174 / 190
満月の章 ダリアの黙示録
Contradictio/猜疑孵化 2
しおりを挟む
新月の暦で殺し合いをしたガレットの騎士を思い出す。
騎士とは主に従う者。
そんな俺が下す答えは決められていた。
「見習い騎士の俺にそんなこと言うまでもないだろう。頼りないかもしれないが、契約に基づいて一時的とはいえ、俺はノスタルジア家の剣であり盾でもある。協力以前に主の命ならそう動くさ」
例えそれが、残酷な物だろうと。
「違うの………………違うのよ」
彼女は悲痛な面持ちで首を横に振る。
「あなたは契約に忠実だし信用もできる。でも、私が求めているのはそこじゃないの………」
違う?
遠回しに言っているが、パンドラに対して憎しみを抱いているのは言葉にせずとも彼女の表情からある程度予測できる。
なら、そこで否定する理由は?
「カレン、俺は君の真意を憶測でしか言えないが、パンドラに対する隠しようが無いほどの殺意を抱いている。違うか?」
「っ…………………………」
何かを言いたそうだったが、喉から出かかる所で彼女は止める。
そして、一回だけ深呼吸をすると、
「でも、本人は違うと言っていたわ」
震えた口調で話す。
「確かに違うかもしれない。でも、君自体は父親の遺体を良いように弄ばれたパンドラを許せないんじゃないか?」
「………………………………」
彼女にとってパンドラとは、過去の事件の関連性から疑う対象であり、それとはなんの関係がなくとも身内の遺体を掘り起こした恨みの的だ。
「俺は今日話し始める段階で、既にその憶測を前提に君と会話を進めてきた。間違ってたら謝るよ」
「………………………………」
俺の問いにバツが悪そうにしたカレンは、俺の足元に目線を落としてしまう。
「仮にもし、君がノスタルジア家の墓を暴き、亡骸を冒涜したパンドラを許せないなら、次に会ったとき、俺がもう一回彼女と対峙しよう」
カレンの為に剣を振るうと言っておきながら、俺は卑怯にもパンドラに対して自己の私情を踏まえて約束しようとしている。
パンドラは俺にとって、現状最も危険な存在だ。
カレンの件が無くとも、また出逢えば戦うことになるのは分かりきっている。
「…………………………あなたは、私が妹さんの面影と重なったから、また助けようとするの?」
少々トゲのある喋り方だな。
「……………いや、今回は違う」
むしろパンドラが妹とほぼ同じ見た目とは口が裂けても言えない。
「…………………………そう」
その答えを聞くと落とした目線を俺に向ける。
「あなたの考えは分かったわ………………ありがとう」
なんとか作った苦笑い。
「全然ありがたそうに見えない顔だな」
「いえ、協力してくれるのは感謝してるわ……………ただ……………………」
そう言って一拍貯めを作ると、
「私が欲しかった答えじゃなかった」
俺に囁くくらい、小さな声で呟いた。
「アベル、あなたが悪い訳じゃないわ。私の感情の問題なのよ」
「感情? 躊躇いがあるなら、なおさら君自身がパンドラと対面する必要はない。俺を使えばいいじゃないか」
「問題はそこじゃないの、少し一人にさせて欲しいわ…………………」
カレンは彼女らが使っていた寝所に入り、丁寧なことに入り口の布を下げてしまった。
俺は結局、彼女の2つあるうちの一つしか判別できず、途方に暮れる。
しばらくして、カエデさんが作ったスープを食べる為にお互い顔を見合わせる訳だが、
「そういう事だからこれからもよろしくね、アベル」
と、俺からすると随分とわざとらしい話し方で話しかけられた。
心に蓋をしたのだろうか。
もしくは逃避したのだろうか。
出会ったばかりの頃と比べると、今も含めて幾ばくか暗い瞳を宿すようになった彼女。
いや、カエデさん曰く俺と合う前はもっとひどかったらしいから、過去の彼女に近づいたのかもしれない。
きれいな心でいてほしいと思うが、それを許さない世界。
この少女一人の双肩にかかる重荷を考えると、不憫に思えてきてしまう。
「あぁ、よろしく」
「………………………………」
先程の会話の詳細を知らないカエデさんは、俺を観察しながら訝しんでいた。
その視線を無視しつつ、俺は重い雰囲気の中で紅茶を嗜んでいると、そよ風が頬を撫でた。
それと同時に傾けていたカップが紅茶ごと白く変化し、それを合図に俺を除く万物が彫刻作品の様に動かなくなった。
正確に言ってしまえばこれは現実とは別物らしいので、現実の物が動いてないとは言い難いが。
「はぁ……………………………俺はお前の顔はしばらく見たくない」
発動する間隔が短すぎる。
昨夜から半日すら経っていないのにまた彼女側から発動するとはな。
「フフフ………………………」
白く変化したカレンの首周りに腕を絡めながら、自称管理人は微笑んでいた。
🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕
※結局アベルにとってカレンから読み取れた情報は憎悪しかなく、報復しか解決策を浮かべられなかった→カレンの抑止と言う考えが思い至らなかったので、自分勝手と分かっていながらも止めて欲しかったカレンに気落ちされてしまいます。
騎士とは主に従う者。
そんな俺が下す答えは決められていた。
「見習い騎士の俺にそんなこと言うまでもないだろう。頼りないかもしれないが、契約に基づいて一時的とはいえ、俺はノスタルジア家の剣であり盾でもある。協力以前に主の命ならそう動くさ」
例えそれが、残酷な物だろうと。
「違うの………………違うのよ」
彼女は悲痛な面持ちで首を横に振る。
「あなたは契約に忠実だし信用もできる。でも、私が求めているのはそこじゃないの………」
違う?
