断罪のアベル

都沢むくどり

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満月の章 ダリアの黙示録

Stigma/権能羽化 8

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「具合は良くなったのか?」

「えぇ、ごめんなさいね。もう大丈夫だから」

 馬の鞍袋の中を確認しながら、カレンは答える。

 あれから一日経過して出発する事になった。

 カエデさんはカレンの容態を心配してもう少し様子を見ようと引き止めていたが、カレンは帝国議会からの使命でこれ以上失態をするわけにはいかないと却下する。

 実際、帝国軍も後から出陣することを考えれば、斥候と現地以外で合流するのは大失態だ。

「そう言えば、また変な夢を見たの」

 急に言われたが、やっぱりかと納得する。

「へぇ、どんな夢だ?」

「どんな? うーん、一昨日にも言った夢で、ちょうどその日の眠ったとき、曖昧にしか覚えてないから正確には思い出せないけど、確か白い世界に………………………」

「白い世界?」

 同じ夢の連続。間違いない。

「えぇ。ぼんやりとだけど、何もかもが白いのよ。それで…………あぁそうだわ。不気味な色をした何かを持っていた人が、必死そうに語りかけてくるのよ」

「……………………それで、その人はどんな事を言っていた?」

「それがよく聞こえなかったわ。ただ、今までの夢にそんな人はいなかった」

「そうか」

 同じ夢を同時に見るという事は人と人の意識をつなげる力が白夜の箱庭エリドに備わっているのか。

 あるいは、カレンの持つ権能が俺の鎌と共鳴する事で意識の境が曖昧になったのか。

 だとするとこれはまずいかも知れない。

 権能を持つもの同士が並ぶと、試練が現れるとノアは以前言っていた。

 今は何も無いが、この先戦う可能性が無いとは言い切れない。

 実際、夢の中でカレンは操られたように俺に襲いかかっている。

「さて、それじゃあ出発しましょうか」

 その合図に俺とカエデさんは馬に跨り、人通りの激しい道をゆっくりと馬に歩かせるカレンに続く。

 当然、クラリーチェは俺の前にちょこんと座っていたのだが、

「グルルルルルッッッ」

 どうやら不機嫌のようだ。

「どうした、クラリーチェ?」

 彼女?の視線は対面から歩いてくる三人へと向けられている。

 全員ローブに身を包み、深々と被られた頭のフードによって、口から上はまるっきり見えなかった。

 カレンやカエデさんは人混みの激しさとあちこちから聞こえる会話でクラリーチェの様子に気付いていない。

 そのまま互いは近づいていく。

 クラリーチェは普段、このような威嚇はしないが、俺はその行動を信じて警戒した。

 あのクラリーチェがここまで牙を剥き出すのには何か大きな理由があるはず。

 自然と手は剣の柄を握り込んでいた。

 そして、とうとうすれ違う瞬間。






「女神に選ばれた選民」


「!」

 一人目が口を開き、


「またの名を、天罰を司る使徒」


 二人目が紡ぐように繋げ、


「ようやく見つけました、カイン様」


 三人目が締めくくる。

「っ!?」

 俺の事をカインと呼び、使徒だの女神だのと言う。

 こいつらは、ダリア教団?

 なんでこんな所にいる?

 通り過ぎていった三人を追うように振り返るが、既に人混みに紛れたのか見つける事ができなかった。

「クゥン」

 クラリーチェは元に戻ってはいたが、どこか怖そうに震えていて、俺に頭を撫でて欲しいと首元をスリスリ擦りつけてくる。

 ダリア教団。

 やはりパンドラが以前叫んでいたように、カインと言う存在なのだろうか。

 俺は記憶に無い空白の期間に不安を覚えた。

🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕
※更新遅れました。
 もうそろそろで権能羽化編は終わりになります。
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