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3 ようやく、私だけを見てくれた

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「デンレーヤ! お前との婚約は破棄だ!!」

「それは……」

「おっと、お前がする返事は『はい』か『分かりました』の2つだけだ。
否定は無駄な時間稼ぎと見なすぞ」

「……イ……サエ」

「……? お前、今なんと言ったんだ。モゴモゴ喋っていてよく聞こえなかったぞ」

 小さく呟やかれては、まともに聞こえないとウワッキは顔をしかめた。

「返事はハッキリと言えっ!
……まったく、俺を不快にさせる醜態ばかり繰り返すのが原因で俺に嫌われたんだとちゃんと理解しているのか?」

 これは彼の嘘。
 本当の理由は、今の女性に飽きたから捨てようとしている。
 ただ、それだけのこと。

 そのくせに、プライドとは名ばかりのちっぽけな自己保身が少しでも自身を正当化しようとしているようだ。


「分かったなら、もっとしっかりとした返事をしろっ!!」

「ニナリーナ・イーニ・ワトサエ」

「……はっ?」


 デンレーヤがハッキリと告げたのは、魔法の呪文。
 それにより、部屋に置かれていた真っ白いキャンバスに魔法が掛かった。


「キャッ! キャッ!」

 キャンバスは、まるで感情があるかのような笑った産声を上げる。
 そして、生き物じみた動きを見せるなり素早くウワッキの腕へと噛みついた。

「痛……くはない?
おいっ、コイツで返事を誤魔化────ひぃっ!?」

 牙の無い口なので痛みはない。
 だが、蛇が蛙を食べるようにウワッキの腕を呑み込み始めだしたではないか。

「な、何をしている! 離せっ! このっ!!」

 得体のしれない存在。
 捕食に似た行動への恐怖。
まだ自由な片手でウワッキはキャンバスを殴りつけた。
 
「おいっ! 下らない悪ふざけをして何のつもりだっ!?」

「残念ですけど、それでは外れませんよ?」

 焦っている怒鳴り声への、妙に上機嫌な返事。
 デンレーヤの言葉通り、ウワッキには殴った痛みもキャンバスが吹っ飛んでいく感触も感じなかった。

「……な、何だとっ!?」

 底なし沼に手を突っ込んだかのようなズブズブとめり込む感触がするだけ。
 状況が好転するどころか、むしろ悪化してしまっていた。

「うわああああぁぁぁ──────!?!?」

 完全な悪手。
 ウワッキはそのままどうすることも出来ず、情けない悲鳴と共に完全に呑み込まれてしまった。



「……」

 悲鳴が無くなり静かになった後には、完成したウワッキの肖像画とそれを持つデンレーヤ。
 彼女は、部屋の中で一人きりになって佇んでいた。

「……うふふっ……」

 デンレーヤは、魔法によって絵となったウワッキに向けて心の底から嬉しそうに笑った。

「ようやく、私だけを見てくれた」
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