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罰を与える
しおりを挟むその男は、盗みを生業としていた。
ある日、街の目立たない場所に建っていた店になんとなくフラリと立ち寄った。
一見価値のないガラクタにしか見えない物だらけが並ぶ、変な店。
男は、そこでとんでもないお宝を見つける。
「……………………っ!?」
【吠え猛る憤怒の竜】
その絵画のタイトル通り、荒々しく吠え猛る憤怒の竜が描かれている芸術品。
盗っ人の男には、これが莫大な量の金貨になる程の代物であると、一目見ただけで気付いた。
(────────こっ! これほどの代物が、なんでこんなみすぼらしくてショボイ店にあるんだよ! ?こりゃ絶対に莫大な富になるぜ!!)
そして男は、盗みのために準備をすることにした。
男は店長である女性と時間を掛けて仲良くなった。
情報収集も兼ねた信頼作り。
じっくり、ゆっくり。
焦らず、落ち着いて。
そうしてから、ある日婚約を申し入れた。
「…………いつか、この興味深い物だらけの店で君と共に働きたい。
だから、色々知らないことを教えてもらえると助かる」
そう言い包めて店の情報を残すことなく全て収集し終えると、盗みを決行。
店に掛けられていた罠魔法を汗一つかくことなく楽々と無力化。
目的の物を難なく手に入れたのだった。
暗い暗い秘密の隠れ家。
盗みが大成功した男は、鼻歌交じりに自分の成果に満足しきっていた。
「あのド間抜け女、かなりちょろかったな────────!! 俺の演技にまんまと騙されてくれたぜ────────!!」
こちらの思惑に全くもって気付かず、沢山の情報をお喋りなハーピィのように喋りに喋りまくってくれた。
男は女性をただの間抜けだと称した。
実際は、死んだ祖父から受け継いだもののあまり人の来ない店にいるのが寂しかったのが理由であるが、男は知るよしもない。
「いや~! お人好しって奴等は、馬鹿ばっかりで本当に便利だな~! 扱いやすくて助かるぜ! あぁっはっはっはっ────────!!」
ニタニタと嫌らしい笑みを口の端に浮かべたかと思えば、男はさも面白いことを言ったとばかりに爆笑し始める。
「…………まっ、それはそれとして。この絵は本当によく出来ているな。まるで、今にも飛び出してきそうだ」
そう言い終えたとき、異変が起こった。
絵が、動いた。
「────────んん?」
瞬きを数回してから目を擦り、もう一度確認。
絵には、何の変化もない。
「…………………………なんだよ! 脅かすんじゃねーよ!?」
八つ当たりに怒鳴り散らせば、軽い目眩で一瞬クラッとした。
気付けば、いきなり岩肌が剥き出しの場所に立っている。
「…………はっ? …………えっ!? …………」
キョロキョロ辺りを見渡せば、何処かの見知らぬ山の中であるらしい。
「────────なっ!? こっ、ここは何処だ!? まさか、泥棒用の罠魔法がまだ絵画に掛けてあったのかよ!?」
全てを無効化した筈だったが、まだ見過ごしたものが存在していたのか。
幻覚か転移の類い。
だが、こんなものは聞いていないというのに何故?
「………………グルルルウウウゥゥ………………」
「────────は?」
無視することの出来ない、謎の鳴き声に思わず男が振り向いた。
目の前には、機嫌が心底悪そうなドラゴン。
それは、絵画に描かれていたものと瓜二つの見た目。
男は、不可解な現状についての考えを超速で思考から投げ捨てると、一目散に逃げ出した。
脇目も振らずに全速力で。
「だっ誰か! 魔法警察でも誰でもいい! 俺を助けてくれええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ──────────!?」
「グギャオオオオオオォォォォォ──────────!!」
「………………なんて、ことなの………………」
翌朝。
恐怖と脅威に怯えた男に襲い掛かる竜の絵に変わっている絵画を見て、女性はしょんぼりと言葉を呟いた。
【吠え猛る憤怒の竜】
この絵画は、正真正銘。
本当に呪われている。
持ち主の元から盗まれると、 盗んだ相手を絵の中に閉じ込めて元の場所に戻ってくるのだ。
「………………真面目な良い人なんだって………………信じてたのに………………」
心を傷つけられた悲しそうな表情で言うと、彼女は絵から絵画のタイトルへと目を向ける。
『悪しき者には、罰が与えられん』
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