断罪のアベル

都沢むくどり

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新月の章 鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌

貧村に現れた善良なる統治者 1

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「カレン様だぁ!」

「なんと!?」

「儂らの為にカレン様本人が直接来てくださるとは…………!」

  集落に入った途端、続々と村人達が老若男女問わず、カレンを囲むように集まってくる。彼らの目は輝いていて心の底から拝んでいる目だった。それだけカレンの政策が民の為の物なのだろう。

「フフ、みんな久しぶり。ペーター、この前教えた肥料の作り方は覚えたの?」

「うん! カレンさまが丁寧に教えてくれたし、やり方を見せてくれたからすぐにできたよ!」

 ペーターと呼ばれた男の子は元気よく返事をする。

 それにしてもカレンってすごいなぁ。肥料って言うと家畜とか人の糞尿で作るから臭いとかで貴族、騎士は普通携わること自体あり得ないんだが。むしろそれをいやな顔せず教えるとは。領民も慕うわけだ。

 カレンは上からではなく同じ目線で彼らと共に歩んでいる。搾取ではなく共生しているといった方がいいだろうか。

 それにしてもぼっちゃん貴族一行の姿が見えない。

 いや、客人用の家だろうか。遠くに位置する館ほどではないが、それなりに大きい木造建築に主の承諾も得ずに、勝手に入っていった。俺が聞いてないだけで事前に取り決めでもしていたのだろうか。

「ねえ、おにいちゃんはだれなの? はじめてみるんだけど?」

 考え事の最中で小さい女の子から声をかけられた。黒のローブを羽織って顔を隠していたので怖そうに見つめられる。俺は急いでフード部分をたくしあげた。

「あぁ、俺はアベル。カレンの雑用係として、この前から雇われているんだよ。これからよろしくね」

 言われた本人以外はともかく、様、の部分でカレンは眉を少しだけ上げた。 普段俺には呼ばれないから少し違和感を覚えたのだろう。

「よろしく! ねぇねぇ! カレン様におつかえできてうれしいでしょ?」

 爛々と目を輝かせる少女。カレンのメイドにでもなりたいのだろうか。カレンならば雇ってくれそうだ。

「うん、カレンは優しいし、真面目で清楚なのが俺の誇りだよ」

 クラリーチェへの溺愛を除けば、な。

 一時的だが雇われてるので、デメリットは言わずに、少女の理想像を誇張するように言う。と言うよりも、俺よりもこの子達の方が付き合いが長いし、もう分かってるのかな。

 一方、俺がカレンを誉め称えていた時、カレンは他の領民の話の対応に追われていた。一瞬顔が赤くなった気がしたが気のせいだろう。

「羨ましいなあ、わたしも将来カレン様のメイドさんになって、お手伝いしたいなあ」

 当たった、俺の予想。

「頑張ってメイドさんの修行をすれば、もしかしたらだけど雇ってくれるかなぁ」

「こればかりは俺の口からはいえないな、でも物は試し。頑張ってメイドさんのお勉強をしてみたら?」

 子供の夢を壊さないためとはいえ、無責任な事をいってしまったものだ。基本的にメイドとは騎士階級の次女や三女、もしくはある程度の学がある女性しかなれない。

 それに村の発展具合から見て、搾取を行わなくても貧しい雰囲気がする。つまりは税収が低い。ノスタルジア家の収入が少ないのに、これ以上メイドを雇う余力はあるのだろうか?

 優秀なメイドもいるのだし。例えばカエデとかカエデとかカエデとか。

「うーん…………、そうだね! 頑張ってみるよ、色々と教えてくれてありがとう、お兄ちゃん!」

「うん」

 少女は俺に背を向けると、すぐにカレンの方に走っていった。

 さて、カレンは忙しそうだし、盗賊に備えて辺りを探索するか。地理の把握は戦況を左右する。




 ……………………気になることもあるしな。
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