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第二章 あの悪魔を退治しよう

12 探究の悪魔の最後と……

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 薬の効果は劇的だった。左右対称を探すのが難しい巨大なブヨブヨは、今や腐肉じみた身体へとなってしまっている。
 無数の首はダラリと垂れ下がり、手足は力無く動いている。倒すまであと少し。だからといって手を抜くことはしない。

「……油断はしない……」

 今こそ好機とオイラーで射撃。今度は傷が回復しない。だが、飛び散った腐肉の塊のようなものが蠢き、形を変えだした。

「まだ何かあるでござるのか!?」
『ゲームでは、もうこれ以上は無かった筈だが……チッ』

 厄介だと舌打ち。アプドルクの知らないNight:Mare以外のことが、また起き始めるようだ。

「ギャアァ──ス!」
「ギヒヒヒイィ──!!」

 変化し終えたそれは、鳥と蝙蝠と昆虫が不快な造形となったもの。知性が欠片も無い怪物と化して襲いかかってくる。

『首が増えて攻撃パターンが増えていたが、他にもあったのか』

 一番近いものを狙うようだ。一斉に襲いかかってきた肉片の群れは、アプドルクの目が輝いた途端、一気に破裂。地面へ落下した死骸は、グジュグジュに溶けて吐瀉物のような有様へとなった。

 これは悪魔の力とは違う、アプドルクが人間だった頃の超能力による攻撃。悪魔にされて強力になったもの。
 巨体のキメラギオンにはあまり効果はないが、小さくて数が多すぎなければ一掃ぐらいは出来る。

 敵はゲームよりも強くなっている。今にも死にそうな有様だというのに、まだ大丈夫だというのか。

「「「「「素晴らじいぃーーー! 実に君達は素晴らじいぃーーーいぃいぞおぉーーー!! 研究じがいがあるうぅーーー!」」」」」

 ゲコゲコ鳴く蛙のように身体中の口が濁った声で喋る。弱っているというのにまだ叫べるしぶとさ。
 溶けた皮膚が粘液となって床を汚しながら這いずる姿は、溶けた姿も相まって蛞蝓のようだ。

「まったく、煩くてしつこい男は、おなごに嫌われるでござるよ」

 攻撃すれば、肉片の数が増える。一匹一匹は大した強さを持たないが、攻撃すれば攻撃するだけ増えていく。

「……さっきの影縫いは、また使える……?」
「出来るでござるが、何か案が?」
「……あれだけ弱れば、倒せる……」
『なんだ、とっておきがあるのか?』

 厄介な相手をどうするか。対処を考えていた時に朗報。すぐさま二人は飛びついた。

「……三分だけ、それ以上は保たないと思う……」


 実はクリスには、スフィア最終話で覚醒したクリスとティーとダロスによる三位一体【ケルベロスモード】という非常に強力な一撃必殺の魔法を扱える姿があるのだ。


「ならば、拙者は取っておきを披露してしんぜよう! 奥義を放てば、影縫い以上に彼奴の行動を制限出来るでござる!!」
「……じゃあ、お任せ……」

相手の返答を聞くなり、朧月は素早く印を結んだ。

「サイバネ忍法奥義! 【 影喰】」

 エリクサーによって作られたのは、今度は手裏剣ではなく呪文らしきものが書き込まれた札。それをキメラギオンの影へと投擲すると、水へ沈むかのようにズブズブと影に呑み込まれていく。

 そして、キメラギオンの影がキメラギオン自身を影の中に引き摺り込もうと動き始めだした。

「……ぐっ!? 流石に……これだけの重量のものは……いささか大変でござるな……」

 闇色のオーラを纏い、印を結んだポーズのままの朧月が、苦しげな声を出す。


 影を操り拘束してダメージを与える影喰。
デドアラでの朧月は、必殺ゲージを溜めることで使うことが出来る。

 異世界の朧月に必殺ゲージは無いので体力か魔力か、それとも両方かは分からないがかなり消耗されている。
 それは、本来のこの技が発動中は必殺ゲージの減りが速いのが影響しているのかもしれない。

 敵が逃れようと暴れて藻掻くのが更に負担となり、苦しそうに呻いている。

『おい、大丈夫なのか』
「……いけるでござるが……ふ、負担が……少々……」

 無機物のような見た目からは分からないが、これが普通の人間であれば、汗を滝のように流していることだろう。

『……念の為に、駄目押しするか』

 心配になったのか、手助けをすることにしたらしい。
キメラギオンの近くに多めの刻印が現れ、当たる度に敵の動きが掻き乱されていく。


「……チャージ完了……」

 ティーとダロスが合体したスーツを纏ったクリスは、手を三角形の形にして力を込め、キメラギオンへと向けた。

「……アキュートインパクト……!!」

 放たれた光は三角形状の結界となって、相手を閉じ込めた。

『この技は一体何だ?』
「……相手を結界に閉じ込めて、時間を操って消滅させる必殺魔法……」

 不老不死であろうと不死身であろうと倒すことができる。文字通りの必殺。


 強力な魔法であるが、問題がある。それは、魔力消費による身体への負担の激しさ。その時のクリスの状態にもよるが、概ね三分間ぐらいしかケルベロスモードは保てない。

「クリス殿の好きな作品の魔法少女。物騒過ぎでござるよ!?」


 キメラギオンは結界の中で張り付き、ズルズルと滑り落ちていく。

「……ず素晴らら……じいい……ずずず……ざ最高ごう……ざ……ず……」

 アイスが溶けるように、ドロドロと肉も骨も内臓も溶けていく。やがて息絶えて動かなくなり──────遂には、消滅した。


「……疲れた……」
「漸く、この建物から出れるでござるなぁ。しかし、館はどう処理すべきか……」
『一息つくのはまだだ、今から崩壊が始まるぞ』


 ティーとダロスを空間に格納して変身を解除したクリス。館をどうするか思案する朧月。

 一息ついた二人に、アプドルクはサラッと重要なことを言い放った。

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