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第三章 魔女だなんて、とんでもない! わたしは聖女です!!
2 君は誰?
しおりを挟む遡るは、数日前のこと。
「おい、しっかりしろ!」
「……う、ううぅ……」
男二人の片方が、森の中でピンチに陥っていた。一人は、苦しげに呻き仰向けに倒れている。
毒に侵された部位は黒ずみ、獣の爪でザックリやられた傷口からは、肉だけでなく骨も見えている。
「……い、痛ぇ……死にたく……ねぇよぉ……」
か細く弱々しい悲鳴。流す涙は苦痛か。それとも刻一刻と迫る死への恐怖からか。見るからに、死に瀕している。
「しっかりしろ、バキツ!俺達、一緒に凄い冒険者になるって誓い合ったじゃねえか!!」
もう一人は、泣きながら励まし、必死に止血をしていた。
手持ちの道具を全て使ったが、傷が治りきっていない。包帯をきつく巻いても、溢れる血で赤く染まっていく。毒は強過ぎて、解毒しきれていない。
新米というには、日数がそれなりに経っている。けれど、まだまだ駆け出しの域を出ない冒険者のバキツとトギリは、世界一の冒険者を目指して旅する風来坊。
彼等は、冒険に必要な物を補給しようと街へ向かってる途中だった。だが、運の悪いことに魔物の群れに遭遇。
二人は戦い、そして勝った。けれど、その勝利には代償があった。
バキツがトギリを庇って酷い怪我を負ってしまったこと。悪いことは、それで終わりではなかった。なんと、毒も喰らってしまっていたのだ。
(──なぁ、だれか頼むよ。悪魔だろうが邪神だろうが、何だって構わねぇ。誰か、コイツを助けてくれ!)
トギリは、助けて欲しいと心の底から願った。どうすることも出来ない己の無力さに、慟哭しながら。
「あの、どうされたのですか?」
耳に届いた、凛とした声。思わず、振り向く。そこには、長い黒髪の少女が立っていた。
「あ、あんた! 回復が出来る魔法使いか!? そうでなかったら、解毒と回復出来る物を持ってねえか!?
頼む、友人が死にそうなんだ!
なのに、俺には何にも出来ねぇんだよっ!!」
「落ち着いて下さい。彼でしたら、私が今から助けます」
トギリを安心させるように、ニコリと微笑むと、バキツへ静かに近付いた。
「光よ、この者を救い給え」
小さく、けれど確かに響く力ある言葉。声に導かれた魔力を紡いで、少女は手の平から光を溢れさせる。
穏やかな輝きは、傷口を優しく包み込んで男を癒やしていく。
「これで、もう心配はありません」
「うぅっ……?」
青白い顔には赤みがさし、傷口は綺麗に塞がっている。ドス黒く変色していた部分は、今は何とも無くなっていた。
ほんの数分と掛からず、傷も毒も完全に治りきってしまっっている。
「────あ、あれっ?」
「な、治った!?」
夢じゃない、現実だ。それでも、起きた驚愕の出来事には目を疑ってしまう。
世の中に、こんな見たことのない、凄い魔法があるなんて。そして、その魔法を使える少女のお陰で、親友が死なずに助かったなんて。
「────トギリ。俺、生きてるんだよな?」
「当たり前だ!この人……いや、このお方がお前を助けてくれたんだからよぉっ!!」
「他にお身体に悪い所は、ありませんか?」
「い、いえ! もう大丈夫です。助けて下さって、本当に有難うございます!!」
何という幸運。二人は、天からの救いだと思った。
「本当に、何とお礼を言っていいか」
「これは、俺達からの感謝の気持ちです」
トギリは、恩人のお陰で親友が助かったという事実に感涙。貨幣の詰まった布袋を差し出した。
「私はただ、救いたいと行動しただけです。
ですが、だからと礼を受け取らないのは無礼。
有り難く、頂きましょう。」
恭しく言って、軽く一礼。壊れ物のように、大事に受け取る。
「──それでは、私はこれで」
「待って下さい!あなた様のお名前はっ!?」
「私は【リリア・イヴス】偶然、通りすがっただけの旅人です」
振り返って告げた少女は、微笑を浮かべて去って行った。
「彼女は、一体……?」
「……随分と、綺麗な人だったなぁ……」
助けられた彼等にとっては、救いの女神様が人の姿となって助けてくれたようにしか思えなかった。
運命の出合いとは、こういうことなのだろうと。
「──ふっふっふっ。さっきのあたしってば、すっごく聖女っぽかったんじゃない?」
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