断罪のアベル

都沢むくどり

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上弦の章 帝国内乱

遺骸ヲ冒涜セシ大罪ノ棺 6

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「『散った者の血を代償に発動せよ…………! 霧血ノ暴蛇ネスティオン!!』」

 霧が全てを覆い尽くし、カレン達の視界を遮る。

「パンドラァァァッッ!」

「! アベル!?」

 カレンが反応したが、視界が阻害されている為、俺の姿は見えていなかったようだ。

「♪ 待ちくたびれたよ♪ アベル君♪」

 反応したパンドラが俺に向かって走ってきた。

 俺は一度後退し、振り向きざまに短剣をヴィルヘルムに投げる。

「ァァ……………………」

 先程とは違い、彼の左膝裏に命中した。

 こちらに意識を向けようと放ったものだが、効果が無かった。

 どうやら、操られた死体は棺の発動者の命令に忠実らしい。

 途中で妨害しても動けなくなるまで行動するのか。

「親子の感動の再会を邪魔するなんて、清々しいくらい下衆だね♪」

「ッ!」

 俺の鎌による薙ぎ払いは、先程まで彼女が背負っていた棺によって防がれる。

 彼女はその巨大な棺を片手で簡単に持ち上げ、盾代わりにしていた。

 死体の手が蠢いていた冥界への扉は手で持ったことに起因するせいか、閉じられている。

「なんでアタシがそこのお嬢ちゃんに勧誘している時に攻めて来なかったのかな♪ あの状況なら、ヴィルヘルムを倒してでも来れたはずだよ♪」

「お前に殺意が無かったからだ」

「あるわけ無いじゃん♪ 純真な迷える乙女を手にかける帝国と違って、アタシは手を差し伸べる人間なんだから♪」

 俺は鎌を棺の死角、パンドラの足と足の間に潜り込ませてそのまま上に斬り上げるが、彼女の股を裂く前に、驚異的な跳躍で回避された。

「女の子にこんなことするなんて最っ♪低♪ もし裂けたらどうしてくれるの♪」

 最低だろうがなんだろうが、気を抜いたら俺が殺される。

 死角からの攻撃すら簡単に避けられるんだからな。

 能力を小手先で拮抗させなければ。

 少し遠ざかったが落下している彼女に対して、ここなら距離的に届く。

「『血を代償に赤き悲壮の雨を発動する! 涙血ノ矢雫ディアドロク・ブラド!』」

 目から血の涙が流れ、鎌から血が噴き出す。

 それらは素早く蒸発し、空高くに舞い上がると細長い針状となり、落下中のパンドラ目掛けて降り注いだ。

 時として、自然がもたらす雨のように。

 はたまた、戦場で目にする矢の雨のように。

 地に足が付いておらず、踏ん張ることができないパンドラにとっては避けることの出来ない攻撃。

「♪ 懐かしいなぁ♪ 憑血ノ魔犬ゼルべロスもそうだったけど、カインが昔よく使ってた技法だね♪ その死の雨で何千人の俗物をしたか♪」

 パンドラは巨大な棺で自分を守った。

 だが、無闇やたらに技法を使ったわけではない。

 俺は着地しようとする瞬間を狙って鎌を投げる。

「えっ?」

 回転しながら迫り来る鎌に驚きつつも、対処しようとするパンドラ。

「馬鹿なの♪ それがなければ技法が使えないのに♪」

 鎌を失った俺を笑いながら、その鎌を跳ね飛ばす。

「チェックメイト♪」

 そして武器を無くした愚か者は真上から振り下ろされた棺に潰された。

「!」

 何かを疑問に思ったパンドラ。

 手応えの無いその感触に気づいた時には一手遅かった。

「お前がな」

 俺はパンドラの横腹に鎌をつけて勢いよく引く。

「なん!? グッ………………!」

 横腹を切り裂かれた痛みに声を出しながら後退したパンドラ。

 胴ごと切断するつもりだったが一瞬で身をよじったことで、肉を少し傷つけた程度だった。

「いつの間に分身を生み出したのかな……………」

 抑えた脇腹から赤い液体が流れていく。

「お前が熱心に布教してる時だよ」

霧血ノ暴蛇ネスティオンはそのために………………」

「そうだ。でもそれが本来の機能を果たせなかったのが想定外だった。あの蛇は普通の大人で屈強な男すら拘束できるのにお前の場合、それらを腕力や脚力で引きちぎるんだからな」

 そう。パンドラは霧で生み出した蛇を、物理的に破壊するという離れ技を持っていた。

 だから、せいぜい目くらましとして使っただけだ。


🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓🌓

※パンドラとアベル、カレンとヴィルヘルムは分けて書きます。
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