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第一章 ドラゴンを退治しようぜ!
3 勇者と魔女
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精神が高揚し過ぎたあまり、注意力散漫になっていた俺に襲いかかってきた爆発。今まで喰らったことのない衝撃を受けた瞬間、勇者カケルになっているというのに俺は情けない悲鳴を上げてしまった。
「うわあああああぁぁぁぁ──────!?」
宙を舞ったと思えば、身体は地面に向かって落下。受け身は取れなかったが大した痛みは無い。爆発による火傷もない。結果、身体には傷が一つもない。
『流石はカケル! 頑丈だぜ!!』
ちょっと前の俺なら、そう言っていた。でも、今はただ呆然としている。
本物のファンタジーにワクワクした時とは別ベクトルのドキドキで驚愕していた。心臓の鼓動が激しく打っている。そのリズムが耳元で鳴っているみたいに凄く煩い。
「一応手加減はしたんだけど、大丈夫? 凄い悲鳴だったんだけど……」
そう声を掛けられて、ハッとする。俺に攻撃した黒いドレスの女の子が近くで立っていた。
年は俺と同じ位。長く伸ばして一つに纏めた赤髪は瞳と同じく燃えるような色合い。見た目と爆発からして炎の魔法でも使うのだろう。
「────可愛い」
今まで会ったことのない美少女に、ついつい心の内をこぼしてしまった。
「……ん?何か言った?」
「いっ、いやっ!? べっ、別に何でもないっ! 元気だって言ったんだ!!」
「そう? ならいいんだけど」
思わず出た言葉はどうやら聞こえなかったようでホッとした。ナンパと思われていたら恥ずかしい。
「そ、それよりも! さっきは何でいきなりあんなことをしたんだよっ!?」
羞恥心を追い出すように地面から勢いよく立ち上がり詰め寄る。
モンスター退治の邪魔に加えていきなり爆発を喰らわせられた怒りを少女に伝えるためだ。
そういえば、スライム達はどうなったかと思い確かめると一匹残らずいなくなっていた。どうやらさっきの爆発で逃げてしまったようだ。
「それは悪いと思ってるわ。咄嗟に魔物を追い払おうとしたとはいえ、貴方に当ててしまったんだもの。でもね、貴方にだって非はあるのよ」
「は? 俺の何がだよ」
「だって、貴方あの魔物の群れに襲いかかろうとしていたじゃない」
ますます理由が分からない。モンスターを倒すことの何がいけないというのか。
「それの何が悪いんだよ」
「複数の魔物を相手に、しかも刃物には凄く強い種類のスライムに大声でお喋りしてから突撃なんて、殺してくれって自分から宣言してるようなものじゃない。見た目弱そうだからって油断するなんて死ぬ気なの? 魔物退治は遊びじゃないんだから真面目にしなさい」
そんな注意を受けてしまった。あぁ、何だ。つまり戦闘ド素人の成りたて冒険者が雑魚敵を前に調子に乗っていると思ったのか?
「そんな心配しなくても大丈夫! だって俺は勇者なんだからな!! モンスター退治なんて、お手の物だぜ!」
「…………」
「あっ! 俺が勇者だって信じてないだろ。本当なんだからな」
「……魔物じゃなくてモンスター? さっきそう言った?」
「そうだけど、それが何だよ?」
「────貴方は、地球にいた頃の自分を覚えてる?」
唐突な質問。あまりにも急過ぎて意図がわからない。
「は? 何だよ、いきなり。────ん、あれ?というか地球って、何でそれを知って」
「いいから、答えて」
「はいはい、そんなの覚えてるに決まって────あれ?」
そう言われて、初めて気付いてしまった。
イセテンに関しては全部覚えている。そりゃあ、大好きなんだから忘れるなんて絶対に有り得ない。
内容は一字一句間違いなく言えて台詞も完璧。
主人公のカケルは勿論、仲間達やモンスターの名前だって忘れていない。
なのに、自分自身を思い出そうとすると途端に分からないことがある。俺の性別は男。好きな食べ物は母さんの作る美味しい唐揚げ
でも、地球にいた頃の自分の名前が思い出せない。
どんな顔でどんな体格だとかもサッパリ。プロフィールに大きな抜けがある。
友人や家族のことを思い出してみる。友達とは一緒に好きなものを熱く語った。悪戯をして先生と共に怒られた。仲が良かったみんなは、何て名前だ?
母さんの作る唐揚げは凄く美味しい。初めて食べた時にほっぺたが落ちると思ったと言ったら、凄く嬉しそうに笑ってくれた。
父さんは本嫌いだった俺に、これなら読みやすそうだし、どうだってイセテンを買ってきてくれた。
でも、母さんと父さんって誰?
