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第二章 あの悪魔を退治しよう
7 望まぬ出合い
しおりを挟む闘技場と見間違う程に広い場所。そこに突然現れた男は、館の主がよく知る失敗作だった。失敗作と言っても、ただの廃棄品達と違い100%の内99%は成功しているほぼ完成品の悪魔。
前の世界の産物。この場には、絶対にいる筈がないもの。
「んん? 何故、君がここにいるんだ?」
「オレはお前の知ってる奴じゃない。似ているだけだ」
命を玩具にして消費する、お前の一言一句が不快極まりないと言わんばかりの怒気を放ち発言者を睨めつける。
「オレが、ここに居る意味は分かるな?」
【刻印の悪魔:アプドルク】とは【Night:Mare】というホラーゲームで主人公を導くお助けキャラ。
容姿端麗で善人、人の心が残ったことで失敗作となった悪魔。
転移者としてアプドルクへ変わっていたことに気付いた彼が、最初に思ったことは自身の肉体への強い嫌悪感であった。
それはべつに、アプドルクが大嫌いだからではない。
寧ろ一番気に入っている。
嫌悪の理由は、化け物へと無理矢理作り変えられてしまった肉体の方。正直、現実で悪魔なんて存在になりたくなかった。
そう思って落胆していたが、暫くして彼は落ち着いて考える。感情だけではどうにもならない現状。
元いた世界と異なる世界で記憶が不確かな状況。冷静になった時、使えるものは何でも利用してしまえばいいと結論を出すと、若干諦め混じりの達観で仕方ないと無理矢理感情を割り切った。
「どうすることも出来ないなら仕方がない……か」
それにNight:Mareの悪魔が人間しか捕食出来ない存在で無くて良かったのは幸いだと、彼は前向きに考えることにした。
嫌悪はあれど悪魔と人の姿を行き来する異形の己に慣れ、思考に余裕が出来た頃のこと。ふと、自分の様な別の存在になってしまった者が他にもいるのかと気になりだした。
広過ぎる世界は闇雲に探した所で相手が運良く見つからない限り時間がいくらあっても足りない。だったら効率よく行動する為にも、この世界のものを使うとしよう。
そう思いたったら、とりあえず知識を得ようと図書館へ足を運び、そしてそこである噂を耳にして朧月のように館へと向かうこととなった。
彼は噂の建物を一目見て気付き、目を疑った。どうして、この建物がこの世界にあるのかと。Night:Mareの館が当たり前の様に現実に存在していた。
夢でも幻でもないと分かった途端、他者を遊びで犠牲にすることを何とも思わない下劣な精神の持ち主への怒りが沸き立ち、即座に行動を開始した。
それを本人は正義感なんて御大層なものではなく、醜く太った豚が今もおぞましい欲望で肥え続けていると思うと耐えきれない不快感であると意識している。
だが、それは他の者から見れば、腐りきった悪を見逃せない正義の心であった。
「これ以上イラつかせるな。下らない遊びをとっとと始めろ」
「……ははっ! 予定とは違うが、いいだろう。せっかくここに来たんだ。じゃあ、始めるとしよう」
そう言うなり、剥げた頭は醜く歪曲を始め、人ではない首が此の世のものとは思えない、おぞましい音を鳴らしながら次々と生えてくる。
でっぷり太った腹が、ボコボコと泡立ち体積が目に見えて増えていけば、腕も足も種族も見境なく次々とデタラメで不均等な有様へと変貌していく。常人の精神では耐えきれそうもない変化。
それは、仮初めの人の状態から真の姿である悪魔態へと戻っているのだ。
生物を見境なく貪欲に取り込み過ぎた、生命を冒涜する醜悪の体現。
【探究の悪魔:キメラギオン】
「「「「さぁ、全力でかかっててきたまえ!!」」」」
複数の口からは、人の言葉と何者でもない何重もの不協和音を一斉に喚き散らした。
ソレは、青年が知っているよりも大きく醜くなっている。明らかに、この世界の生物や魔物を無造作に取り込んでいた。
気色悪いアンバランスな芋虫は、この世界で更に吐き気を催す存在へと成り果てている。
館で手に入れた、【ある物】を使っても勝てないかもしれない。
だが、この戦いは勝てる勝てないの問題じゃあない。
許せないから戦うのだ。
「…………研究狂いの下衆め。研究したければ地獄で好きなだけしていろっ!!」
舌打ちをして忌々しく言葉を吐き捨てた青年の身体は闇のように黒く染まり崩れ、歪んでいく。
そうして、変化が終わった頃には全く違う形になっていた。
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