断罪のアベル

都沢むくどり

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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

惨劇 1

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「クソッ!!! 夜襲か!? だが、あんな短時間で村全体に油をまくなんて無理だろ!」

 悩んでる暇はない。今は一刻も速く村に行かなくては…………。

「カレン!!! 時間がない、急いで村に」

「……………………」

「カレン?」

 膝から崩れ落ち、地面を見つめるカレン。

「どうして……………………」

 悲痛なか細い声が、耳を痛く刺激する。

「おかしいわ……………………なんで…………? 帰ってから索敵の魔術は村の入り口に展開し続けていたはずなのに…………」

「しっかりしろ!」

「お父様と姉さんから受け継いだ村…………が………………………………あんな………あんな一瞬で………………!」

「おいっ! お前の大事な人達を助けなくていいのかよッッ!?」

 俺はついつい口調を荒げてしまう。

 貴族には珍しく、カレンの無償の愛から来る領地に対する思い入れは人一倍強い。民、封土、家族を愛し、良い統治者になろうと懸命に振る舞っていたのが良く分かる。

 だが、そんな真面目なやつほど何かの事象で愛していたものを傷つけられた時、己の失態だと責める。

 恐らくカレンの頭の中では自身の索敵魔術が感知しなかったことによるショック、愛している村を目の前で燃やし尽くされたことによる絶望などが渦巻いているのだろう。

「私の…………私のせいでっっ………!」

 純粋で精神的にまだ未熟なカレンが人々を治めるには、まだあまりにも早い年齢だった。

 だけども、

「そんなことでどうするッッッッ!」

「…………ィッッ!!」

 俺は遠慮なくカレンの胸ぐらを掴みあげ、頬を思いっきりひっぱたいた。

 痛みで嗚咽が止まる。

「まだ全員死んだ訳じゃない! お前が茫然としている間に何人救える!!」

 カレンの瞳の奥に少量の光が差す。

「俺はカレンの家族やこの村との関わりは知らない。それはカレン達だけの特別な思い出、決して他者じゃ踏み込めない領域だ。その思い出が今、侵されるかも知れない、いや既に侵されてる! なのにお前はそのままでいいのかよ!?」

 無理矢理手を引っ張り、立ち上がらせる。呻いたが、それどころではない。

「行くよ、カレン。君の思い出を取り返す」

 会話の締めとして、いつもの口調に戻す。

 人には大切な思い出がある。それを踏みにじる輩には、容赦出来ないのが俺だ。

「………………………………」

 無言ながらも、俺の手を振りほどかない。少しは落ち着いたのだろう。

 ひどくおとなしく、儚い姿は俺の大切なソフィーの姿に似ていた。俺はそれに動かされたのだと思う。俺は決して情が厚い訳では無い。

 が、ソフィーと重なる点があるとついつい動いてしまう。

 目の前のカレンとソフィーは性格、容姿は全く似ていないが、この瞬間だけはソフィーの面影に重なる。

 これは最後にソフィーに会ったときの約束を反故にした俺の贖罪の気持ちから来ているのかもしれない。

「それに、カレンの魔術が発動しなかったことで大体敵の狙いが見えたしな」

「…………どういうこと…………?」

「説明は後だ。前を見てみな」

 ゆっくりと前を見るカレン。その先に映っていたのは、

「 見ぃつけたッッ! ギャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッッッ!!!」

 昼間に話した農夫。

 だけを持った男を先頭に、ざっと二十人は下らない敵が、道に待ち構えていた。
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