断罪のアベル

都沢むくどり

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上弦の章 帝国内乱

働き稼ぎ、食して寝る 3

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 取り敢えず会計を済ませた俺は、さっさとカレン邸まで走る。

 もちろん、裏通りから。

「もう高いときにエールなんか飲まない…………」

 心底ため息を吐くが、まぁ良しとしよう。

 裏通りの路地は一件全て同じような見た目ではあるが、慣れてくると案外貴族街までの道のりはそこまで難しくは無かった。

 よくよく考えるとカレンって一人でこんな場所を歩けるとは…………。

 男勝りな性格と言うかお転婆と言うか。

 そして顔はまだあどけなさが残っていると来た。

 いやいや、見た目で判断してはいけない。

 クラリーチェを見てみろ。

 あのワンコに関してはイレギュラーすぎるが例としては充分。

 と、色々考えながら俺の走る足音が裏通りに木霊している中で、暗い道の先に光が差す。

 そこに向かって突っ走ると、やけに豪奢な街並みが視界に飛び込んだ。

 貴族街だ。

 やはりここら辺は貴族街と言うだけあって夜なのに大分通りが明るい。

 ここからカレンの住む、そして俺が端の馬小屋を貸してもらっているノスタルジア邸まではそう遠くない。

 俺は一息深呼吸をして、また走り出した。



 

 ノスタルジア邸の門前まで行くと、人影…………ではなく……………………、

「……………チッ………」

「……………………こんばんわ」

 出会って早々ノスタルジア家のメイド、カエデさんに舌打ちされた。

「どうしてカレン様はこのような男を……………………命の恩人だから仕方ないが、よりにもよってこの男とは………」

「……………………」

 何やらブツブツ呟いているが、俺は横を素通りする。

 ここで何か言うよりも、さっさと退散する方が良い。

 それに、カレンはこの間、俺を命の恩人とすることで馬小屋を貸すことを許可されたと言っていた。

「………………………………」

 カエデさんは俺と会ったことがそんなに嫌なのかそのまま黙り、そそくさと立ち去っていった。

「はぁ……………………」

 初対面から俺の事を嫌っているが、何故だろうか?

 特に嫌われるような行動はしていないはず。

 過去のトラウマ、階級の問題ならどうしようもないか。

 俺はそのまま離れの馬小屋までの道のりをひたすら進む。

 その道中には色々な花が植えられていた。

 チューリップ、パンジー、その他分かるものから俺の知らない花まで。

 ただ、残念なことに…………ラベンダーは無かった。

 ラベンダー。

 それは俺にとって思い出深い花。

 妹との…………大切な………………。

「…………」

 駄目だ。ソフィーの事を考えると急に会いたいと欲が騒ぐ。

 もうすぐ見れる。

 そう自分に言い聞かせた。

 時期はまだ公表されていないが、ソフィーは襲名式で帝都に姿を少しの間だけ姿を現す。

 そのときまでの辛抱だ。
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