10番街の人々

Yukino

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菊之条小町

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 あれは誰がどう見ても小町だ。
前方数メートル先にいるのは黒のレースを腰からヒラヒラさせたハイセンスな服を着こなすハイセンスな女。

「小町!」

 声をかけながら小走りして追いつくと、予想通りスマイルの馬鹿でかいバケツを抱えていた。
けれどいつもと違く、今日はもう一つ紙袋を手にしていた。

「今日はよく人に会うわ」
「誰かに会ったのか?」

 聞き返しながら紙袋の方へ手を伸ばすと小町は素直に渡してくる。

「萌南と樹よ」
「あぁ、今日は樹の試合だったからな。で?これは?」

 渡された紙袋について尋ねる。

「その二人の分よ。店が混んでいて諦めたと言っていたからついでに買ってきてあげたのよ」
「そうだったのか。ちょうど今、皆んなで映画観ようってなったんだ。小町も行こうぜ」
「皆んな?二つじゃ足りないんじゃないかしら?もう一つ買ってくる?」
「いやいや。足りるから。むしろ俺らバケツ一つで充分だから」

このバケツのキングサイズは軽く5、6人分はある。足りないわけがない。

「そう?遠慮はいらないわよ」
「遠慮なんてしてねぇよ。それより片想いの相手はどうだ?」
「変わらないわよ。何も」
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