遠回しに言っているが、パンドラに対して憎しみを抱いているのは言葉にせずとも彼女の表情からある程度予測できる。
なら、そこで否定する理由は?
「カレン、俺は君の真意を憶測でしか言えないが、パンドラに対する隠しようが無いほどの殺意を抱いている。違うか?」
「っ…………………………」
何かを言いたそうだったが、喉から出かかる所で彼女は止める。
そして、一回だけ深呼吸をすると、
「でも、本人は違うと言っていたわ」
震えた口調で話す。
「確かに違うかもしれない。でも、君自体は父親の遺体を良いように弄ばれたパンドラを許せないんじゃないか?」
「………………………………」
彼女にとってパンドラとは、過去の事件の関連性から疑う対象であり、それとはなんの関係がなくとも身内の遺体を掘り起こした恨みの的だ。
「俺は今日話し始める段階で、既にその憶測を前提に君と会話を進めてきた。間違ってたら謝るよ」
「………………………………」
俺の問いにバツが悪そうにしたカレンは、俺の足元に目線を落としてしまう。
「仮にもし、君がノスタルジア家の墓を暴き、亡骸を冒涜したパンドラを許せないなら、次に会ったとき、俺がもう一回彼女と対峙しよう」
カレンの為に剣を振るうと言っておきながら、俺は卑怯にもパンドラに対して自己の私情を踏まえて約束しようとしている。
パンドラは俺にとって、現状最も危険な存在だ。
カレンの件が無くとも、また出逢えば戦うことになるのは分かりきっている。
「…………………………あなたは、私が妹さんの面影と重なったから、また助けようとするの?」
少々トゲのある喋り方だな。
「……………いや、今回は違う」
むしろパンドラが妹とほぼ同じ見た目とは口が裂けても言えない。
「…………………………そう」
その答えを聞くと落とした目線を俺に向ける。
「あなたの考えは分かったわ………………ありがとう」
なんとか作った苦笑い。
「全然ありがたそうに見えない顔だな」
「いえ、協力してくれるのは感謝してるわ……………ただ……………………」
そう言って一拍貯めを作ると、
「私が欲しかった答えじゃなかった」
俺に囁くくらい、小さな声で呟いた。
「アベル、あなたが悪い訳じゃないわ。私の感情の問題なのよ」
「感情? 躊躇いがあるなら、なおさら君自身がパンドラと対面する必要はない。俺を使えばいいじゃないか」
「問題はそこじゃないの、少し一人にさせて欲しいわ…………………」
カレンは彼女らが使っていた寝所に入り、丁寧なことに入り口の布を下げてしまった。
俺は結局、彼女の2つあるうちの一つしか判別できず、途方に暮れる。
しばらくして、カエデさんが作ったスープを食べる為にお互い顔を見合わせる訳だが、
「そういう事だからこれからもよろしくね、アベル」
と、俺からすると随分とわざとらしい話し方で話しかけられた。
心に蓋をしたのだろうか。
もしくは逃避したのだろうか。
出会ったばかりの頃と比べると、今も含めて幾ばくか暗い瞳を宿すようになった彼女。
いや、カエデさん曰く俺と合う前はもっとひどかったらしいから、過去の彼女に近づいたのかもしれない。
きれいな心でいてほしいと思うが、それを許さない世界。
この少女一人の双肩にかかる重荷を考えると、不憫に思えてきてしまう。
「あぁ、よろしく」
「………………………………」
先程の会話の詳細を知らないカエデさんは、俺を観察しながら訝しんでいた。
その視線を無視しつつ、俺は重い雰囲気の中で紅茶を嗜んでいると、そよ風が頬を撫でた。
それと同時に傾けていたカップが紅茶ごと白く変化し、それを合図に俺を除く万物が彫刻作品の様に動かなくなった。
正確に言ってしまえばこれは現実とは別物らしいので、現実の物が動いてないとは言い難いが。
「はぁ……………………………俺はお前の顔はしばらく見たくない」
発動する間隔が短すぎる。
昨夜から半日すら経っていないのにまた彼女側から発動するとはな。
「フフフ………………………」
白く変化したカレンの首周りに腕を絡めながら、自称管理人は微笑んでいた。
🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕🌕
※結局アベルにとってカレンから読み取れた情報は憎悪しかなく、報復しか解決策を浮かべられなかった→カレンの抑止と言う考えが思い至らなかったので、自分勝手と分かっていながらも止めて欲しかったカレンに気落ちされてしまいます。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】
うすい
恋愛
【ストーリー】
幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。
そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。
3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。
さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。
【登場人物】
・ななか
広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。
・かつや
不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。
・よしひこ
飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。
・しんじ
工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。
【注意】
※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。
そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。
フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。
※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。
※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる