白狼は森で恋を知る

かてきん

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第3章 白狼と最愛の人

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「ミアちゃーん!」

部屋へ入ってきたミア目掛けてシュラウドが抱き着こうとしたのを、兄達が止める。

「おい!せっかくの衣装が崩れるだろうが!」
「いい加減にしろよ!」

兄に掛けているとは思えないような言葉遣いだが、これが兄弟達の普通なのだろう。言われたシュラウドも気にする様子もなく、「じゃ、また後にする~」とヘラヘラ笑っている。

「ミアさん素敵ね。今日の式が楽しみだわ。」

「ねぇ、あなた。」と父リバーに言いながら母はおっとりとした様子でミアを誉めている。リバーは「ああ、」と嬉しそうにほほ笑んだ。

2人の後ろから弟も出てきて「すっごく似合ってるよ。」と声を掛けてきた。
ガイアスの衣装とヘアセットはデザイナーである母と弟がしたらしく、2人は真っ白なミアと対で並ぶガイアスの出来に満足げだ。

「もうすぐ式が始まるのか。」
「なんだか、俺達まで緊張するな。」
「ミア様はともかく、ガイアス大丈夫か?」

少し緊張気味の3人の兄達がミアとガイアスを囲む。

この結婚式の日まで、ジャックウィル家へ何度も足を運んだミア。
転移ですぐに本家に帰ってこれることを知った母は、ガイアスの衣装を自分がデザインすると提案した。そしてガイアスの衣装を合わせる為に2人で頻繁に帰省していたのだ。
そしてガイアスの両親は毎回2人に晩御飯を一緒に取ること、そして泊まることを勧めた。

めったに帰って来ないガイアスが家に頻繁に帰り、他の兄達も一緒にと転移し帰ることが増え、ジャックウィル家の週末は、ずいぶん賑やかになった。

最初はミアに遠慮していた兄弟達も、ミア様呼びは変わらないもののかなりフランクな物言いと態度になった。特に弟は、粗野な兄達とは違ったミアに親近感が沸いたようで、本当の兄弟のように懐いていた。

兄弟でわいわいとしていると、ノックの音がしイリヤが現れた。

「ガイアス様、ミア様、そろそろお時間ですので陛下のいるお部屋にお越しください。」



2人はイリヤと共にミアの父であるアイバンと母シナの待つ部屋の前に転移した。扉を軽く叩くと中へ入り、ミアとガイアスもそれに続く。

「失礼いたします。」

イリヤが声を掛ける先を見ると、アイバンとシナが窓辺の椅子に座っていた。入ってすぐに「おお、来たか!」と嬉しそうなアイバンと笑顔のシナに挨拶をし、座ったところでガイアスがお礼の言葉を述べた。

「本日、ミア様と結婚することができるのは、カルバン様のお力添えがあったからこそです。心から感謝いたします。」

「息子の幸せに尽力しない親はいない。それに君も、国籍は違えどもう私の家族だ。これからよろしく頼む。」

握手を求められ、その手を力強く握ったガイアスは、「はい」と返事をした。

「もうすぐ出番みたいよ。子どもの結婚のお披露目なんてカルバン以来ね。楽しみだわ~。」

わくわくする母を見ているとガイアスの母に通じるものを感じる。2人ともおっとりとしているが、仕事に関しては自他共に厳しいのだ。そしてしっかりと家族を支えている。
今夜の食事会で顔を合わせる2人がどんな会話をするのか実に気になるミアだった。

「そろそろだな。式が始まるぞ。」

アイバンの言葉にシナが頷くと、ミアとガイアスは2人の後ろから宮殿のバルコニーへと向かった。





お披露目式は無事終了した。
国民はめったに入ることのできない王宮と、人気あるミアの結婚のお披露目式ということで、その盛り上がりは物凄かった。

バルコニーに王と王妃、そしてミアとガイアスが現れると歓声が上がり、4人が手を振ってそれに答える。ガイアスはこういった式に何度も参加しているが、当事者としては初めてだ。
緊張しているのか、ミアと繋いだ手にしっとりと汗をかいている。

