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上弦の章 帝国内乱
騎士の推薦状
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「ねぇ、アベル。私と主従契約を結んで、騎士になる気はない?」
「はい?」
カレンが突如、訳のわからない事を言う。
その手には、1つの紙が握られていた。
「正確には従士からだけど私と契約して、騎士に…………」
「結構です」
「なってくれるのね!」
「ならないって言ってるんだけど!?」
彼女は俺の返答に頬を膨らませる。
ちなみに従士と言うのは騎士になる前の肩書きで、見習い騎士の事。
従士は騎士と違い、封土を貰えないので金銭か穀物、あるいはその両方を俸給分に割り振って与えられるのが一般的だ。
「だいたい、急にどうしたんだよカレン。あったばかりの頃に言ったはずだけど、俺は騎士になるつもりは更々ない」
「理由も聞かずに拒否するなんて器の小さい人ね」
なんか心にグサッと来たが、実際俺は度量が小さいので文句は言えない。
「分かったわよ、恥を忍んで話すから良く聞いてから返事して」
「まぁ、話を聞くくらいなら…………」
俺は姿勢を正して椅子に座った。
ちなみにここは、以前俺がお世話になった宿屋の食事場である。
ちょうど人もおらず、話すには良い環境だった。
カレンの剣の稽古をしたので、どうやら褒美らしい。
俺は頂けるのなら貰う主義なので、遠慮はしなかった。
それにしてもカレンの剣、まさに騎士道がそのまま洗練されたような真面目さだったな。こちらの誘導にすぐ引っ掛かる所を見るとまだまだだ。
「ノスタルジア家は今、戦力を蓄えるべきだと思うのよ。この先の功績を積み重ねるにも、反乱鎮圧とか何かと兵士はいるでしょ? そこにちょうど帝国議会から命令が下ったしね」
「ちょっと待て。今、帝国議会って言った?」
「えぇ」
「…………」
「な、何よ…………?」
「はぁ…………」
俺は頭を抱える。
「カレン、君は利用されてる」
「それは私だって分かってるわよ。でもこれからの事を考えると、議会からの指令には従った方が得策じゃない?」
寄らば大樹の影。
言ってることは分からなくもない。
ただし、内容次第だ。
「ちなみにその命令は?」
「ヴァリエロンの警備。出立は3日後」
「却下」
俺は即座に反対した。
「何で? ヴァルトの襲名式は明日でしょ? 楽しみにしてるソフィー・ヴァルツァー宮廷魔導師の晴れ舞台より後なんだから良いじゃない」
「俺が反対してるのは、カレン率いるノスタルジア家の戦力が単純に考えて無に等しいからだよ。蓄える以前の問題だ」
俺が分かるノスタルジア現戦力は、カレン、クラリーチェ、カエデさんの3人。
俺を入れたところで小競り合いすら出来ないんだが。
そもそもクラリーチェは良いとして、カエデさんが戦場のど真ん中で活躍できるかと問われればまず無理だろう。ナイフ術に長けてようが乱戦になったら槍衾に刺されに刺され、無惨な姿を晒す。
「集団同士の戦いって最低でも10人はいないと心に余裕が出来ないんだよ。魔術が使えると言っても君達はヴァルト見たいに乱発出来ない。マナが尽きればそれで終わりだ」
矢がなければ弓は射れない様に、発動する際に消費するマナが無くては机上の空論だ。
「それに基本的に兵士を増やすって言うのは領内の村人を強制徴兵したり配下の騎士の子息を騎士に叙任して増やすだろう? 前者はカレンの性格的に無理だろうし前回の領地の問題で駄目。後者は宛があるのか俺は知らない」
「くっ…………」
俺の理詰め話術にカレンが少しだけ怯む。
配下の騎士がいない事が決定付けられる瞬間だった。
「だからこそ特例であなたを誘ってるのよ…………」
と、俺の目の前に推薦状を置いた。
「……………………」
俺は内容に目を通す。
『アベル。あなたをノスタルジア家の従士として叙任することを、当主エカテリーナ・ノスタルジアに代わり、当主代理である私カレン・ノスタルジアが推薦します。忠誠を誓い、我が一族の剣として、あるいは盾として死力を尽くす暁には、貴殿に以下の権利を授けます。
1、使用する武具、防具、馬具の無償貸与
2、30日毎に通貨にて30万ウォルスの支給
3、部屋の無償貸与
ノスタルジア家当主代理
カレン・ノスタルジア』
丁寧なことに名前の後にはノスタルジア家の紋章、盾に守護忠犬が描かれた図柄の蝋印が施されている。
「…………」
条件としては悪くない。
むしろ大分こちらに対して譲歩している。
「明日まで待ってるから…………」
「…………」
何やら寂しそうに俺を見る。
俺が何も言わずにいると、
「待ってるから……………………」
念押しされた。
俺は無言のまま立ち上がり、その場を後にする。
彼女には悪いが万にひとつも俺は応じないだろう。
