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第一章 ドラゴンを退治しようぜ!
5 襲来する影
しおりを挟む「異世界転移…………あぁ、異世界を題材にしたジャンルのこと? そういったものには生憎、詳しくないの。地球から知らない世界に来た人達が他にもいるなら総称が必要だと思って付けただけで、別に他意はないわ」
「そ、そうか……ええっと、それで、その……」
頭が混乱して言葉に詰まる。質問が上手く纏められない。
「聞きたいことがあるのは分かるわ。でも、一旦落ち着いて。……そうね、近くに街があるから、そこでちょっと休憩してからの方がいいかも」
俺の動揺っぷりに不安になったのだろう。心配そうに気遣われてしまった。
一緒に並んで目的地へと向かう。街は少し先にあるというので歩いて行くことにした。
「ふぅ……」
この身体で走れば、すぐの距離ではあるけれど、今はゆっくりと歩きたい気分なので風景を楽しむことにした。
「ちょっとは、落ち着いた?」
「……あぁ、まあ、なんとか。歩いている内にちょっとだけだけど」
「無理はしないでね。……わたしも、最初はそうだったから」
そう言って、何処か遠くを見つめた。過去を思い出しているのだろう。
どこか憂いを帯びている、その横顔に胸が少しドキっとした。
「心配してくれて、ありがとうな。……ええっと……」
そこでハッとした。そういえば名前を聞いていなかった。
まぁ、初めての出会いがアレだったし。その後の会話が衝撃的過ぎて意識の片隅に追いやられていたからなんだけど。
「エンでいいわ。どうせ自分のことなんて分からないんだから」
穴ボコだらけの記憶の俺と同様。自身の名前も分からないので好きな作品のキャラクターから名前をとって【エン】と名乗っているという。
エンとは、不老不死の呪いを受けた少女が呪いを解くために旅する物語【Wish?】の主人公と共に旅を続ける炎の魔女の名前。
そのキャラクターがお気に入りなのだと嬉しそうに教えてくれた。
転移者は必ずしも主人公の姿になるわけではなく、好きな作品の好きなキャラクターへなるのだろうか。
「それじゃあ、俺はカケルって呼んでくれ」
「分かった、貴方の名前はカケルね」
その流れで、俺もカケルと名乗った。
「……なんか、一番大好きなキャラクターの名前で呼ばれるって、こそばゆいというか恥ずかしいというか……」
勇者カケルは俺と違ってしっかりものの真面目で、自分が名乗るのはおこがましい気がする。だからといって、違う名前にしようとすると何だかしっくりとこない。
違う名前を考えてはみたが。合わないパズルを無理矢理はめ込んでいるような謎の違和感があって、どうにも嫌になる。
「……ふふっ。確かにそれは、なんとなく分かる気がするわ」
互いに少し恥ずかしくなりながら笑い合う。
────そんな穏やかな空気を台無しにしたのは、地に大きな影を落としている存在。それは頭上で悠々と羽ばたいていたが、やがて勢いよく着地。
突風と衝撃が俺達にぶつかってきた。
「きゃあぁっ!?」
「うわっ!?」
巻き上がった土埃や小石が身体に容赦なくぶつかってくる。
「大丈夫かっ!?」
「心配はいらないわ。でも、あれは一体……」
一瞬の暴風が晴れたそこには、我が物顔で鎮座する一匹のドラゴン。身体の位置をずらし、こちらを狙って臨戦態勢を取っている。
どう見ても明らかに襲いかかってくる気だ。
「……嘘だろ。何でアイツがここにいるんだよっ!?」
「あの魔物を知っているの!?」
全身が真っ黒な鱗で覆われた。王冠にマントと首飾りを着けている巨大なドラゴン。血走った眼は敵意に満ちている。
「チョウワル────イ!」
蝙蝠を思わせる大きな翼を広げ、殺気を孕んだ独特な咆哮を二人に向けて放った。
「イセテンのラスボス! 魔王チョウワルイだっ!!」
「……名前が鳴き声ってまんま過ぎでしょ……」
カケルは真剣な表情で剣を。エンはちょっと呆れながらも杖を身構えた。
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