綺麗サッパリ消えているというよりも、頭の中に深い霧がたちこめているような。
探しているものの輪郭だけは分かっているのに肝心の名前や姿が上手く分からないような。
酷くモヤモヤとしたおかしな記憶の異常が俺の脳内に起こっている。
…………何だよ、コレ。
「あぁ、やっぱり。この世界の住人は魔物としか呼ばないのにモンスターって呼んで、おかしいと思ったんだけど、やっぱり転移者だったの」
俯いていた冷や汗だらけの顔を上げる。
「…………転移者って、異世界転移した奴をそう呼ぶのか?」
聞きたいことは沢山あった。でも、今はそれだけを聞いた。
「うわあああああぁぁぁぁ──────!?」
宙を舞ったと思えば、身体は地面に向かって落下。受け身は取れなかったが大した痛みは無い。爆発による火傷もない。結果、身体には傷が一つもない。
『流石はカケル! 頑丈だぜ!!』
ちょっと前の俺なら、そう言っていた。でも、今はただ呆然としている。
本物のファンタジーにワクワクした時とは別ベクトルのドキドキで驚愕していた。心臓の鼓動が激しく打っている。そのリズムが耳元で鳴っているみたいに凄く煩い。
「一応手加減はしたんだけど、大丈夫? 凄い悲鳴だったんだけど……」
そう声を掛けられて、ハッとする。俺に攻撃した黒いドレスの女の子が近くで立っていた。
年は俺と同じ位。長く伸ばして一つに纏めた赤髪は瞳と同じく燃えるような色合い。見た目と爆発からして炎の魔法でも使うのだろう。
「────可愛い」
今まで会ったことのない美少女に、ついつい心の内をこぼしてしまった。
「……ん?何か言った?」
「いっ、いやっ!? べっ、別に何でもないっ! 元気だって言ったんだ!!」
「そう? ならいいんだけど」
思わず出た言葉はどうやら聞こえなかったようでホッとした。ナンパと思われていたら恥ずかしい。
「そ、それよりも! さっきは何でいきなりあんなことをしたんだよっ!?」
羞恥心を追い出すように地面から勢いよく立ち上がり詰め寄る。
モンスター退治の邪魔に加えていきなり爆発を喰らわせられた怒りを少女に伝えるためだ。
そういえば、スライム達はどうなったかと思い確かめると一匹残らずいなくなっていた。どうやらさっきの爆発で逃げてしまったようだ。
「それは悪いと思ってるわ。咄嗟に魔物を追い払おうとしたとはいえ、貴方に当ててしまったんだもの。でもね、貴方にだって非はあるのよ」
「は? 俺の何がだよ」
「だって、貴方あの魔物の群れに襲いかかろうとしていたじゃない」
ますます理由が分からない。モンスターを倒すことの何がいけないというのか。
「それの何が悪いんだよ」
「複数の魔物を相手に、しかも刃物には凄く強い種類のスライムに大声でお喋りしてから突撃なんて、殺してくれって自分から宣言してるようなものじゃない。見た目弱そうだからって油断するなんて死ぬ気なの? 魔物退治は遊びじゃないんだから真面目にしなさい」
そんな注意を受けてしまった。あぁ、何だ。つまり戦闘ド素人の成りたて冒険者が雑魚敵を前に調子に乗っていると思ったのか?
「そんな心配しなくても大丈夫! だって俺は勇者なんだからな!! モンスター退治なんて、お手の物だぜ!」
「…………」
「あっ! 俺が勇者だって信じてないだろ。本当なんだからな」
「……魔物じゃなくてモンスター? さっきそう言った?」
「そうだけど、それが何だよ?」
「────貴方は、地球にいた頃の自分を覚えてる?」
唐突な質問。あまりにも急過ぎて意図がわからない。
「は? 何だよ、いきなり。────ん、あれ?というか地球って、何でそれを知って」
「いいから、答えて」
「はいはい、そんなの覚えてるに決まって────あれ?」
そう言われて、初めて気付いてしまった。
イセテンに関しては全部覚えている。そりゃあ、大好きなんだから忘れるなんて絶対に有り得ない。
内容は一字一句間違いなく言えて台詞も完璧。
主人公のカケルは勿論、仲間達やモンスターの名前だって忘れていない。
なのに、自分自身を思い出そうとすると途端に分からないことがある。俺の性別は男。好きな食べ物は母さんの作る美味しい唐揚げ
でも、地球にいた頃の自分の名前が思い出せない。
どんな顔でどんな体格だとかもサッパリ。プロフィールに大きな抜けがある。
友人や家族のことを思い出してみる。友達とは一緒に好きなものを熱く語った。悪戯をして先生と共に怒られた。仲が良かったみんなは、何て名前だ?
母さんの作る唐揚げは凄く美味しい。初めて食べた時にほっぺたが落ちると思ったと言ったら、凄く嬉しそうに笑ってくれた。
父さんは本嫌いだった俺に、これなら読みやすそうだし、どうだってイセテンを買ってきてくれた。
でも、母さんと父さんって誰?
綺麗サッパリ消えているというよりも、頭の中に深い霧がたちこめているような。
探しているものの輪郭だけは分かっているのに肝心の名前や姿が上手く分からないような。
酷くモヤモヤとしたおかしな記憶の異常が俺の脳内に起こっている。
…………何だよ、コレ。
「あぁ、やっぱり。この世界の住人は魔物としか呼ばないのにモンスターって呼んで、おかしいと思ったんだけど、やっぱり転移者だったの」
俯いていた冷や汗だらけの顔を上げる。
「…………転移者って、異世界転移した奴をそう呼ぶのか?」
聞きたいことは沢山あった。でも、今はそれだけを聞いた。
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