断罪のアベル

都沢むくどり

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満月の章 ダリアの黙示録

Contradictio/猜疑孵化 2

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 新月の暦で殺し合いをしたガレットの騎士を思い出す。

 騎士とは主に従う者。

 そんな俺が下す答えは決められていた。

「見習い騎士の俺にそんなこと言うまでもないだろう。頼りないかもしれないが、契約に基づいて一時的とはいえ、俺はノスタルジア家の剣であり盾でもある。協力以前に主の命ならそう動くさ」

 例えそれが、残酷な物だろうと。

「違うの………………違うのよ」

 彼女は悲痛な面持ちで首を横に振る。

「あなたは契約に忠実だし信用もできる。でも、私が求めているのはそこじゃないの………」

 違う?

 遠回しに言っているが、パンドラに対して憎しみを抱いているのは言葉にせずとも彼女の表情からある程度予測できる。

 なら、そこで否定する理由は?

「カレン、俺は君の真意を憶測でしか言えないが、パンドラに対する隠しようが無いほどの殺意を抱いている。違うか?」

「っ…………………………」

 何かを言いたそうだったが、喉から出かかる所で彼女は止める。

 そして、一回だけ深呼吸をすると、

「でも、本人は違うと言っていたわ」

 震えた口調で話す。

「確かに違うかもしれない。でも、君自体は父親の遺体を良いように弄ばれたパンドラを許せないんじゃないか?」

「………………………………」

 彼女にとってパンドラとは、過去の事件の関連性から疑う対象であり、それとはなんの関係がなくとも身内の遺体を掘り起こした恨みの的だ。

「俺は今日話し始める段階で、既にその憶測を前提に君と会話を進めてきた。間違ってたら謝るよ」

「………………………………」

 俺の問いにバツが悪そうにしたカレンは、俺の足元に目線を落としてしまう。

「仮にもし、君がノスタルジア家の墓を暴き、亡骸を冒涜したパンドラを許せないなら、次に会ったとき、俺がもう一回彼女と対峙しよう」

 カレンの為に剣を振るうと言っておきながら、俺は卑怯にもパンドラに対して自己の私情を踏まえて約束しようとしている。

 パンドラは俺にとって、現状最も危険な存在だ。

 カレンの件が無くとも、また出逢えば戦うことになるのは分かりきっている。

「…………………………あなたは、私が妹さんの面影と重なったから、また助けようとするの?」

 少々トゲのある喋り方だな。

「……………いや、今回は違う」

 むしろパンドラが妹とほぼ同じ見た目とは口が裂けても言えない。

「…………………………そう」

 その答えを聞くと落とした目線を俺に向ける。

「あなたの考えは分かったわ………………ありがとう」

 なんとか作った苦笑い。

「全然ありがたそうに見えない顔だな」

「いえ、協力してくれるのは感謝してるわ……………ただ……………………」

 そう言って一拍貯めを作ると、






「私が答えじゃなかった」






 俺に囁くくらい、小さな声で呟いた。

「アベル、あなたが悪い訳じゃないわ。私の感情の問題なのよ」

「感情? 躊躇いがあるなら、なおさら君自身がパンドラと対面する必要はない。俺を使えばいいじゃないか」

「問題はそこじゃないの、少し一人にさせて欲しいわ…………………」

 カレンは彼女らが使っていた寝所に入り、丁寧なことに入り口の布を下げてしまった。

 俺は結局、彼女の2つあるうちの一つしか判別できず、途方に暮れる。






 しばらくして、カエデさんが作ったスープを食べる為にお互い顔を見合わせる訳だが、

「そういう事だからこれからもよろしくね、アベル」

 と、俺からすると随分とわざとらしい話し方で話しかけられた。

 心に蓋をしたのだろうか。

 もしくは逃避したのだろうか。

 出会ったばかりの頃と比べると、今も含めて幾ばくか暗い瞳を宿すようになった彼女。

 いや、カエデさん曰く俺と合う前はもっとひどかったらしいから、過去の彼女に近づいたのかもしれない。

 きれいな心でいてほしいと思うが、それを許さない世界。

 この少女一人の双肩にかかる重荷を考えると、不憫に思えてきてしまう。

「あぁ、よろしく」

「………………………………」

 先程の会話の詳細を知らないカエデさんは、俺を観察しながら訝しんでいた。

 その視線を無視しつつ、俺は重い雰囲気の中で紅茶を嗜んでいると、そよ風が頬を撫でた。

 それと同時に傾けていたカップが紅茶ごと白く変化し、それを合図に俺を除く万物が彫刻作品の様に動かなくなった。

 正確に言ってしまえばこれは現実とは別物らしいので、現実の物が動いてないとは言い難いが。

「はぁ……………………………俺はお前の顔はしばらく見たくない」

 発動する間隔が短すぎる。

 昨夜から半日すら経っていないのにまた彼女側から発動するとはな。

「フフフ………………………」

 白く変化したカレンの首周りに腕を絡めながら、自称管理人は微笑んでいた。

🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕

※結局アベルにとってカレンから読み取れた情報は憎悪しかなく、報復しか解決策を浮かべられなかった→カレンの抑止と言う考えが思い至らなかったので、自分勝手と分かっていながらも止めて欲しかったカレンに気落ちされてしまいます。
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