もう、こう言った闘争に巻き込まれたくないし、お家の問題を俺の介入で引っ掻き回したく無いのだ。
「はい?」
カレンが突如、訳のわからない事を言う。
その手には、1つの紙が握られていた。
「正確には従士からだけど私と契約して、騎士に…………」
「結構です」
「なってくれるのね!」
「ならないって言ってるんだけど!?」
彼女は俺の返答に頬を膨らませる。
ちなみに従士と言うのは騎士になる前の肩書きで、見習い騎士の事。
従士は騎士と違い、封土を貰えないので金銭か穀物、あるいはその両方を俸給分に割り振って与えられるのが一般的だ。
「だいたい、急にどうしたんだよカレン。あったばかりの頃に言ったはずだけど、俺は騎士になるつもりは更々ない」
「理由も聞かずに拒否するなんて器の小さい人ね」
なんか心にグサッと来たが、実際俺は度量が小さいので文句は言えない。
「分かったわよ、恥を忍んで話すから良く聞いてから返事して」
「まぁ、話を聞くくらいなら…………」
俺は姿勢を正して椅子に座った。
ちなみにここは、以前俺がお世話になった宿屋の食事場である。
ちょうど人もおらず、話すには良い環境だった。
カレンの剣の稽古をしたので、どうやら褒美らしい。
俺は頂けるのなら貰う主義なので、遠慮はしなかった。
それにしてもカレンの剣、まさに騎士道がそのまま洗練されたような真面目さだったな。こちらの誘導にすぐ引っ掛かる所を見るとまだまだだ。
「ノスタルジア家は今、戦力を蓄えるべきだと思うのよ。この先の功績を積み重ねるにも、反乱鎮圧とか何かと兵士はいるでしょ? そこにちょうど帝国議会から命令が下ったしね」
「ちょっと待て。今、帝国議会って言った?」
「えぇ」
「…………」
「な、何よ…………?」
「はぁ…………」
俺は頭を抱える。
「カレン、君は利用されてる」
「それは私だって分かってるわよ。でもこれからの事を考えると、議会からの指令には従った方が得策じゃない?」
寄らば大樹の影。
言ってることは分からなくもない。
ただし、内容次第だ。
「ちなみにその命令は?」
「ヴァリエロンの警備。出立は3日後」
「却下」
俺は即座に反対した。
「何で? ヴァルトの襲名式は明日でしょ? 楽しみにしてるソフィー・ヴァルツァー宮廷魔導師の晴れ舞台より後なんだから良いじゃない」
「俺が反対してるのは、カレン率いるノスタルジア家の戦力が単純に考えて無に等しいからだよ。蓄える以前の問題だ」
俺が分かるノスタルジア現戦力は、カレン、クラリーチェ、カエデさんの3人。
俺を入れたところで小競り合いすら出来ないんだが。
そもそもクラリーチェは良いとして、カエデさんが戦場のど真ん中で活躍できるかと問われればまず無理だろう。ナイフ術に長けてようが乱戦になったら槍衾に刺されに刺され、無惨な姿を晒す。
「集団同士の戦いって最低でも10人はいないと心に余裕が出来ないんだよ。魔術が使えると言っても君達はヴァルト見たいに乱発出来ない。マナが尽きればそれで終わりだ」
矢がなければ弓は射れない様に、発動する際に消費するマナが無くては机上の空論だ。
「それに基本的に兵士を増やすって言うのは領内の村人を強制徴兵したり配下の騎士の子息を騎士に叙任して増やすだろう? 前者はカレンの性格的に無理だろうし前回の領地の問題で駄目。後者は宛があるのか俺は知らない」
「くっ…………」
俺の理詰め話術にカレンが少しだけ怯む。
配下の騎士がいない事が決定付けられる瞬間だった。
「だからこそ特例であなたを誘ってるのよ…………」
と、俺の目の前に推薦状を置いた。
「……………………」
俺は内容に目を通す。
『アベル。あなたをノスタルジア家の従士として叙任することを、当主エカテリーナ・ノスタルジアに代わり、当主代理である私カレン・ノスタルジアが推薦します。忠誠を誓い、我が一族の剣として、あるいは盾として死力を尽くす暁には、貴殿に以下の権利を授けます。
1、使用する武具、防具、馬具の無償貸与
2、30日毎に通貨にて30万ウォルスの支給
3、部屋の無償貸与
ノスタルジア家当主代理
カレン・ノスタルジア』
丁寧なことに名前の後にはノスタルジア家の紋章、盾に守護忠犬が描かれた図柄の蝋印が施されている。
「…………」
条件としては悪くない。
むしろ大分こちらに対して譲歩している。
「明日まで待ってるから…………」
「…………」
何やら寂しそうに俺を見る。
俺が何も言わずにいると、
「待ってるから……………………」
念押しされた。
俺は無言のまま立ち上がり、その場を後にする。
彼女には悪いが万にひとつも俺は応じないだろう。
もう、こう言った闘争に巻き込まれたくないし、お家の問題を俺の介入で引っ掻き回したく無いのだ。
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