断罪のアベル

都沢むくどり

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満月の章 ダリアの黙示録

Stigma/権能羽化 5

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「…………………………ん?」

 目を開けると、そこは白い空間だった。

 白夜の箱庭エリド

 自称管理人ノアがいる不思議な世界。

 俺は妙に現実味を帯びた夢だと定義している。

 そんな世界に、本来俺とノア以外いないはずの人物が、焦点の合わない生気の消えた瞳を虚空に漂わせながら沈黙していた。

「カレン?」

 返事はない。

「昼間の事はここと関連があったと捉えるしかないな」

 なおも返事はない。

 認識していないのか、はたまた俺の夢の中の産物か。

「………………………」

 変化が無さそうに見えたが、カレンの周辺に突如として蜃気楼が漂う。

「……………………………ううっっ」

 それと並行して俯いていたカレンが呻き始めた。

 ガタガタと震え始める肉体。

 痛みに耐えかねるように伸びる華奢な腕。

 その手が触れた部分に、白く、精巧な紋様をした刻印が浮かびあがる。

 その刻印を繋ぐように、白い線が首に巻き付くように出現した。

「………………………あれはやはり、罪の能力か?」

 まるで束縛するように出現した刻印。

 そのまばゆい光が輝きを増すほど、カレンが苦しみだす。

 そして、

「うっっ…………………あああっっっっ、ッゥ!!!」

 その苦しみから逃れるように、痛みそのものをちぎり取るように、刻印に手を当てて、引き抜いた。

 厳密に言えば、刻印から何かが引っ張り出された。

 抜きたては半液状だった物質が、理に従うように形を整える。

 螺旋状に形作られた、されどその形状は直線。

 ノアが握っていた大理石の様な白い剣とは違い、ガラスのような透明さを持つ槍が、カレンの喉にある刻印から腕によって抜き取られた。

「……………………………」

 槍を抜いたカレンが、片膝をひざまずかせながら、荒い呼吸を繰り返している。

 その瞳には先ほどと同じく何も映らず、ただ下を向いていた。

「………………………ワタ……………シ……………………は」

 そんな中、心のこもらない声がカレンの口から紡がれる。

「ワタシ………………………が守……………らないと」

 突如向けられた空虚な瞳。

 俺に視線を向けたそれは、

「全ての罪から…………………皆を……………………」

 何かに操られたように、

「いいえ………………………………」

 俺を捉える。

「全ての罪を……………………消滅…………させないと…………………………」

「…………………ッ! 『鮮血を喰らいし、断罪なる鎌よ!』」

 左手の甲に浮かび上がる刻印、それが赤く輝くと同時に真紅の液体が流れ落ちる。

 迫りくるカレン。

「『盟約に従いッ……………我に力を!!』」

 鉄臭い血をぼたぼたと流しながらも虚空に手を伸ばし、引き抜いた。

 肉を整え、棒状にしたような見た目の柄。

 赤黒く輝く三日月型の巨大な刃。

 ‘’鮮血ヲ喰ライシ断罪ノ鎌‘’

 その等身大にも匹敵する武器を居合の要領でこちらを突こうとするカレンの槍に振るう。

 鎌で槍を引っ掛け、近づいた足を払う。

 それで転ばせた後に、槍を奪う算段であったが、

「…………………………………………」

 足を払われたカレンは引っ掛けられた槍を巧みに使い、地面に柄の部分で立てたと同時に体を後転させた。

 槍に力を込めた腕は、獲物を離すことなく、持ち主を後ろへと移動させ、着地に導く。

「………………………………見つけた、罪……………………」

 抑揚の無い声。

 今のカレンは何かに操られたようにフラフラと立ち上がる。



「まさか、こうなるとは私も予想しませんでした」



 いつの間にか隣にノアが現れる。

「どういうことだこれは!?」

「それは御本人に聞いて見たほうが良いのでは?」

 指を差した先にいるカレンはノアの方をじーっと見つめていた。

 抜け殻のような瞳で。

🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕

※大分遅れて申し訳ございません。

 カレンの事についていくつかネタを考えていてる時間、平日が忙しかったので隙間で作れなかった事、etc。

 設定として公表しますが、罪の能力は発動者の体に刻印を浮かべます。

 特に発動者の感情(過去の出来事のトラウマ等)や罪の名前と関連して決められます。

 まだ公表されていませんが、パンドラの刻印がある場所はわかる人はもうお気づきではないでしょうか。
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