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第二章 あの悪魔を退治しよう

★2 奇怪な獣

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 一人の魔法少女とお供のメカなハウンドは、迷うことなく一緒に歩んでいく。

 館の魔法のせいで壁や床を壊してショートカットが出来ないうえに魔法による探知も妨害されているので行き先は完全に勘である。
 魔法装甲のオートマッピング機能で歩いた分だけ地図が出来上がるので同じ所をぐるぐる回っていた、なんてことにはならない。

「……ここもハズレ……」

 扉は幾つもあったが、どれも鍵が掛かっていなかった。片っ端から開けてみるが、図書館、食堂、浴室などなど。特に重要そうな所はない。
 強いて言うなら室内の広さがおかしいが、空間が歪んでいるのだろう。
 実際の大きさより中はかなり広々としていた。どれも調べる必要性なしと判断して去って行った。

 部屋の中を調べれば、ナイフや銃器、魔法道具があったのだがクリスが見つけたところで持て余すだけだったりする。


 ペタリッ、ペタリッ。ズルッ、ズルッ。濡れたままで重い物を引き摺り歩くような足音。

 頭部を覆うティーのレーダーが異音と生命反応を感知して警告する。
 音から分かる歩幅の歩みから、こちらにゆっくりと二足歩行で向かってくる。

「……ア……アァ……」
「……ウォ……ォ……」

 呻き声を上げながらのそりのそりと近付いてくるものは人と獣と虫、人と魚と植物を適当に混ぜ合わせたような気味の悪い生物。
 衣類は一切身に着けておらず、虚ろな目は何処も見ていない。
 だらしない半開きの口からは呻き声と涎が延々と垂れ流されている。

 亀の歩みのようにのろいのは不均等な身体を引き摺るように歩くせいか。歩く子供でももっと速い。

 クリスの感想はというと、スフィアにも似たようなモノが出ていたという落ち着いているのか、能天気なのか判別しにくいもの。
 普通だったら悲鳴の一つぐらい上げそうなものだが、誘拐されたと気付いた時といい、変に肝が座っていた。

 クリスは特に動かず、射出音が横から二つ。ダロスに備え着けられている銃口から弾丸状の光が放たれた。

 射出された小さな魔力の塊は、射手の判断でどの場所に命中させるかを決める。
 身体各部の何処を狙って獲物を仕留めるか、主人が命令しない場合、判断はダロスに委ねられる。

 それは眉間を撃たれた。シュウシュウという音と煙を額から出した二体の異様な怪物は、抵抗も悲鳴も無く、糸の切れた人形のように廊下へ倒れる。

 そのまま物言わぬ死体となったらしい。起き上がる気配はしない。床にはインクでもこぼしたような真っ黒い体液が広がっていく。

「……変……」

 自己判断もなくただひたすら彷徨きまわっているだけのようだった。番犬にしてはあまりに頼りなさすぎて、生物としては異常。

 何の意味でいるのかは、不明だ。どうして放たれているのか。
 疑問を抱えたまま立ち去ろうとして、異なる生物が混ぜられた外見というのが、妙に引っ掛かかり振り返る。
 スフィアに出ていたキメラという魔法生物は、作る材料や素材によって生まれる存在は様々。中には────。

「……ティー、調べて……」

 もう一度、近付いた。もしかして、この世界特有の生き物なのかもしれない。
 そう、思っていたかったがティーに備えられている機能の一つが無慈悲な真実を告げる。
 簡潔に述べると、コレは人間と別の生物を複数混ぜて出来た失敗作。

「…………」

 暫く無言で死体を見つめていたのは哀れみか、それとも祈りか。


 墓を作ってあげたり、花を添えてあげたい。けれど、今はそれが出来ない。
 進まなければいけない。


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