「ガイアス、皆嬉しそうだね。」
「ああ。」

ミアが歓声の中話しかけてきたことで、ガイアスの緊張は少し解れた。そんな2人の様子を、先に席についていたラタタ家とジャックウィル家は後ろから見守っていた。

「ちょっと、まだ泣いてるの?」

カルバンはそんな2人の後ろ姿を見て、また涙を流していた。
その後、次期国王である第一王子の涙があまりにも美しいと話題になり、カルバンの人気はさらに高まった。



「俺達はガイアスの屋敷に一回行ってくるから。」
「夜の食事会までに戻るんだぞ。」

控室に集まる家族にミアがそう告げると、カルバンがじろっと見てきた。涙で腫れた目で迫力もなくなったそれを「はいはい」と軽く流しガイアスの腕を取ると、屋敷の前まで転移した。



「おかえりなさいませ。」

執事の声に、屋敷の使用人達が集まってくる。皆、2人の姿に目を奪われたようでキラキラとした視線を送られる。皆「おめでとうございます。」と声を掛けてから、ミア達に式の様子を聞く。

「う…うう…お二人とも素敵です…」
「わぁぁ、ご結婚本当におめでとッ…ござ…いますッ」

涙腺の弱いメイド2人がボロボロと涙を流しながら祝福し、メイド長は「まったくこのようなハレの日に…」と用意していた2枚のハンカチを手渡す。

メイド達の大泣きに「おいおい」と言っていた料理長だったが、ずっと見守ってきたガイアスが結婚とあって涙腺を刺激されたのか、ぐっと拳を口に当てる。

「あれ?料理長!泣いているんですか?」

皆がつっこまずにいたにも関わらず見習いの青年は、顔を覗き込んでニターッと悪い笑みを浮かべている。

「うるせぇ!黙れ!」
「いっったぁ!!」

結局いつものようにゲンコツが頭に落ち、のたうちまわる青年。庭師の男も、その見習いの青年もそれを横目で見て溜息をついた。

わいわいと明るい声が響く玄関で、執事がガイアスとミアの前に出て声を掛けた。

「私はガイアス様が生まれた時からお側に仕えさせていただいておりますが、今日ほど嬉しい日はございません。」

執事はそう言うと2人を見て頭を下げる。

「これからも仲睦まじいお二人を見守ることができること、心から楽しみにしております。」

「ああ。これからはもっと賑やかな屋敷になるだろう。よろしく頼む。」

ガイアスは執事と、そして皆の方へ顔を向けた。

ガイアスは、最近屋敷へ訪れるようになった兄達や、これから交流を深めるであろうミアの家族の顔を思い浮かべる。そして、婚約の祝賀会の時に言ったマックスの「屋敷に遊びに行きたいっス!」の言葉を思い出した。隊員達が家に押し寄せてくる想像すると、その地獄絵図に少し眉が寄る。

ガイアスは隣で執事と笑いながら話すミアを見た。

(ミアがこの屋敷に来るようになってから、屋敷の雰囲気がずいぶん柔らかくなった。)

皆、最初は王族に失礼なことをしないようにと気を張っていたが、だんだんと慣れ今ではミアが本当に心地良いと感じる空間を作ろうと努力している。
そして客人が増えたことで、使用人達も張り合いがでてきたのか、活き活きと仕事をしている。

そんな屋敷の変化はガイアスにとっても喜ばしく、この屋敷にはミアが必要なのだと改めて感じる。

「少し森に寄ってから、王宮へ行こうか。」
「いいね!でも、皆大丈夫かな?」

ガイアスの提案にミアは賛同するが、王宮に残しているガイアスの家族のことも心配になったようだ。

初めて訪れたシーバ国の宮殿、そして王と王妃、また王子王女の面々の前で家族がどんな様子でいるのか、ガイアスには想像もつかない。

(頭のおかしい長男は置いといて、他の兄さん達は緊張で固まってるだろうな。)

ガサツな3人の兄達が大人しくしているところは少し見てみたいが、準備ばかりで忙しかったガイアスは、ミアと早く2人きりになりたかった。

「大丈夫だ。シュラウド兄さんがいる。」
「はは、たしかにね!」

後はシュラウドに任せておこうと、2人は使用人達に見送られ森へ転移した。
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