罰を与える

谷川ベルノー

文字の大きさ
上 下
1 / 1

罰を与える

しおりを挟む

その男は、盗みを生業としていた。

 ある日、街の目立たない場所に建っていた店になんとなくフラリと立ち寄った。

 一見価値のないガラクタにしか見えない物だらけが並ぶ、変な店。

 男は、そこでとんでもないお宝を見つける。

「……………………っ!?」

【吠え猛る憤怒の竜】


 その絵画のタイトル通り、荒々しく吠え猛る憤怒の竜が描かれている芸術品。


 盗っ人の男には、これが莫大な量の金貨になる程の代物であると、一目見ただけで気付いた。


(────────こっ! これほどの代物が、なんでこんなみすぼらしくてショボイ店にあるんだよ! ?こりゃ絶対に莫大な富になるぜ!!)


 そして男は、盗みのために準備をすることにした。



 男は店長である女性と時間を掛けて仲良くなった。
 情報収集も兼ねた信頼作り。


 じっくり、ゆっくり。
 焦らず、落ち着いて。


 そうしてから、ある日婚約を申し入れた。


 「…………いつか、この興味深い物だらけの店で君と共に働きたい。
 だから、色々知らないことを教えてもらえると助かる」


そう言い包めて店の情報を残すことなく全て収集し終えると、盗みを決行。


 店に掛けられていた罠魔法を汗一つかくことなく楽々と無力化。

 目的の物を難なく手に入れたのだった。



 暗い暗い秘密の隠れ家。

 盗みが大成功した男は、鼻歌交じりに自分の成果に満足しきっていた。


「あのド間抜け女、かなりちょろかったな────────!! 俺の演技にまんまと騙されてくれたぜ────────!!」

 こちらの思惑に全くもって気付かず、沢山の情報をお喋りなハーピィのように喋りに喋りまくってくれた。


 男は女性をただの間抜けだと称した。

 実際は、死んだ祖父から受け継いだもののあまり人の来ない店にいるのが寂しかったのが理由であるが、男は知るよしもない。




「いや~! お人好しって奴等は、馬鹿ばっかりで本当に便利だな~! 扱いやすくて助かるぜ! あぁっはっはっはっ────────!!」
 ニタニタと嫌らしい笑みを口の端に浮かべたかと思えば、男はさも面白いことを言ったとばかりに爆笑し始める。


「…………まっ、それはそれとして。この絵は本当によく出来ているな。まるで、今にも飛び出してきそうだ」



 そう言い終えたとき、異変が起こった。


 絵が、動いた。


「────────んん?」


 瞬きを数回してから目を擦り、もう一度確認。


 絵には、何の変化もない。



「…………………………なんだよ! 脅かすんじゃねーよ!?」


 八つ当たりに怒鳴り散らせば、軽い目眩で一瞬クラッとした。

 気付けば、いきなり岩肌が剥き出しの場所に立っている。


「…………はっ? …………えっ!? …………」

 キョロキョロ辺りを見渡せば、何処かの見知らぬ山の中であるらしい。

「────────なっ!? こっ、ここは何処だ!? まさか、泥棒用の罠魔法がまだ絵画に掛けてあったのかよ!?」

 全てを無効化した筈だったが、まだ見過ごしたものが存在していたのか。
 
 幻覚か転移の類い。

 だが、こんなものは聞いていないというのに何故?



「………………グルルルウウウゥゥ………………」
「────────は?」


 無視することの出来ない、謎の鳴き声に思わず男が振り向いた。


 目の前には、機嫌が心底悪そうなドラゴン。
 それは、絵画に描かれていたものと瓜二つの見た目。


 男は、不可解な現状についての考えを超速で思考から投げ捨てると、一目散に逃げ出した。

 脇目も振らずに全速力で。



「だっ誰か! 魔法警察でも誰でもいい! 俺を助けてくれええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ──────────!?」
「グギャオオオオオオォォォォォ──────────!!」



「………………なんて、ことなの………………」


 翌朝。
 恐怖と脅威に怯えた男に襲い掛かる竜の絵に変わっている絵画を見て、女性はしょんぼりと言葉を呟いた。


【吠え猛る憤怒の竜】


 この絵画は、正真正銘。
 本当に呪われている。


持ち主の元から盗まれると、 盗んだ相手を絵の中に閉じ込めて元の場所に戻ってくるのだ。



「………………真面目な良い人なんだって………………信じてたのに………………」


 心を傷つけられた悲しそうな表情で言うと、彼女は絵から絵画のタイトルへと目を向ける。



『悪しき者には、罰が与えられん』

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

性悪な友人に嘘を吹き込まれ、イケメン婚約者と婚約破棄することになりました。

ほったげな
恋愛
私は伯爵令息のマクシムと婚約した。しかし、性悪な友人のユリアが婚約者に私にいじめられたという嘘を言い、婚約破棄に……。

【完結】婚約破棄からの絆

岡崎 剛柔
恋愛
 アデリーナ=ヴァレンティーナ公爵令嬢は、王太子アルベールとの婚約者だった。  しかし、彼女には王太子の傍にはいつも可愛がる従妹のリリアがいた。  アデリーナは王太子との絆を深める一方で、従妹リリアとも強い絆を築いていた。  ある日、アデリーナは王太子から呼び出され、彼から婚約破棄を告げられる。  彼の隣にはリリアがおり、次の婚約者はリリアになると言われる。  驚きと絶望に包まれながらも、アデリーナは微笑みを絶やさずに二人の幸せを願い、従者とともに部屋を後にする。  しかし、アデリーナは勘当されるのではないか、他の貴族の後妻にされるのではないかと不安に駆られる。  婚約破棄の話は進まず、代わりに王太子から再び呼び出される。  彼との再会で、アデリーナは彼の真意を知る。  アデリーナの心は揺れ動く中、リリアが彼女を支える存在として姿を現す。  彼女の勇気と言葉に励まされ、アデリーナは再び自らの意志を取り戻し、立ち上がる覚悟を固める。  そして――。

【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!

貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。

婚約破棄された私は、年上のイケメンに溺愛されて幸せに暮らしています。

ほったげな
恋愛
友人に婚約者を奪われた私。その後、イケメンで、年上の侯爵令息に出会った。そして、彼に溺愛され求婚されて…。

失礼な人のことはさすがに許せません

四季
恋愛
「パッとしないなぁ、ははは」 それが、初めて会った時に婚約者が発した言葉。 ただ、婚約者アルタイルの失礼な発言はそれだけでは終わらず、まだまだ続いていって……。

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

処理中です...