしょう?聞きましたよ、先日、王太子殿下が大脱走したらしいではないですか」
ひんやり笑うケリーとおおらかに笑い飛ばすドルフは見事に対照的だったが、この二人はいつもこのような感じである。リーシャンは仲裁もせず、ことあるごとにこうして小競り合いする二人をよそに、ヒルダとの別れを惜しんだ……と見せかけて。
「マリーナのお手柄なのに、どうして二人とも自分のもののようにおっしゃるのかしらね?」
むしろ火に油を注いでいた。満面の笑みで。
話しかけられたヒルダは、リーシャンの背後でこちらを振り返っている二人の鋭い視線から逃れるように、ぎこちなく「さ、さあ……?」とごまかした。いくら胆が据わっているヒルダでも、この国における至高な地位の方々の身内話に平然と入っていく図々しさは持っていない。というか持ちたくない。庶民万歳。
わざとらしく泣きべそをかいて抱きつくルフマンを、筋肉痛に耐えつつ撫で回し、ドルフの意識を控えめに引き、リーシャン・マリーナ主従と別れの挨拶を交わし、名前を貸してくれたケリーに感謝を述べ、やっとヒルダは王妃宮を出ることになった。おそれ多くもドルフのエスコートを得て、ゆっくりと立ち去っていく。
その背中を、ケリーがなんとも言えない顔で見送った。あの娘、度量といい、引き際の見極めの正確さといい、誘導の巧みさといい……。
「……スートライト侯は、愚かに過ぎますな」
「マリーナも同意見らしいですよ。私は前からわかっていましたけれど」
王太子の教育係は、勝ち誇ったように胸を張るリーシャンを苦々しく見やった。
「本当に見抜いておられたならば、なぜおめおめと平民に?」
「あら、おわかりになりませんか?彼女にこの世界は向いていませんの。長年陛下に申し上げていたのに何も変わらなかったことがその証しでしょう」
「……」
「あの子は最後、己の安寧よりも名誉を重んじました。その気高さを私も尊重しているに過ぎません。……罪滅ぼしにも足りませんけどね」
貴族としての安寧よりも、人としての名誉を。
貴族としての名誉を奪っておきながらなお、そこで生きよと。スートライトの馬鹿夫妻がしでかしたのはそういうことだった。それは飼い殺し以外の何物でもなく、それで「愛」を語るのだからふざけている。
そして、無自覚にそれと同じ事をさせようとするセシルとアデライトにも、リーシャンは内心で激怒していた。馬鹿夫妻の影響を受けたゆえ仕方がないとはいえ、同情よりも怒りの方が強くなってしまった。あのあと数日打ちのめされたと聞いたが、更生の余地があるのでいつかまともになってほしいところだ。
誰かに守ってもらわなくても、ヒルダは一人で立つ毅さを持っている。……そこに、ルーアン公爵家次期当主という梯子を外されたかつての自分を重ねなかったかと問われたら、否定はできない。
「それで、ケリーさま。上の息子の謹慎は明日までですけれど」
口内に広がる苦いものを飲み下して、リーシャンはケリーがここに居残る理由を尋ねた。ケリーもまた切り替えたように色代して、用件を告げた。
それを聞いて、ぱちりと瞬きしたリーシャンは、とっくに王妃の顔に戻っていた。今日、ついぞヒルダには片鱗さえ見せなかったもの。
「……そうですか。全く、羽虫の鬱陶しいことといったら……」
ヒルダに見せた少女のような爛漫さも、数ヵ月前の夜会で見せた愉快狂な姿も、今このときの冷徹な為政者の面差しも、全てリーシャンの持つ一面だった。
「打つ手は考えておきましょう。王太子殿下へはそのままお伝えしてください」
「かしこまりました、王妃殿下」
王妃宮から灯が落ちるには、まだ早い時間だった。
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