断罪のアベル

都沢むくどり

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満月の章 ダリアの黙示録

Stigma/権能羽化 9

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 ヴァリエロンへ続く道。

 俺達一行は駆け抜けているが、行く先々の村はヴァリエロンに近づくに連れ残酷な景色を視覚に与える。

「ひどい…………………………………」

 出発してから3つ目の村を通過する時だった。

 カレンの小さな声が、一行の進行を止める。

 蔓延する死臭。

 返り血がこびりついた建物。

 そして、固まった場所に横たわる5つの遺体。

「可哀想に………………………………」

 馬から降りたカレンは、それぞれの遺体を弔うように礼をすると、村の建物に入る。

 生存者がまだいるのではと言う僅かな期待だろうか。

 あるいは、帝国議会からの指令で、村々の調査も命じられているのも可能性として捨てきれない。

 カエデさんも彼女に続く。

 そんな中、俺は目の前にいる5つの死体を調べてみることにした。

 不自然な位置に計算されたような倒れ方。

 何かを意図したものではないか。

 まず、注目すべきは争った形跡があること。

「………………………」

 4つの遺体は刺し傷、切り傷が特に目立つ。

 残り一つは全身が焼けただれており、目視で判断できるのはパッカリと開かれた腹部の中から火をつけられた痕跡がある事。

 次に、手がかりになりそうな持ち物はあるだろうか。

 俺は焼けただれた遺体から遺物を漁る。

「! これは…………………」

 そこには、平面に林檎が描かれたプレートがあった。

「知恵の象徴、間違いない。ヴァルトの教え子だ」

 林檎。それはヴァルト家の家紋の一部でもあり、その一部だけを切り取ってマークにしたプレートは、ヴァルトの叡智を授けられた証を意味する。

 このプレートに関しては師家、本家に差は無い為、この遺体がどこの出までは判別のしようがないが…………………………、

「教え子がこんな簡単に死ぬものなのか?」

 本物のヴァルトに遠く及ばないとは言え、彼らも魔術士だ。

 それも教え子5人となれば、軍の小部隊と同義と言える。

「帝国議会からの指令と無関係には思えない」

 相手は相当な手練なのだろう。

 仮にカレン一行がその敵に遭遇したとして、勝てる勝算はあるのか?

 カレンの力は夢のせいで底が見えないが、実際どこまで強いかは分からない。

 そもそも、この現実で発動できるかどうか未知数なことを考えると、俺の断罪ノ鎌が重要になる訳だ。

 だが、代償を以前の戦いで使い果たしてしまった。

 さて、カレン達に血を回収出来るものか。

 俺の血の回収能力は広範囲に渡る。

 さらに、その血が地面を伝う様に俺の元へ集まる事を考えれば、それに気づいたカレン達が必然的に俺の場所まで来てしまう。

 それだけは避けたい。

 パンドラの発言から俺及び断罪ノ鎌はダリア教団と無関係ではないらしく、この能力が何かの形で帝国上層部の耳に入ればほぼ終わりだろう。

 実際、帝国議会がダリア教団そのものをどこまで把握しているか、今の俺では知る術すらないが、カレンが帝国議会から目をつけられている以上、迂闊な行動は出来ない。
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